三七品目
「ミルアさん」
「ロゼット様、お久しぶりです。警備ですか?」
ルーディス様がしばらくレクサス家に滞在するとの事でメイド長にいくつか買い物を頼まれました。
少しくらいなら、どこかによって来ても良いとも言われたのでアイリスさんのお店にでも顔を出そうかと考えていた時、騎士鎧を身にまとったロゼット様を見つける。
彼も私に気が付いたようであり、笑顔で挨拶をしてくれるのですがその笑顔にはどこかぎこちなく見えます。
何か問題でもあったんでしょうか?
騎士鎧と言う事は任務中でしょうし。
「いえ、街を歩く時はなるべく、騎士鎧の方が良いかと思いまして、騎士鎧を着ていると争いをしていても少し冷静になってくれる人達もいますからね」
「そうなんですか」
「ミルアさんはレストに何かを頼まれたんですか?」
ロゼット様はお仕事ではないようです。
それなら、何でしょう? ロゼット様は聖騎士様ですから訓練もあるでしょうし。
ロゼット様は私が何を考えているのかわかったようで苦笑いを浮かべると私に質問をしてきます。
「そうですね……」
「何かありましたか?」
特に隠す事もないため、頷いた時、ルーディス様の顔を思い出しました。
レスト様やレオンハルト様とご友人と言う事はロゼット様ともご友人ですよね?
ロゼット様は私の様子を不審に思ったようで小さく首を傾げている。
「えーと、ロゼット様もルーディス様とご友人なんですよね?」
「ルーディス? ルーディスがどうかしたんですか?」
「あの、先ほど、レクサス家にルーディス様が訪れたんですけど……つかみどころがなさ過ぎて」
ルーディス様の名前を出すとロゼット様の表情が小さく歪む。
嫌悪感は見えないですけど、苦手にはしていそうですね。
状況がなんとなく察する事ができたためか、私も同じ気持ちである事を伝えるとロゼット様はバツが悪そうに笑う。
私も釣られるように苦笑いを浮かべてしまい、2人で顔を見合わせた後、小さく声を漏らして笑ってしまう。
「ルーディスが王都に来ているんですか? 何もおかしな事が起きなければ良いですけど」
「……やっぱり、おかしな事になりそうなんですか?」
「たぶん……いえ、間違いなく」
しばらく、2人で笑った後、ロゼット様は小さくため息を漏らす。
ロゼット様が嘘を吐くようには思えないため、眉間にしわが寄ってしまいます。
「そうなんですか……最低でも後3日」
「えーと、私でよければある程度のルーディスの対処法をお教えしますけど」
「本当ですか。お願いいたします」
フェミルアからのお客様が来るまで後3日、その後、レオンハルト様の予定次第で延長がありとなると気が重いです。
どうやら、私の不安は顔に出ていたようでロゼット様は長いルーディス様との付き合いから教えられる事があると思ってくれたようです。
その言葉は私にとってはとてもありがたい言葉であり、すぐに頷いてしまいます。
ロゼット様は私の反応が面白いのかくすくすと笑っており、少しだけバツが悪くなってしまいます。
「それでは立ち話もなんですから、どこかに……ミルアさん、時間は大丈夫なんですか? 仕事の途中ですよね?」
「時間は大丈夫です。少しくらいなら問題ありませんよ」
「そうですか? それなら……ここでしたら、アイリスさんのお店も近いですから」
「そうですね。私はかまいませんよ」
ロゼット様は私の時間を気にしてくれたんですけど、それくらいなら問題はまったくないです。
頷くとロゼット様はアイリスさんのお店に誘ってくれるのですが、ロゼット様の顔が少し赤い気がします。
アイリスさんのお店に行こうと考えていたので特に反対する理由もない私はロゼット様と一緒にアイリスさんのお店に向かいました。
「……本当に申し訳ありません。ミルアさんまで追い出されてしまって」
「別にかまいませんよ。ですけど、ロゼット様はまだ、アイリスさんのお店に出入り禁止だったんですね」
「はい……」
すぐにアイリスさんのお店に到着したのですけどアイリスさんはロゼット様の顔を見るなり、不機嫌そうな顔になるだけではなく、『出で行け』と一言だけ口に出しました。
どうやら、アイリスさんは窃盗団の件でロゼット様の部下がお店の悪口を言った事をまだ根に持っているようです。
ロゼット様は何とか謝ろうとするのですが謝罪の言葉の前にお玉が飛んできたため、私に当たってはいけないと考えたロゼット様はすぐにお店からでてしまう。
店から出た私とロゼット様はブライさんのお店に移動するとお店の外に置いてあるテーブル席を借りて座る。
