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三九品目

昨晩、三八品目も投稿しています。


レスト様がレオンハルト様を連れてお屋敷に戻ってきてしばらく後にフェミルアからの荷物が届きました。

私は王都まで長旅をしてきた方達を準備していた客室に案内した後になぜかレスト様達が話し合いをしているお部屋に呼び出されてしまいました。

自分が呼び出される理由に心当たりがなく、気にしてはいないと言っていたルーディス様が本当は怒っていて、レスト様やレオンハルト様に何かを吹き込んでおり、ご褒美……罰を受けるのではないかと緊張してドアをノックします。

レスト様の入れと言う声が聞こえて部屋に入ると3人が座っている中央に置かれているテーブルの上には白い粉?


……危ない薬?


一瞬、そんな事を思ってしまいましたけど、すぐにそんな事はないかと考え直す。

なぜなら、レスト様は相変わらずの無表情ですが、レオンハルト様は何か企んでいるのか楽しそうに笑っているのです。


……あの笑みは絶対に何か企んでいる。そうに違いない。


イヤな予感がするのですけど、呼び出された理由を自分から聞くわけにも行かず、レスト様の言葉を待つ。


「ミルア、これを見てくれるか?」

「は、はい。失礼します……これ、小麦粉ですか?」

「そうだ。ルーディス達、フェミルアの領民達が育てた小麦から作った小麦粉だ」


レスト様に呼ばれて、テーブルの前に移動する。

白い粉を見るように言われて覗き込む。

その白い粉は私が良く知っている物でした。

なぜ、小麦粉を3人で囲んでいるかわからずに首を捻る。

レスト様は私の疑問に答えてくれるのですけど、その声を聞く限り、いろいろと納得がいっていなさそうです。

だけど、小麦粉が運ばれてくる荷物だったら、隠していた理由ってなんでしょうか?


「あの。ルーディス様、荷物って小麦粉ですか?」

「レストにも確認されたが、言っていなかったか?」

「……初耳です」


小麦粉を持ってくるなら、最初から話してくれても良いのにと思い、ルーディス様へと視線を向ける。

ですけど、ルーディス様はとぼけているのか、本気なのかわかりませんが言ったと言っており、記憶をさかのぼって見てもまったく聞いた覚えのない私は大きく肩を落としてしまいます。


「ルーディスは仕方ないね」

「……ハルト、お前はそう思っていないだろう?」

「そんな事はないよ。何より、国内で小麦がそれなりの量、準備できるんだ。喜ばしい事だと思っているよ」


レオンハルト様はルーディス様に振り回されていないためか、私達3人のやり取りを眺めて楽しそうに笑っています。

笑われているのが面白くないのは私だけではないようで、レスト様はレオンハルト様をその微動だにしない瞳で睨み付けた。

レオンハルト様はレスト様に詰め寄られるのは苦手のようで視線をそらすとシュゼリア王国のために良い事だと話をそらそうとする。


「それは確かにそうだ……ただ、それなら、今年は一定の収穫が見込めそうだと言うのなら、なぜ、連絡1つ入れないかが気になるんだが」

「それはあれだ。昨年にそれなりに結果がでたから、範囲を広げて植えてみたら、予想以上の収穫が見込まれそうになったのだけど、研究で出された推測とその推測から導き出される結果には差異があると言う事だな」

「……昨年の時点でまずは報告書をまとめようとは思わないか?」

「報告書など無意味だ。推測とそこから導き出された結果があれば充分だろう。予測未満の結果ならば、失敗を踏まえて新たな推測を立てて、実行に移すだけだろう」


話を聞く限りですが、すでに昨年の収穫時期にはフェミルアの小麦は一定の収穫量を見込めていたそうです。

ただ、ルーディス様が重要視している場所はレスト様とはまるっきり異なっており、2人の意見が合致する事はなさそうです。


小麦粉がフェミルアで収穫できた事はわかったけど、私が呼び出された理由がわからないんですけど。

今年は小麦の収穫量が大幅に落ちる事はレスト様やレオンハルト様、オーミットの出身者の人達からも聞いて私でも知っている。

そこでフェミルアの小麦でどれだけ、必要分まで近づけるかは私にはわかりません。

この小麦粉でもしかしたら、お父さんのケーキを再現できるのではないかと言う考えも浮かばなくはありませんけど、自慢じゃありませんが良質の小麦粉かどうかを見極める自信は私にはまったくありません。


「ミルアちゃんはどうして、自分がここに呼ばれたかわからないって顔をしているけど、簡単だよ。これでケーキを焼いて欲しいんだ」


……なぜに?


