勘違いも程々に
最近の俺はひどく暇だ。
衛藤 鎮高校2年。大きめの眼鏡に顔が隠れる程の前髪。
特にいじってないので、色は黒で最近伸びてきたから少し鬱陶しい。クラスでは特に親しい人間はいない。
友人はいるのだが、最近顔を合わせていない。
2年になりクラスが別れてしまったというのもある。
「ねぇねぇ、隣のクラスの転校生さ~足立君にべったりらしいよ。」
「っていうか、足立君が転校生にべったりなんでしょ?」
「どっちでもいいけどさ、その子のどこがいいんだろうね?」
「そうだね、その子が来る前までは年中うちのクラスに来てたのに。」
「衛藤くんと去年同じクラスだったんでしょ?やっぱクラス別れちゃうと関係も薄れちゃうのかな。」
「っていうか、転校生に乗り換えたんでしょ。」
ひそひそと女子が噂をしているのが聞こえてくるが、聞こえないふりをする。
面倒だからだ。噂にあるように、どうやら転校生がやってきたらしい。しかも友人のクラスみたいだ。
あいつ、何で俺のところに来ないんだろう。俺はいつまでこのつまらない日常を耐えないといけないのか。
正直学校に来るのさえ億劫になっている。
ああ、つまらない。
私立冴島学園に最近美少年が転校してきた。転校生のクラスにはいわゆる学園の人気者がいて、右も左も分からない転校生にとても親切だった。2人はすぐに親友と呼べるほどの仲になった。
ただ周囲の人間には気になることもあった。それは、人気者には親しい友人がいたからだ。
相手は眼鏡と、長い前髪で顔を隠していて素顔はわからないがとにかく静かで大人しい平凡男子の鎮だった。
鎮は常に静かに話を聞いているといった感じだったが、相手は楽しそうだった。
進級しクラスが変わってしまった後も、2人の関係は変わらなかった。
その2人に変化が生じたのが、ひと月前。
転校生がきてからだった。当初は鎮のクラスに顔を出していたが、徐々に回数が減りついには来なくなってしまった。
それも仕方ないだろうと、周囲は納得もしていた。多少同情しないでもないが、鎮自身何を考えているかもわからないので、触らぬ神にという心境なのだ。
「そういえばさ、去年衛藤くんによく絡んでた人も最近来ないよね。」
「あの柄の悪い人でしょ?なんか他校の人と揉めてるとかって聞いたよ?」
「あー、それで最近見かけないんだね。衛藤君いじめる暇もないわけだ。」
「じゃあ、しばらくは衛藤君も静かに過ごせるわけだ。まあ、クラスも変わっちゃったからわざわざ来ないか。」
「衛藤君も、言いなりだったしね〜今は足立君もいないわけだし、これからは自分でなんとかしないとだよね。大丈夫なのかなぁ」
「べつにあんたが心配することでもないでしょww」
「それもそっか。」
ちなみに、人気者の名前は足立 哲也という。
鎮は地味で大人しくクラスに親しい友人はいないものの、さりげなくクラスメイトに気にされている。
「衛藤君、今日日直よろしく。早速だけど、課題のノートと授業で使った資料をを持って来るように担任にいわれちゃったの。手伝ってね。」
クラスの女子生徒が、ぼんやりする鎮に声をかけてきた。
鎮は自分が日直であったことを思い出し、席を立つ。ノートはすでに集められているようだった。
「ああ、集めてくれたんだ。じゃあ、俺が職員室まで持って行くよ。」
「えっ、でも重いよ?」
「別にこれくらい平気。有本はノート集めてくれたし、女の子に重いものもたせるわけにいかないから。俺が持ってく。」
「…あ、ありがとっ/////」
と言った感じで、見かけからは判断できないがかなりのフェミニストだったりするからだ。
クラスの男子からは尊敬の念を、女子からは少しだけ気になる存在として注目されている。
「あれでもう少し見た目がね〜」
「もう少し性格が明るかったらね〜」
「衛藤って地でああいうこと言ってんのかな。」
「下心とか全然見えないよな。」
「俺だったら少し持ってもらって、一緒に運んで少しでも女子とコミュニケーションとるぜ。」
「有本かわいいもんな。」
「男子うぜぇ」
クラス内でそんなことを囁かれている間に、鎮は言われていたノート資料を軽々と持ち教室をでた。
その姿に不安要素など一切ない。
「衛藤くんて、案外筋肉あるよね。」
「ね、ムキムキじゃなくて程よく付いててしなやかっていうの?」
「全体的にキレイな身体してるよね。」
「ちょっ、セクハラっぽいww」
「だって本当のことじゃん!」
「女子エロ〜」
