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十一品目

「……なんで、私なの?」


お屋敷に戻り、ブライさんから預かった試作のパンを厨房に運ぶとメイド長から、レスト様とロゼット様に試作のパンを運ぶように言われてしまう。

正直、泣きそうになったためか、まだ割り切れていない事もあり、断りたいのだけど私は下っ端なんです。

パンを頬張っている先輩方に行けとは言えない……


と言うか、それなりに時間が経っているのにまだ話をしているの?

でも、さっきの窃盗犯の話とは限らないよね。元々、お友達なんだから世間話の可能性だってあるし。


2人分の試作のパンとともに紅茶を持ち、レスト様の書斎に向かう。


「……何だ?」

「ミルアです」

「……入れ」


書斎のドアをノックすると、すぐに返事がある。

ドアを開けて書斎に入るとレスト様とロゼット様は向かい合って難しい表情をしている。

……レスト様の表情はいつも通りなのだけど、さわやかな好青年に見えたロゼット様まで難しい表情をしていると言う事は大問題が発生しているのだろう。


「……何の用だ?」

「紅茶とブライさんが試作のパンを焼いていまして、味見をして欲しいと言われました」

「試作パンだと?」

「……いつも通り、甘いパンではありません」


姿勢を正し、頭を下げるとレスト様の視線が突き刺さった。

威圧されないように小さく深呼吸をして、書斎に訪れた理由を話す。

ブライさんの新作パンと聞いた瞬間にレスト様は甘いパンが来たのではないかと淡い期待を抱いたようだが、私はその期待を完膚なきまでに叩き折る。


表情は変わらないけど、若干、レスト様の気分が沈んだ気がする。

……仕方ないじゃないか。私の責任ではない。


「そうか……ロゼット、休憩だ」

「そうですね。ブライ=カーチスの試作パンですか? 何を変えたんでしょうか?」

「……ミルア、ブライ殿はなんと言っていた?」


2人の間にパンを並べ、温かい紅茶を空になっているカップに注ぐ。

ロゼット様もブライさんの事を知っているようで苦笑いを浮かべるとパンを手に取って眺め始めるがレスト様はパンを一口サイズに千切ると口の中に放り込む。

何度かそしゃくした後に何かに気が付いたのか、その無表情な視線を私へと向けた。


……小麦粉が変わった事もわかるのだろうか? それより、どうして、私がブライさんに話を聞いてきたってしているんだろう?

気にしても仕方ないか……


「小麦粉を変えたと言っていました。今年は小麦の収穫量が期待できないかも知れないからその事を考えないといけないと」

「そうか……」

「……情報が早いですね」


隠す理由も無いためか、正直に答えるとレスト様は小さく頷き、ロゼット様は眉間に深いしわを寄せる。

ブライさんが小麦粉を他の物に変えようと考えているのは2人の話をしている内容にも関係しているのかも知れない。


それを私が知っても仕方は無いので余計な口を挟む気はない……気にならないわけではないけど。

実際、レスト様もリトスさんもパンを食べただけで違和感を覚えていたようだから、味はわずかにでも違うのだろう……私はいつも通り、美味しいって思っただけだけど。

まあ、ブライさんの腕は確かだし、料理長を始め、このお屋敷の料理人の腕も確かだから美味しいご飯が食べられるから、あまり、心配はしていない。

危ないとしたら、私のケーキの味が変わらないかくらいだ……私はわずかな違いがわかるかわからないけど。


紅茶を注ぎ終えて、これ以上、書斎にいる理由がなくなったため、頭を下げて書斎を出ようとするが後ろを振り向いた瞬間にレスト様の視線が背中に突き刺さった。


……まだ、何か用があるのか?

でも、私がこの場に残る理由はないよね?


「ミルア、待て」


背中に突き刺さる視線に逃げたい思いでいっぱいになっているとレスト様が私の名前を呼ぶ。

な、何かロゼット様の前で失礼な事でもしたのだろうか?

お怒りの言葉をいただけるのは少し興奮するのだけど、私は他人にののしられている姿を見られて興奮する変態ではない。

ロゼット様がいる事もあり、若干、戸惑いながらもゆっくりと振り返り、レスト様の次の言葉を待つ。


「……数日中にロゼットの部隊が窃盗団を捕縛するために警備に入る」

「そうなんですか?」


聖騎士まで警備に駆り出されると言うのはかなり凶悪な窃盗団なのだろうか?

聖騎士が駆り出されるならすぐに決着がつくだろう……でも、それと私が呼び止められる理由はないよね?


ののしられる事もなく、少しだけ残念な気がするけど今はそうではない。

なぜ、私にそんな事をするのだろう。


「レスト、ミルアさんが要領を得ないって言う表情をしていますよ」

「……そうか。ミルア、聖騎士達がどこかで休めるような場所を提供してくれる人はいないか?」

「レクサス家ではミルアさんが1番詳しいのではないかとレストが言うので」


首を傾げている私に気が付いたロゼット様は苦笑いを浮かべる。

彼の言葉にレスト様は小さく頷くと私をこの場に残した理由を話す。

残された理由を聞いても、私が残された理由にはいまいち要領を得ない。

そんな私を見て、ロゼット様は不足しているレスト様の言葉を補ってくれる。


休憩できる場所?

