フラットウッズの怪物
落狗山。標高二百三十五メートルの地元ではハイキングコースとして知られる山だ。
その山は昔から神隠し伝説が古くから住む住人によって伝承され、僕のような地元のオカルトマニアの聖地の一つとなっている。
五年くらい前その山の付近で男女四人の若者の失踪事件が起こった。
現代の神隠しか?と一時期地元で大騒ぎになった。彼らの行方は警察や地元の消防団で編成された捜索隊によって、山付近を重点に毎日数十人を動員して二週間にわたり捜索が行われた。それほど深い山野でもないにも関わらず所持品一つ発見出来ずに捜索は打ち切られた。やがてこの事件は不可解な闇に消えていった。その後もしばらくの間マスコミが騒いでいたが以後の進展は何もなくやがて取り上げられなくなった。結局失踪した家族以外の人々の記憶からは忘れ去られていったのだ。
しかし僕は当時の警察も発見できなかった遺留品を偶然見つけていた。
時代遅れのビデオカメラ用のコンパクトビデオテープを一本。捜索隊の目を盗んで山に入り手に入れた戦利品である。もちろんこれを警察に知られれば僕自身が連行される危険なシロモノである。
山のある場所で見つけたとしか答えられない。詳しいいきさつは話したくないからだ。
しかし手放す事もできなかった。こんなお宝映像手放せるわけないだろ。
そこには驚愕の光景が映し出されていた。それとあれが映っていた。
あれは僕のようなオカルトマニアにとっては一生のうちで一度は実際に見てみたいものであるからだ。
特撮で作られたものではない本物のあれなのだよ。
あれについて、僕個人の見解は当然ある。しかしそれが正解かどうかは判断できない。
だからこれを見た人間の判断に委ねたいと思う。
それでいいんだろう、たぶん・・・
まず山のふもとにある廃墟から映像は始まる。そこは観光客用の食堂兼みやげ物屋だった場所だ。
大きめの駐車場は若者達の格好の遊び場となっていたし廃墟は肝試しや悪さをするための拠点となっていた。
時期は八月。真夏で学生は夏休みの真っ最中である。カメラの日時刻印機能で映像に映されている日付は八月五日。家族から失踪届けが出され事件がマスコミで報道されたのが八月八日。だからこの日時は正確だろう。時刻は午後十一時三十八分。このあたりには民家はなく深夜になれば彼らのような人間以外人気は皆無となる。
男女四人。年齢は高校生?か大学生ぐらいか。後日報道された情報によると二十歳の男子大学生に十七歳の男女高校生二人。もう一人は女子高校生の妹で中学三年生十五歳の女子だったと思う。
男子大学生が運転手。レンタカーでここまで来たらしい。四人とも隣の市からこの町に来たのだ。
四人は男子大学生と男子高校生がかつての部活の先輩後輩の関係で女子高校生は男子高校生のガールフレンド。女子中学生は女子高校生の妹でマスコミの下世話な取材によると姉妹でこの男子高校生をめぐって三角関係だったらしい。しかしこのの映像には関係ない事柄なので説明はここまでにさせてもらう。
四人がここに来た目的。廃墟の探索(肝試し)と駐車場での花火遊びだったようである。
映像はその光景が約三十分ほど続く。テープは六十分なのでつまらない映像で半分消費されているわけである。他人から見てこういう映像ほどつまらないものはない。決して嫉妬などではない。うらやましいとは思うが。
重要なのは三十二分後の花火ではしゃぐ女子高校生背後の空に奇妙な光体が映りこんでから。そこはちょうど落狗山の上空である。
ジグサグに飛行する未確認飛行物体としか思えない光体に気付いたカメラマン、たぶん男子大学生が叫ぶ。
「おい、あれは何だ?」
「え?」
「なになに?」
姉妹が後ろを振り返り空を見る。
「UFOじゃね、あれ」と男子高校生。
「マジでか?UFO?」とマイクのそばでカメラマンの声。
「ユーフォー?マジ?」と女子高校生。
「そんなものいるわけないじゃん。飛行機じゃないの」と女子中学生が少々ヒステリックに叫ぶ。本心は怖かったのではないのだろうか。
光体は山の上空を螺旋を描くように飛行しやがて山頂に降下した。
「やべ、行くぞ」
「おう、いくぜ」
男子はそろって山に向かう気満々だが、女子勢は腰が引けているようだ。
「もういいじゃん。あんなの気球か何かだよ」
「山に行くの?やだよー怖いー」
この光体についての目撃者は他にいなかったのかと僕の仲間が山の周辺で商店を重点的に調査したところ、廃墟があるふもとの反対側の県道沿いにあるコンビニのアルバイトが目撃していた。
深夜にはこのコンビニ以外に開いている商店はなく県道には車の通行は皆無だったようだ。
大学生のアルバイトは確かに十一時頃に山頂近くを飛行する未確認飛行物体を店内から目撃している。ちょうどのその時間帯はもう一人のバイトが休憩中で奥の事務所にいたので目撃していなかった。だから目撃者はこのバイトのみである。