レスト様とルーディス様のやり取りにどうして良いのかわからずに苦笑いを浮かべているとレオンハルト様が私にケーキを焼いて欲しいと言ってくる。

確かにフェミルア産の小麦粉でケーキを焼いてみたいと言う気持ちはあります……でも、口に出してしまった不安を思い出してしまいすぐには頷けない。


「わ、私がですか? そう言うのは料理長とかに美味しい料理を作って貰った方が良いんじゃないですか? ほら、私はただのメイドでケーキを焼くのは趣味ですし、そう言う物を作るのはしっかりとした料理人の方達が作るのが良いと思うんです。そ、そうです。レオンハルト様がいるんですし、王城の料理人達が作るのが1番良いんじゃないでしょうか?」

「そう。断る気?」


踏ん切りをつける事ができず、自分では役不足だと言って断ろうとする。

首を大きく横に振って見せるのですけど、レオンハルト様はそんな私を見て、楽しそうに口元を緩ませました。


……こ、断れる気がしない。


レオンハルト様の笑みに背中に冷たい物が伝います。

助けを求めようとレスト様とルーディス様へと視線を向けるのですが、お2人は合致する事のなさそうな言い合いを続けている。


た、助けはなさそうです。

助けがない状態で何とか逃げる方法を画策しようとするのですけど、まったく良い考えが浮かびません。


「で、どうするの?」

「こ、断ると言いますか……」

「それなら、焼いてみようか? お父さんのケーキ、再現したいんだよね?」


逃げる方法を考えている姿が楽しいのかレオンハルト様の笑顔はさらに喜色に満ちて行くのですけど、私としては生きている心地がしません。

何とか断りたいのですけど逃げ道が見つかる気はしない。

緊張で口から出る言葉はかすれているのですけど、はっきりと断る事はできない。

迷っている私を見て、レオンハルト様は不意に表情を引き締めた。


「そ、それは、で、でも、小麦粉が変われば再現できると言うわけではないですし、腕の差があるんですから」

「でも、何かが変わるかも知れないなら、やってみるべきじゃないかな? ルーディスも失敗をしたら、新たに推測を立てて、次に役立てれば良いんじゃないかな? 違うかい?」


レオンハルト様の言っている事もわかります。

そこにお父さんのケーキを再現できる可能性があるのもわかっています。

ただ、情けない私には勇気が出ないだけです。


命じているのはこの国の王位継承者様、庶民の私が断れるわけなんてないのもわかっている。

それでも言葉がでてこない。

ケーキを焼きたいと言う気持ちと焼いてはいけないと言う気持ちで答えを出す事ができない。


「わ、私は」

「それじゃあ、まずは腕の差か確かめるためにもケーキを焼こうか? レスト、ルーディス、話し合いはミルアちゃんのケーキを食べながらにしたいんだけど、いつまで、その話し合いは続くんだい?」


私の返事を待ちきれなくなったのか、レスト様は席を立つと未だに言い合いを続けているレスト様とルーディス様に声をかける。

その言葉にお2人は動きを止めるとすでに私にケーキを焼かせる事は確定しているようで席から立ち上がってしまう。


……逃げたくない。でも、逃げ出したい。


矛盾する2つの気持ち。


「ミルア」

「は、はひ」

「どうかしたか?」

「何でもありません……」


部屋を出て行こうとするレスト様達の背中を追いかけようとするのですけど足が動かずに立ち尽くしていた時、レスト様に名前を呼ばれて声を裏返してしまう。

私の様子に何かを思ったのでしょうか、レスト様は優しく声をかけてくれるのですけど、答える事ができない。


「……何でもないようには見えない」

「そ、そんな事はないですよ。ほ、ほら、いつも通りです」

「嘘を言うな。ハルト、ルーディス、ミルアの調子が悪そうだ。この件は後にして欲しい」


嘘を吐いて笑顔を作ろうとするのですけど顔が引きつっている気がします。

自分でも上手く笑えている気がしていないのだ。

レスト様には当然、私が何かを隠している事などはお見通しなのでしょうか、部屋を出て行こうとしているレオンハルト様とルーディス様に頭を下げてしまう。


どうして?

