嫉妬
小説の練習(大嘘)
日中の激しい運動が終わり、汗だらけの体を清めるために風呂に行く。木村にとって身体を洗えるということ以上に、密かに想いを寄せている鈴木の芸術的なまでの裸体を見ることが出来るということが楽しみだった。
「ぬわあああん、疲れたもうー。キツかったっすね今日はー」
「なあ今日はもうすげえキツかったぞ」
「本当に……」
三人各々が練習に対する愚痴を述べた。事実、秋吉師範代が押し付けてくる訓練は決して生ぬるいものではなかった。木村は初日に秋吉は赤ん坊を川に投げ捨て、その上踏みつけて長時間沈める程のサディストだと思った。一週間経った今でも全員はその過酷さに慣れないでいた(非力である木村は特にそうだった)。
「風呂入ってさっぱりしましょうよ」
「入ろうぜ早く。おい木村、早くしろ」
「早くしろよ」
「まず背中洗いますね」
そう言って鈴木先輩は三浦先輩の体を洗い始めた。木村はなぜか三浦に対して憎悪の念を抱いたがそれをおくびにも出さずに風呂桶の中でじっとしていた、彼の片想いの鈴木の一物を横目で見ながら。しばらくその湯の暑さに耐えていると、三浦が
「おい、次木村、お前もだよ」
と言った。やや戸惑いながらも木村はしぶしぶ鈴木と交代して三浦の全身を洗った。
「じゃ、流しますね」
「あっ、おい待て。肝心なところ洗い忘れてるぞ」
「えっ、肝心なところ……?」
「何とぼけてるんだ、ここ洗えよ」
そう言って指し示したのは彼の隆起した一物だった。木村は彼の汚らわしい物に触れたくない思いから鈴木に助けを求める視線を送ったが、
「ああいい風呂」
などと呑気なことを言っていた。これはもう洗うしか無いのだろう。その気持ち悪い感触に耐えながらしばらく洗っていると、鈴木が三浦に風呂から上がるよう提案したので木村はそれに従うようにさっさと三浦の泡だらけの体に水をかけた。
「上がったらビールですかね、先輩?」
「そうだな」
「多分冷えてますよー」
「今日はいっぱい呑むぞ。…よし、もういいぞ。あーさっぱりした」
「ふぅービール!ビール!」
「おいはやく呑もうぜ、おい冷えてるかー?」
「大丈夫っすよ、冷えてますよ。ふぅー」
鈴木と三浦が交わすこの何気ない会話でさえも木村にとっては恨めしかった。僕も鈴木先輩とふたりっきりで濃い話をしてみたい、と思い始めたのはつい最近からのことではなかった。たとえたまたま部室でふたりきりになったとき、あるいは、三浦をまじえて談笑している中でさえも木村は積極的に鈴木に近づいていこうとはしなかった。不意に鈴木先輩に少しでも恋愛感情を含むような発言をしたら彼に拒絶されてしまうだろう、と思っていた。そうして木村は自分から進まずむしろ後退して受け身になろうとした。けれどそれは後になって無意味だと知る。