「何よ!!」
クラス内で女子と男子の争いが勃発した頃、廊下を静かに歩く鎮は笑い声で溢れた教室を見た。
隣のクラス内では、美少年とその友人がじゃれあいとても楽しそうだった。
クラスメイトたちも便乗し、みんなでワイワイと騒いでいる。
無意識に止めていた足を、無理やり動かしその光景から顔を背ける。
ほんの少しだけ、胸が痛んだのは気のせいだ。
頼まれたこともやり終え、教室に戻り携帯を眺める。
前は頻繁にあったメールも、電話も今は全くない。
先ほどの光景が目に浮かび、だんだんと腹が立ってきた。
登校しているのに、わざと避けているのだ。
事情は分かっているけど、なぜ自分に何も話してくれないんだと。
今まで我慢してきた感情が一気に膨れ上がる。
『俺はいつまで我慢すればいい?会って話したい。』
メールを送信する。
『悪い。あとでちゃんと話す。』
帰ってきた返事に、鎮の頭の中の何かが切れた音がした。
「後であとでって!俺は我慢すんのが嫌いなんだよ!!」
突然携帯を床に叩きつけた鎮に、クラスメイトたちが目を丸くしている。
そんなことには全く気付かない鎮は、前髪をかきあげ後ろで縛る。
乱暴な手つきでメガネを外し机に置くと、不機嫌丸出しでネクタイを緩めながら教室をでた。
「…か、かっこいい…」
「なに!?何があったの??」
「え、衛藤君てすごいかっこいいじゃん!」
「どうしたんだよ、あれ。」
「なんか、性格も思ってたのと違うっていうか。」
「つか、ついに修羅場なんじゃねぇの!?」
「止めなくていいのかよ!」
クラスメイトたちが慌てて鎮の後を追う。案の定鎮は隣のクラスへと乗り込んだいた。
鎮は迷いなく隣の教室へと入っていく。
見たことのない男が入ってきたことで、一瞬教室内が静まり返るがその容貌をみて、再びざわめき出す。
「誰?何なに?」
「あんなかっこいい子いたっけ?」
「誰に用事かな」
見とれる女子達の視線も、不審な視線をよこす男子もさらっと無視しとある席の前で立ち止まる。
「え?え?」
近くまで来た鎮を見上げ、オロオロとする美少年こと転校生の宮原泉。
わけがわからず、助けを求めるように目の前の友人に目線を合わせる。
「な、なんだよ?!泉に何か用か!?」
イケメンかつ友人の足立が、美少年転校生こと宮原の前に立つ。
目的の人物の間に立たれ、さらに気分を降下させた鎮。
足立を上目遣いで睨みつけ、チッと舌打ちをする。
見たことのない美形に睨まれて、足立はその容貌に息を飲む。大きな瞳、少しつり気味のアーモンドアイ。自分より低い位置からじっと見上げられて、少しだけドキリとする。
「衛藤!!落ち着け!!」
「衛藤君!?喧嘩はダメよ!?」
クラスメイトたちが隣の教室へと駆け込んだ時には、鎮と足立が睨み合っていた。
「衛藤…って、鎮?えっ!?マジで?!」
「どけよ、後ろのやつに用があんだよ。」
「えっ?泉に!?な、なんだよ。もしかして俺が泉に構うからさみしかったのか!?」
「いいからどけよ、話がしたいんだよ。」
「泉はお前のことは知らないんだよ。八つ当たりは良くないぞ、話なら俺が聞くし。」
わけのわからないことを言う足立に、鎮はいい加減口を開くのも面倒になってきた。
「いいからどけよ!邪魔!」
足立を押しのけて、鎮は机の前に立ちそこにいる人物を見下ろす。
「「「え?」」」
「…?」
戸惑う周囲を他所に、鎮は口を開く。
「起きろ。」
鎮の前には机に突っ伏している男。
その隣には宮原泉。
困惑顔で見つめる宮原と足立。
「えっと、鎮?泉に用なんじゃないのか?」
問いかける足立には目もくれず、鎮は目の前の机を蹴り上げた。
「おい、起きろっつってんだろ、太一!」
「ん~??なんだよ~。俺ねみーんだよ。」
目を擦りながら伏していた体を起こす。
茶色の髪をフワフワと遊ばせ、サイドをピンで留めている。大きめのタレ目はうっすらと潤んでいる。
「え・・・?!ま、まもる!?」
ぼんやりと見上げたその顔に、驚愕の色を乗せて目を見開く。
「あいつ来てるんだろ?どこ行った?」
「や、やばいって・・お前・・メガネは??なんで髪・・」
呆然としたまま鎮を見つめ、口をパクパクとさせている。
「鎮?おまえ江上と知り合いなのか?」
足立も驚いたように問いかける。
江上太一。例の転校生の隣の席で、いつも眠そうにしているか実際に寝ているか、女子とイチャイチャしている男。ふわりとした猫毛にタレ目の甘い顔が人気のイケメンである。