一応第三者の目撃者を得たことで信憑性は増したといえる。その時間帯に山の上空に未確認飛行物体がいたのだ。
一方四人男女の葛藤は数分続く。男子は行く。女子は行かない。完全に分かれていた。しかし七分後妹が裏切る。
「Aくんが行くなら行ってもいいかな・・・」
A君とは三角関係の頂点にいる男子高校生である。
「ちょっと、何なの?あんたどういう気?」姉が怒り出す。
「A君と一緒なら行ってもいいかなと言っただけじゃん。行きたくないならここで待っていれば?」
「はあ?ちょ、あんた調子に乗ってる?妹のくせに」
「関係ないじゃん。これは行きたい人だけの問題でしょ」
この姉妹の口げんかは約三分続く。仲裁に入ったのは当事者の男子高校生でなく男子大学生だった。
「止めとけよ。二人ともここで待っていろよ。山道は危ないからさー」
「俺はどっちでもいいけど・・・」と男子高校生は投げやりな口調。
この後二分後四人で行く事に話がまとまる。
この直後録画ボタンはオフにされ映像は途切れる。残り録画可能時間数は十分強。カメラマンは残りの時間で目一杯その物体を撮影しようとしたようだ。よって登山時の映像はない。その間に何があったのかは想像するしかない。
唐突に山頂の上空に浮かぶそれが画面一杯に映し出される。ここで録画が再開されたのだ。
まるで丸型蛍光管のような形状。実際に光り輝いているからそのものである。直径は八~九メートル。
光り輝いているのがドーナツ状の外形で目視が出来る。しかしリングの内部は中空ではない。透明な何かがある。僅かに風景が歪んで見えるのだ。光学的に歪曲させる何かがある。
耳を澄ますとカメラのマイクが拾った音が聞こえる。低音でブーンという音が。この飛行物体が発する音なのだろうか?
しばらくの間誰も声を発していない。呆然とそれを見ていたのだろう。しかし、小さくぼつりと、
「臭い。何これ・・・」と姉妹のどちらかが発した言葉が収録されている。
突然の悲鳴。声の発信者は女子高校生だ。カメラはまず女子高校生を映し出す。彼女の指は平行にまっすぐ山のある場所を指し示していた。カメラはその方向にレンズを向ける。
そこは鬱蒼とした木々の間。そこにいた。
それは身長3mはあろうかという何かで、頭は赤くスペードか修道女のような形の透明のヘルメットをかぶり、目は青みがかったオレンジ色に光っていた。明らかに中空に浮かんでいた。腕は鋼管のように細く機械的だった。マニピュレーターの様に見えた。
それが一瞬に四人の目前まで滑るように移動してきた。抵抗するまもなく男子高校生はマニピュレータのような手に頭をつかまれて持ち上げられた。そして上空に放り投げられた。
放り投げられた男子高校生は飛行体の下部から放射された赤い光線によって捉えられた。光線でありながらイベント用にスモークで可視化されたレーザーの様に目視ではっきり見えたのである。
男子高校生は赤い光線に全身が包まれてしまう。そして光線によって人間が飲み込まれる様に見えた。
男子高校生は消えてしまった。それと同時に赤い光線も消えてしまった。
数秒後女子二名が同時に悲鳴を上げた。間髪入れずに女子高校生が頭もつかまれた。そして空に放り上げられてそしてまた赤い光線に飲み込まれた。
カメラマンは一人で逃げ出した。下山コースをなりふり構わずに全力で駆け出していたのだ。カメラは地面と木を交互に映していた。腕を振っていたのである。
カメラマンが山頂から逃亡する直前、レンズの片隅に妹が地面にへたり込んでそれを凝視している姿が映っていた。彼女がその後どうなったかは分からない。
下山途中でカメラマンはなぜか道から外れて森の中に入り込んだ。激しい息使い。筋肉の疲労による肉体の限界で身を隠そうとしたのだろうか?やがてある木の下で座り込んだ。
「畜生、なぜこんな事に・・・」
「ちょっと調子に乗っているAを懲らしめようと・・・」
「スキを見て彼女のBちゃんを誘い出して一人に・・・」
「どうせ深夜に男の誘いに乗って遊んでいるような女なんてどんな男とでも・・・」
「Aは二股にかけているもう一人が本命だし・・・」
カメラマンの男子大学生は独り言を延々と喋りだした。どうやらもてる男子高校生に嫉妬した先輩は彼女を夜陰に乗じて寝取る気だった様である。というか犯罪行為に及ぶ気だったようだ。この人物の鬼畜さは非難されるべき事であるが今回の件とは関係ない。あくまでも今回は超常現象についての考察である。
「おれ、どうしたらいいんだ・・・」
ふとカメラマンはレンズを覗き込む。
「記録・・・映像・・・」
ここで映像は切れる。時間にして五十九分二十秒。この後ビデオテープはカメラから出されてビニールにくるまれて埋められる。それを僕が発見したわけだ。
彼がなぜそうしたのか推察の域を出ない。記録映像が誰かの手に渡る事で僅かな期待を残したかったのか。記録映像が公表されてこの山の危険性を訴えたかったのか?
