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十三品目

「……眠い」


昨日の夜の事が頭の中をぐるぐる回り、まったく眠れなかったのですけど、太陽は昇るわけです。

眠れなかった私には日の光はきつい。


……太陽のバカ野郎。


太陽に文句を言っても仕方がない事はわかっているのだけど、悪態しか出てこない。

文句を言っていても仕方ないため、今日も労働にいそしみます。

働いていれば余計な事を考えなくても済むしと思い、中庭の掃除をしていたんです……そう思っていたはずなのに。


またも、レスト様の視線が背中に突き刺さっています。


……仕事がしにくい。でも、レスト様もいつまでも屋敷内を歩き回っているヒマはないはず。

そう思って、手を動かしているのだけど、背中越しにレスト様の気配が近づいてきているのがわかる。


「ミルア、大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です。レスト様も風邪など引いていませんか?」

「私は問題ない……目の下にクマができているな」


背中越しにレスト様の声が聞こえる。

どうやら私の体調を気にしてくれているようだけど、私より、レスト様の方が心配だ。

私は風邪を引いても有給休暇を使って部屋でゴロゴロしていれば良いだけだけど、レスト様が風邪で体調を崩されては問題がある。

声をかけられてしまえば、会話をしないわけにはいかず、振り返って姿勢を正して頭を下げた。

私は顔を上げた時、レスト様は私の顔を覗き込み、寝不足のために出てきた目の下のクマを見て小さくつぶやく。


……どうして、無防備に私の目の前に出てくるんだろうか?


昨晩の事でまともにレスト様の顔を見られないのではないかとも思ったのだけど、実際はそうでもなかったりした。

目の前にあるレスト様の表情はいつも通りであり、昨晩の笑顔はきっと、月明かりが見せた幻だろう。

だいたい、仮にレスト様が私の事を恋愛感情的な意味で気にかけてくれるなら、この距離に簡単に入ってくる事などできないはずだ。

簡単に入ってくると言う事はやはり、妹とか家族的な意味で心配してくれているのだろう。


……なんか、ドキドキしていた私がバカみたいだ。


「なかなか、寝付けなかったので」

「そうか……」

「それで、レスト様はどうしたんですか? 私に何か用ですか?」


心配の中にある物が家族的な物だと気が付いた私は小さく深呼吸をした後に笑顔を作る。

レスト様は小さく頷くが何か言いたそうに見える。

声をかけてきたのだから、何か用があるのだろうと思い、声をかけて来た理由を聞くがレスト様は話す事をまとめているのかなかなか、言葉が出てこない。


「……レスト様、用がないのでしたら、私は仕事に戻ってもよろしいでしょうか? ここ以外にも仕事が残っていますので」

「いや、用はある。先日の騎士達の休憩所の件だが、いつ、頼みに行くつもりだ?」

「メイド長には午後から時間をいただきました」

「午後か……」


寝不足のためか早めに仕事を終わらせて休憩時間にゆっくり休みたいと思う。

そのため、早く掃除を終わらせたいと考えて、レスト様に許可をいただこうとするがレスト様は考えをまとめたようで私の予定を聞く。

なぜ、そんな事を聞くかはわからないけど、昨日のうちにメイド長から許可を貰っていた事を話す。

許可を貰った時に、また、ブライさんのところに行くようにとおつかいを追加されましたけどね。

研究中のパンは好評でしたよ。料理長達は小麦粉が違うとわかったようですけど、他の使用人達は私と一緒で美味しいと言う感想で終わっていましたけどね。


午後と聞き、レスト様はまた何かを考え込み始める。

……私、仕事に戻ったらダメかな?

レスト様が考え事をしているため、この場を離れるわけにも行かず、レスト様の手の届く範囲の掃除を続ける。


「……ミルア、そこに行く前に私のところに来てくれ。私も同行する」


……なぜ、そこに行きつく?

レスト様が出てきては国王様からの命令と捉えられる可能性が出てくるのではないか?