ロゼット様は席に座るなり、私に頭を下げてくれるんですが、正直、責める気は無いです……と言うか、ここまで申し訳なさそうに謝るロゼット様に追い打ちをかけるわけにも行きません。
それにどうやらロゼット様が騎士鎧を着ているのはアイリスさんに謝りに行く度に何かが飛んでくるため、その飛来物から身を守るためのもののようです。
……騎士鎧をこんな風に使って怒られないんですかね? 厳罰はなかったとは言え、窃盗団を捕まえられなかった聖騎士団の部隊長なわけですし。
「アイリスは怒ると長いからね。まあ、元気だしなって」
「ありがとうござます」
落ち込んでいるロゼット様を励ます言葉が見つからない私を見て、リトスさんが気を使ってくれる。
彼女は聖騎士であるロゼット様にも怯む事無く、彼の肩をバンバンと叩き、ロゼット様はいつまでも落ち込んでいると迷惑がかかると思ったようで笑顔を作る。
ただし、その笑顔はかなりぎこちない。
「それで、ロゼット様はアイリスに謝りたいだけ?」
「も、もちろんです。ふ、不埒な事などは考えていません」
「そうなんだ」
リトスさんはお客さんがいない事を良い事にエプロンを外すと同じテーブル席に座るとロゼット様の相談に乗ろうとしてくれる。
若干、口元が緩んでいるような気がするけど、リトスさんとアイリスさんは同じ年だけあって昔から仲が良いし、問題はないと思います。
ただ、ロゼット様の相談にまで乗っている時間は私にはないから、どうしようかな? 時間がかかるなら先にレクサス家のお仕事をしてきた方が良いかな?
2人とも私の事を無視して話し始めているため、居場所のない私はお店の奥を覗く。
お店の奥ではブライさんがパンを焼いており、奥からは良い香りがしている。
その香りによだれが溢れ出しそうになるのですけど、何とか、我慢した時、ブライさんと目が合う。
「……どうかしたか?」
「ブライさん、こんにちは。すいません。場所をお借りしています」
「別にかまわない」
ちょうど、パンが焼き終えたようでブライさんはオーブンからパンを取り出しながら私に声をかけてくれる。
テーブル席を借りている事を話すとブライさんは気にしていないと言ってくれるですけど、職人気質のブライさんは表情を変える事はない。
レスト様ほどまでは行かないにしてもこの愛想がないのが、不人気店の原因なのではないかと思うのですが口に出す事はできません。
私の様子にブライさんは小さく息を漏らすと焼きたてのパンを持ったまま、テーブル席に運んで行く。
「……リトス、あまり、余計な事に首を突っ込むな。そう言うのは他人が首を突っ込むと面倒な事になる」
「別に首を突っ込もうとしているわけじゃないわよ。面白そうな話だったから」
「なお、悪い」
ブライさんはサービスだと言いたいのか、パンを取り分けながら、リトスさんを止める。
リトスさんは首を突っこんでいるつもりはないと笑うのですが話を聞く限り、ロゼット様を任せてはいけない事は直ぐに理解できてしまう。
ブライさんも私と同じ事を思ったようで大きく肩を落とす。
「ロゼット様、それでルーディス様の対処法を教えていただけませんか? あまり、時間もないので」
「そ、そうですね。ルーディスへの対処法は……」
「対処法は?」
このまま、リトスさんに任せて置いてもロゼット様のためにならない事が理解できた私はロゼット様に声をかける。
ロゼット様もブライさんの登場でリトスさんにからかわれていた事は理解できたようで自分を落ち着かせようとしたのか小さく深呼吸をする。
リトスさんはつまらなさそうですが彼女の相手もしていられない。
「……話のほとんどを聞き流せば腹も立ちませんよ」
「……それ、まったく対処法になっていませんよね」
「そうですけど、すべて対処していると胃を痛めますよ」
「ロゼット様は気苦労してそうですからね」
ただ、ロゼット様の口から出た対処法は対処法とも言えない。
困り顔の私を見て、ロゼット様は視線をそらすのですけど、ルーディス様がいる時にはレスト様、レオンハルト様、ルーディス様の間に挟まれて大変だった事は容易に想像が付きます。
そのため、責める事も出来ずに苦笑いしか出てきませんでした。
「……良くわからないけど、ミルアちゃんが居ればアイリスに追い出されないと考えたけど、失敗したって事で良いのよね?」
「余計な事に首を突っ込むな」
ルーディス様のこれと言った対処法は聞く事はできませんでしたけど、ブライさんのパンもごちそうになれましたし、良しとしたいと思います。