「龍二に戻ってくるように言え。俺じゃつかまらねえ。」
「で、でもさ・・・お前、約束・・・。」
「んな事どうでもいいんだよ、早くよ・・」
「うるせー何騒いでんだ。」
声を荒らげた鎮を遮るように、声がかけられる。
ドアの方へと視線を向けると、そこには不機嫌そうに目を細めた強面の男。
ネクタイは緩められ、シャツのボタンははずされ鍛えられた胸元が晒されている。
「と、藤堂くん・・」
「やばいって、藤堂って去年衛藤に絡んでたよな、最近は落ち着いてたけど。」
「すげーいかってんじゃね?!」
周囲がざわざわと心配そうに見つめる中、藤堂と鎮はお互い視線を外すことく睨み合っている。
「鎮、どうしたんだよ。クラスも離れたんだし、わざわざあいつに関わることないだろう?何か話がしたいなら、俺が聞くしさ。最近お前のところに行かなくて悪かったよ。ほら、泉も転校してきたばかりでさ友達もいなかったし。これからは3人で仲良く・・」
「横からごちゃごちゃうるせぇな、っつーかお前誰だよ?!馴れ馴れしく俺の名前呼んでんじゃねーぞ。」
「え?」
「「「え??」」」
藤堂から鎮を隠すように、間に立ち鎮に関わらないよう忠告した足立を鎮は鬱陶しそうに睨む。
その口ぶりは足立のことなど知らないとでもいうようだった。足立はその場で固まってしまった。
周囲もそれには驚きを隠せず、同じように固まっている。
「鎮、まだいろいろ片付かねーから会えないって言っただろう。それに、携帯どうした?つながらねー」
「あんなん使えねーからぶっ壊した。お前と連絡できねーなら、いらねえだろ。」
「メガネは?」
「知るかよ、鬱陶しいから外した。だいたい、お前が俺の言うこと聞いてくれねーなら、俺だってお前の言うこと聞く必要ねえだろ。お互い様だ。」
「鎮・・・お前自分の立場わかってんのか?」
固まる周囲を他所に、二人は話を進めていく。
「分かってねーわけねえだろ、自分のことなんだから。誰に狙われようが、俺は簡単にやられたりしねーし、お前だって俺のこと守ってくれんだろ?面が割れてるからって変装なんかしなくたって、わざわざお前と離れて行動しなくたっていいだろうが!俺はお前が傍にいねーと、つまんなくて死にそうなんだよ。頼むから、俺の隣にいてくれ。」
「・・・・はぁ。」
あからさまにため息をつく龍二を、睨みつける鎮。
睨まれた龍二はなぜか、嬉しそうに頬を緩めている。
「お前ほんと嬉しいこと言ってくれるよな。っていうか、お前に変装させてたのは俺のわがままだし。今回のことがある前からそうだったろ?俺はお気に入りは隠しておきたいんだ。」
「俺は見せびらかしたい派なんだよ。」
照れたように唇を尖らせて、鎮は龍二の胸に顔を埋める。
なにやら甘い雰囲気を垂れ流す二人に、ようやく周囲がざわめき出す。
「っていうことは、衛藤くんていじめられてたわけじゃなくて・・」
「普通に藤堂君とじゃれてたってこと?」
「っつーか、すっげー親友って感じ?」
「え?じゃあ、足立くんは?」
「そういえば、衛藤が足立と会話してんの見たことなくね?」
「ああ、いつも足立が一人で喋ってたような・・」
「名前も知らないっぽかったぜ?」
その言葉の数々に青くなる足立。信じられないというように鎮を見つめ。
「鎮?俺たち友達だよな?」
一言呟いた。
「悪い・・・マジでお前誰?」
「去年同じクラスだっただろう?」
「そうだったか?記憶にねぇけど・・・」
会話をするたびに青ざめる足立に、周囲は同情を隠せない。そばにいる宮原もハラハラと見守るが足立はそれにも気づかず呆然と鎮を見つめる。
「お前は鎮の興味の対象にはならなかったんだよ。だから俺も無理に離す必要なかったしな。今は別のお気に入りもできたみたいだし、今後は鎮にちょっかいかけんじゃねーぞ。」
そんな足立に追い打ちをかけるように、龍二が忠告する。
「ほら、鎮行くぞ。今後の対策考えねーと。」
「わかった。おい、太一も来い!」
突然呼ばれ、慌てて立ち上がる。周囲の興味の視線に苦笑しながらも、鎮に呼ばれたことが嬉しいようだ。
「鎮って自分の興味のある人間しか覚えないから。ご愁傷様。」
足立の肩をポンと軽くたたき、江上は二人の後について教室を後にした。
「冗談・・・だろ?」
残された足立の哀愁漂う声が教室に響いた。
閲覧ありがとうございました。
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