すぐに考え付くのはアイリスさんの酒場兼宿屋やブライさんのパン屋さんだ。

それ以外だとすぐには考え付かない……


「私に聞かなくても、ロゼット様のお屋敷にも城下の者達と仲の良い人はいるのではないでしょうか?」


ロゼット様だって聖騎士様だ。

それも最年少で部隊長にまで上り詰めるほどだ。

いくら腕がたつと言っても何の縁もなければそんな事はできないだろう。

そう考えるとパルフィム家だって有力な家じゃないのか?


「……申し訳ありません。私は平民出身です。シュゼリア王立学園で騎士になるべく、訓練していた中で副団長に見出して貰いました。ですから、使用人もいないですし、部屋は同様の立場の者達が集まっている寮に住んでいます」

「そ、そうだったんですか?」


私が考えていた事が想像できたのか、ロゼット様は申し訳なさそうに平民出身だと話してくれる。

なんと答えて良いかわからずにレスト様へと視線を向けてみるのだけど、レスト様は紅茶に大量の砂糖を投入している。


……あれは甘すぎないのだろうか?


レスト様の姿に疑問がすり替わってしまい、少し落ち着く。


「ロゼット様が平民出身だと言う事はわかりました。ですが、それなら、ロゼット様も街には詳しいのではないですか?」

「……恥ずかしい話、私の知り合いには断られてしまいました。兵士達が休憩できるようなお店をしている知り合いもあまりいない事もですが」

「……騎士の中には家柄重視と言って民を見下している者も多い。そのような者達が騎士の相手をしたがると思うか?」


ロゼット様も努力はしたようだが、協力を得られなかったらしい。

確かに有力者の騎士や貴族達はごうまんな人達も多いし、関わり合いたくないと言う人も私の知り合いにも多い。

レスト様はお忍びで街中を調査している方であり、そのレスト様が私なら協力者を見つけられると判断したと言う事か……いや、厄介事を押し付けられたと考えるべきだろうか?

だけど……協力してくれるかな? でも、窃盗団が現れたって事は捕まえないと被害が出るわけだし、自分達だって狙われる可能性だってあるのに。


気乗りはしない。

私はレクサス家のメイドだ。この屋敷に訪問してくる有力者達とも顔を会わせるのだが、あまり、良い印象を持てない人達も多い。

そして、ロゼット様が断られてしまったと言う事実。

断られる可能性が高い上に、交友関係にも傷がつくかも知れない。


答えに難い……


「……ミルア、お前が考えている通りだ」

「そ、そうですよね」

「しかし、やって貰わなければ困る。王から命令をいただくよりは自主的に協力して貰えた方がありがたいんだ」


考え事をしている私を見て、レスト様は心中を察してくれたようである。

しかし、自主的に協力してくれた方が良いと言うのはどういう事だろうか?

王様の指示で聖騎士団が動けば協力は間違いないはずだ……けど、レスト様はあまり良い方法だと思っていないみたいだ。


「どうしてですか? 王様から協力要請が出たら、誰も反対しないんじゃ」

「……反対しないと言うか、反対できなくなりますよね?」


頭をよぎった疑問を口に出して見るとロゼット様はあまり良い表情はしていない。

それにそんな物なのだろうか?

有力者で嫌われている方達もいるけど、この国の王様は民の事を考えてくれていると思う。

お父さんが死んだ流行り病の時やアイリスさんのお父さんが亡くなった時も尽力を尽くしてくれた。

国が援助してくれた事で命をつないだ人達も多い。


「……下手に王から命令を出すと聖騎士達が問題を起こせば王の威厳にも関わってくる」

「あの、聖騎士が問題を起こす事は前提なんですか?」

「恥ずかしい話ですけど、部隊長と言う任には付いていますが……すべての部下からは信頼を得られていません」


騎士達と民達の不仲で王様にも迷惑がかかると言う事なんだろうか?

でも、私から見ればロゼット様は良い人だ。民から反感を買うような事はしないように見える。

それだけ、有力者の子息の聖騎士は態度が悪いと言うのだろうか?


「……そう言われると紹介しにくいんですけど」

「だろうな」

「でも、拒否権って無いのですよね?」

「そうなる」


私の言葉にレスト様は頷いてくれるだけど、雰囲気から言って拒否権はないように見える。

確認するように聞くがやはり拒否権はない。


「……紹介は出来ても、受けてくれるかはわかりませんよ」

「その場合は何か他の方法を考える」

「そうですか……わかりました」


断られた場合は私の責任ではない事を確認する。

レスト様は無理強いするつもりは無いようであり、小さく頷いてくれる。

その様子にどこかほっと胸をなで下ろすと同時にののしられなかった事を少しだけ残念にも思いました。


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