それにアイリスさんのお店にレスト様を連れて行くのは不味い気がする。

時間を見計らえば、お酒を飲んで暴れているよう人はいないと思うけど酒場兼宿屋だ。

昼間から飲んでいる人達もそれなりにいる。

そう言う人達の中には国を動かしている人達に良い印象を持っていない人達もいるのだ。

レスト様がレクサス家の当主だと知れてしまえば敵意を見せてくるかも知れない。


「……何を考えている?」

「いえ、昨日の話を聞いているとあまりレスト様のような方が表に出て行かない方が良いのではないかと思いまして」


私の様子を不審に思ったのか、レスト様はその無機質な視線を私に向ける。

レスト様の安全を考えると付いてきて貰うわけにはいかない。

何より、間違ってケーキでも食べてしまえば、先日の私がケーキの場所を隠したと言う事がばれてしまう。

レスト様がケーキの味に惚れ込んで通っては困る。

私が愚痴を言うのに行く場所が無くなってしまう。


「……私が行くと問題があるのか?」

「問題と言えば問題が……行く場所は友人がやっている宿屋なんですけど酒場もやっていますのでレスト様が行くのは危ないんじゃないかと」

「酒場か……問題ない」


私の態度にレスト様は怪訝そうに言う。

とりあえずはケーキの事は隠してレスト様の安全を考えてだと告げるがレスト様は絶対に付いてくる気のようだ。

ただ、酒場と聞いて少し気分が沈んだ気がした。

酒場だと甘い物があまり置いてあるとは思わないから、仕方ないと思う。

レスト様達はお酒を飲むと言っても夜会やどこかのお屋敷だろうし、場末の酒場になど行かないから当然だろう。

でも、これから行くのはアイリスさんのお店、ケーキなどの甘味も兼ね備えている……メニューを見せないようにしないといけない。


「……別に面白い物はありませんよ。良くあるお店です」

「面白い物を探しているわけではない。以前にも話しただろう。街には多くの情報が集まっている。私達のところには届かない言葉も街なら聞こえてくる。それに酒場なら、窃盗団の話も入っているかも知れないだろう。対策を立てる上で必要な情報は早めに集めておかなければならないからな」

「情報収集? それは確かに必要かも知れないですけど」

「……納得がいかなさそうだな。私が付いて行くと不都合でもあるのか?」


なぜ、レスト様が私に付いてきたいかわからないため、ため息が漏れてしまった。

レスト様は窃盗団を捕まえるために情報収集をしなければいけないと言うのだが、それを行うのはレスト様である必要がないと思う。

街を巡回している兵士達やそれこそ、早めに騎士達に動いて貰えば良い話だ。

納得できていないのが表情に出てしまったようでレスト様は不機嫌そうに聞いてくる。


「先ほども言いましたが、レスト様の安全を考えるとあまり良いとは言えません」

「そこまで治安が悪いと言うのなら、なおさら、ミルア1人で行かせるわけにも行かないだろう」

「いえ、私はいつも行っている場所ですから、常連さんにも可愛がって貰っていますし」


レスト様は私の安全を心配してくれているようだけど以前からの私の行動範囲なのだから、心配はない。

私は何かあっても逃げ込めば助けてくれる場所を知っている。

それにアイリスさんのお店の常連さんとは顔見知りだし、仲良くしている。

他のお客さんに絡まれていても、みんなが助けてくれる。

何より、アイリスさんのお店でケンカでもすれば、アイリスさんから出入り禁止を言い渡されてしまう。

王都だから、宿屋兼酒場も数はあるけどどこのお店も問題が多いお客さんは遠慮したいためか、横のつながりも大きい。

1つの店で出入り禁止になってしまえば、王都内の宿屋兼酒場でのお客さんや従業員達からの視線は冷たい物になる。


「……可愛がって貰っているか。それはレクサス家の使用人が世話になっていると礼の1つでも言ってこなければいけないな」

「いえ、そこまでする必要はないと思います」

「私はそれまで仕事をしているから、時間になったら書斎に顔を出すように馬車も用意しておく。よるところが他にあるなら、そこもまとめて行けるようにしておいてくれ」

「わかりました」


なぜか、レスト様がやる気になってしまった気がする。

目には見えないやる気が背中越しに燃え上がっているようだけど、意味がわかりません。

なぜ、レスト様がやる気になっているかわからないのだけど、私の言葉を聞き入れてくれるようには思えない。

どうしようかと考えている私にレスト様は指示を出すとまだ仕事が残っているようで私の意見を聞き入れる事無く、歩き出してしまう。

こうなっては私がいくら反対してもレスト様は付いてくるだろう。

もう観念するしかなくなった私はレスト様の背中に向かい、返事をするがレスト様が振り返る事はない。


「面倒な事にならなければ良いけど……いや、間違いなくなる気がする。とりあえず、掃除を終わらせよう。レスト様は忙しいし、早く行って、早く帰って来よう」


レスト様の背中が完全に見えなくなってから、私は大きく肩を落とす。

仕事を残してはいけないし、レスト様がついでに行えるおつかいなどはないかと言っていたので先輩達にブライさんのお店以外に行くところはないか聞かないと。

……少しでも眠りたかったんだけど時間はなさそうです。


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