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撮影前のひと時

 翌朝、リビングにいくと、朝食を作ってた監督から地図を渡された。そこには各所に印がつけてある。


「これは?」

「予定している撮影地だよ。見たかったら杉田君と見てくるといい」

「ありがとうございます」


 彼は笑みを浮かべると朝食の準備をしていた。


 杉田さんたちが来るのは夕方以降だと言われていたため、見に行くのは必然的に明日以降になりそうだ。

 その日も朝も昼も成宮秀樹がごはんを作ってくれた。お父さんと二人で過ごしたらこんな感じなのだろうかとぼんやりと考えていた。


 夕方、わたしの部屋がノックされる。本井さんだろうと軽く考え、扉をあけると、髪の毛を二つに分けてゆった白のギャザースカートにピンクのニットをみにつけた少女が微笑んでいたのだ。


「千春、きてくれたの?」

「きちゃった。明後日にはもう帰らないといけないけどね」


 彼女の背後にはもう一人。杉田さんだ。彼はわたしと目が合うと会釈する。


「さっきついたんだ。成宮監督に、ここにいると聞いてね」

「ここは昔と変わらないね」

「千春はここに来たことあるんだね」

「十年ぶりかな。お母さんが亡くなってからは、伯父さんとかがたまに様子を見にきていた程度だったんだ」


 彼女の母親が亡くなり、その家族は大きく変わったのだろう。

 わたしはいたたまれない思いでその話を聞いていた。

 綺麗なのはあまり使っていないからかもしれない。


「千春はどこに泊まるの? わたしの正面の部屋が開いているからそこに泊まれば?」

「そうしようかな」


 彼女は首を縦に振る。

 彼女は杉田さんの背中を軽くぽんと押した。

 杉田さんが千春の前に出る。


「君のお母さんからこれを預かってきたよ」


 杉田さんは鞄の中から白いビニール袋を取り出した。そこからはミカンが覗いている。


「お母さん、そんなものを渡したの? こっちでも買えるのに。昨日、わたしてくれればよかったのに」


 わたしは申し訳ない気持ちで受け取った。


「僕が何か渡したいものがあったらって無理を言ったからだと思うよ」


 杉田さんはそう笑顔で返した。


「千春、お前はどの部屋に泊まるんだ?」


 おじさんが旅行バッグを手に階段をあがってきた。千春の荷物を持っていたのだろうか。


「この部屋にしたよ」


 千春はそういうとわたしの正面の部屋を指さす。成宮秀樹はその部屋の扉を開けると、荷物を運び込んだ。


「数日滞在するのはいいが、きちんと帰れよ? お前の本分は勉強なのだから。お前が留年でもしたらあいつに申し訳ない」

「分かってますよ」


 あいつとは千春のお父さんか尚志さんだろうか。


「部屋に行くね」


 千春はそう言うと、部屋に入っていく。わたしは千春がいなくなって、彼女に撮影場所を見に行くか聞けばよかったと気づいた。


「撮影場所を見に行かない? 地図もらったの」


 わたしは成宮秀樹からもらった地図を杉田さんに渡した。

 学校でのシーンはスケジュールの都合からなのか極力抑えているようだった。

 ほとんどがこの景色を背景に撮ることになる。そのため、撮影場所もそうした外がメインだ。


「いいよ。明日かな」

「そうだね。もう今日は遅いし」

「僕はどこを使えばいいんだろう」

「杉田さんはわたしと監督の部屋の間の部屋。藤井さんはその隣だよ」


 藤井というのは杉田さんのマネージャーだった。彼と本井さんの話し声が階下から聞こえてはいた。


「案内するよ」


 わたしは彼を彼の部屋に案内した。彼の部屋の中もわたしの部屋と同じような作りになっている。


「杉田さんの家ってどんな感じ?」

「普通の家だよ。多分、果歩みたいなね。僕の意思を尊重してくれるから」

「そうか。わたしの家と少し似ているね」


 わたしは他愛ない言葉を交わし、部屋を出て行こうとした。

 すると、本井さんと部屋の前でばったり出くわした。


「今からごはんよ」

「わかりました。わたしは千春を呼んできます」

「千春さんならさっき、散歩に行くといって出て行きましたよ」

「誰かと一緒に?」

「一人で。土地勘はあるから心配しなくていいと言っていました」


 わたしと杉田さんは先にごはんを食べることにした。


 千春が帰ってきたのはそれから二時間ほど後で、どこに散歩に行っていたのか聞くのもおかしい気がして、そのことには触れず他愛ない時間を過ごした。


 翌日わたしたちは千春を含め三人で撮影場所を見学した。その翌日、千春は成宮秀樹に近くの駅まで送ってもらうといい、別荘を後にした。


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