これは私のただのわがままなんです。

どうして、レスト様が頭を下げるのですか?

悪いのは全部、私なのに……謝らないといけないのは私なのに。

それもただのメイドのために……

レスト様が謝る必要なんてないのに……


レスト様がお2人に頭を下げている姿に胸が押し付けられるように苦しくなる。

言わなきゃいけない。


「……わ、悪いのは私なんです。レスト様、頭を上げてください」

「ミルア、どうしたんだ?」


身体が震える。情けなくてボロボロと溢れ出てくる涙が頬を伝う。

その震えを抑えつけたくて何かにすがり付きたくてレスト様の服をつかんでしまう。

私の様子にレスト様は慌てているのか、心配そうに涙でぐちゃぐちゃになっているであろう顔を覗き込む。

こんな顔を見せたくない。恥ずかしいのに涙が止まらない。


「怖いんです……お父さんのケーキを再現できるかも知れないのに、再現出来たら、目標が無くなってしまいそうで……私を支えていたすべてが無くなってしまいそうで」

「ミルア……それなら、焼かなくても良い。私はミルア、お前に無理強いをしていたみたいだな。辛いなら無理をしなくて良い。私はケーキよりもお前が笑っていてくれた方が良いんだ」


涙と一緒に本心が溢れ出してきてしまう。

私が吐き出した言葉は優しい彼を傷つけただろう。

あれだけ、甘党なレスト様がケーキなどどうでも良いと言ってくれるほどなのだから……


「ち、違うんです。でも、ケーキも焼きたいんです。ケーキを焼いたらレスト様が笑ってくれるから、だから、どうして良いかわからなくて頭の中がぐちゃぐちゃでどうして良いのかが分からないんです」

「ミルア」


その言葉に自然と言葉が出てきてしまう。

レスト様が笑ってくれるから、ケーキが焼きたい。レスト様に私の焼いたケーキを食べて貰いたい。

自分でも思ってもいなかった言葉。

お父さんのケーキを再現したいと言う私の言葉の中にあったもう1つの私の本心。


それに気が付いた時、恥ずかしさで逃げ出したくなりました。

ただ、私が逃げ出す事はできませんでした。

なぜなら、私の身体はすでにレスト様の腕の中に収められていたからです。

身体を動かしてみるのですが、動く事ができません。


「あ、あの。い、今のはなしでお願いします」

「とりあえず、レストが喜ぶミルアちゃんのケーキを焼いて貰おうかな?」

「……新しい目標が見つかったようだな」


自分の今の状況とかなり恥ずかしい事を言った事に先ほどまで、溢れ出ていた涙は嘘のように止まってしまうと同時に顔が一気に熱くなって行くのを感じる。

何とかレスト様の腕の中から脱出をするためにレオンハルト様とルーディス様に助けを求めようとするのですが、レオンハルト様はニヤニヤと笑い、ルーディス様は呆れたようにため息を吐いていました。

慌てて、自分の言葉を否定しようとするのですがお2人は私とレスト様を置いて部屋を出て行ってしまう。


「レ、レスト様、放してください。絶対に勘違いされています。私はレクサス家のメイドとしてレスト様が喜んでくれる事をしたいだけです」

「……そうか」


レオンハルト様を先に行かせると途中で先輩達に何を言うかわからない。

自分の言葉を誤魔化すようにレスト様に放して欲しいと懇願するとレスト様は小さく頷いた後、私の身体を放してくれました。

解放された私はレスト様の顔を直視できる状況ではないため、逃げるようにレオンハルト様とルーディス様を追いかけるために部屋を駆け出しました。


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