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それぞれの気持ち

 翌朝、わたしは目を覚まし、昨日のことを思い出していた。いろんなことが起こりすぎて頭の中で整理ができなかったのだ。


 とりあえず洋服に着替えたとき、わたしの部屋の扉がノックされた。

 扉を開けると、杉田さんが顔を覗かせる。


「大丈夫? 千春から電話があって君の様子を見てきてほしいって言われたんだ」

「大丈夫だよ。でも少しだけ話をしていい?」


 千春がどうして彼に電話をしたのかなんとなく気づいた。兄のしたことの後始末を彼に託そうとしたのだろう。

 彼はわたしの部屋の中に入ると、扉を閉めた。


 わたしは短く息を吐いた。


「杉田さんは自分の好きな人が好きでもない人とキスしたりするのって軽蔑する?」


 彼は苦笑いを浮かべていた。


「昨日、尚志さんにそう言われた?」


 わたしは返事に詰まる。


「軽蔑はしないけど、嫌だと言えば嫌だよ」

「そうなの?」

「僕も人のことは言えないけど、好きな人が僕を見てくれるなら独占したいと思うかな」

「杉田さんもそんなことを考えるんだ」

「考えるよ。人並みにはね」


 彼は苦笑いを浮かべると、天井を仰いだ。

 彼が心に描く好きな人というのはわたしのことなのだろうか。

 そうだったら、わたしはひどいことを言ってしまったのかもしれない。


「変なこと聞いてごめんなさい」

「気にしないで。あのシーンだって嫌なら監督にカットしてもらうように頼もうか? 正直あんなシーンいらないと思う」

「わたしは平気だよ。杉田さんとなら嫌じゃない」

「ならいいけど、無理はしないでいいよ」


 彼はそういうと、わたしの額に触れた。


「千春も気にしていたよ。なくてもいいシーンだから、とね。彼女も力になってくれると思う」


 そう杉田さんが微笑んだ。

 二人のやさしさを感じ取った。わたしはもっとしっかりしないといけない。

 そう決めたのだから。



 撮影が徐々に進んでいく。わたしが落ち込むたびに彼は元気づけてくれて、彼の存在を何よりも心強いと思うようになっていた。


 千春はあれから本格的に体調を崩してしまったようで、しばらく兄の家で療養することになったようだ。杉田さんはそんな彼女に何度か会いに行っていたようで、千春がそのことを報告してくるたびに、心がほっとするのを感じていた。






 電話越しに聞く彼女の声はいつもの彼女のもので、わたしは元気な彼女の様子を確認し、安心してしまっていた。 


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