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春の香りともう一つのもの

作者: 戯画

春が懐かしくなったので書きました。稚拙な文章ですが、最後まで読んで頂ければ幸いです。

私は昔を思うと、途端に私の中で温かい物が流れ始める。私はこの出来事を「春の香り」と表現しておこう。

何が私の中で流れているのか。一つ言えることは悲観的になることはなく、また楽観的になることでもない。しかし私はその宙に浮いたものを掴みたくなってしまうのである。だとすれば、私はそれを求めているに違いない。だが、この現象は刹那、起こるものである。気付いても掴みとることは出来ない。それはまるで舞い落ちる桜の花びらのようで、掴んだと思えど手から零れ落ちてしまう。

私はその原因を探るために人づてで聞いた所、旧友から「それは懐かしさだよ」と言われて初めてこの感覚の正体を知った。私は「この現象は懐かしさなんだ」と呟くとまた春の香りが流れ始めた。そうは言ってもやはり、この感覚は不思議なものである。私は懐かしさが欲しいのではない。旧友と懐かしさに浸りたいのではなく、あの感覚をもう一度味わいたいからである。だから、私は今日もその媒介となるものを見つめる。それは私の日課でもあり、あの記憶を風化させないためにも必要な心がけでもある。これが壊れた途端、私は春の香りを失うと同時に懐かしさというものも失ってしまうだろう。

そうして私は箱の中に春の香りをしまった。来年もまたこの香りを味わおう。そう思った瞬間、窓から風がびゅうっと吹き込んだ。一瞬身構えると、目に飛び込んできたのは一枚だけひらひらと舞い落ちる桜の花びらであり、それは私の手の中にすっぽり収まった。私は困惑にも似た表情を浮かべた後、天井に向かってその花びらを翳した。すると、今までセピア一色であった景色を桃色が包み込んだ。呆気に取られて、少しの間言葉を失っていたが、私は直感した。春の香りともう一つのものだ。と。

私は願っている。この桃色の景色がセピア一色に包まれんことを。それはあなたにとっても、私にとっても有益なはずだから。

そして私は春の日差しの中に桜の花びらを返した。その花びらはどこまで飛んでいくのかと期待していたが、道路に向かってゆらゆら流れていった。

その日、窓から身を乗り出してうなだれる少年を道路から見た人は、きっと多かったろう。

一読して頂いたあなたに感謝を申し上げます。活動は不定期となりますので、ご了承下さい。

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