彼らが遭遇したあれについて記録が残っている。フラットウッズモンスターと呼ばれているものだ。
1953年、アメリカ、ウエストバージニア州ブラクストン郡フラットウッズに出現し四人の少年が目撃したそれはまさに姿かたちがそっくりであり同じようにそれは悪臭を放っていた。
しかしこの事件は懐疑派によってメンフクロウの誤認という見解も出されている。悪臭は現場の草から発せられていたもの。物的証拠がないため夜道で突然飛んできたフクロウに驚いた少年達が妄想を膨らませて創造したモンスターと懐疑派には断定されている。真実はどちらか、藪の中である。
しかし今回の件にはビデオ映像が残されている。有力な証拠だ。だがなぜ今ビデオテープ?日本ではほぼ失われたビデオカメラで録画したのか。物持ちがいい先輩だったのか。と言うかカメラの所有者は誰なのだろうか。動画ならスマホでも撮れるのになぜ?
テープを隠した理由もはっきりしない。あれに発見されて隠滅されるとでも思ったのか。
今回の件と直接関係ないが未確認飛行物体の唯一の目撃者だったコンビニのバイトは僕の仲間の取材直後にバイトを辞めていなくなったそうだ。しかもその後の調査で分かった事だがこの人物は男子大学生が通っていた大学の学生だった。しかも同じ学部の同輩だったのだ。偶然の一致だったのか、それとも。彼も今では行方不明になっている。どういうことなのか?
さらに言えば僕はあまり他人に語るべきことではない事柄を知っている。それを語ったら僕自身の身の危険に及ぶかもしれないと判断している。なぜなら相手が人間だからだ。
コンビニの男子大学生は大学であるサークルに参加していた。そのサークルは表はコンパサークルだが裏ではアメリカに本部を置く宇宙人コンタクティを教祖に置く宗教団体と繋がっていると言われている。その宗教団体の教義には、人類という種族の種子を宇宙にばら撒き新たに惑星を開拓して勢力圏を広めた後に拡大した宇宙人類生存権で銀河連合を設立し銀河系の覇者になるべきだと、いうのがある。チャネリングでコンタクトしたアンドロメダ人に教えられたと教祖が語っている。そのために信者から莫大なお布施を集めてロシアからロケットを購入したとも言われている。それに若者を乗せて宇宙に打ち出す計画をしているとか。あまりにばかげた計画だが、その宗教団体がカリブ海に無人島を購入し大量の資材をその島に送ったと言われている。また信者の中にロシアの宇宙関係の技術者やアメリカのジェット推進研究所のエンジニアがいるらしいとか。その付近では謎の物体が空に向かって打ち上げられているようだとオカルトマニアの間では噂されている。それは日本人幹部からの発案でうつろ船計画と言われているらしい。
しかし今の宇宙技術で星を渡るのは無理だ。どうやらその教祖は宇宙人からワープ航法とかは教えてもらえてもらえなかったようで、通常のロケットエンジンの技術しか持っていないようだ。そんな船に乗せられて宇宙に放り出されたら乗組員には悲惨な運命しかない。目標はあくまでも銀河中心なのだから。
すべては憶測の域を出ない。映像は事実かもしれない。真実をごまかすための創作かもしれない。
これを語っている僕自身がどこまで本当の事を語っているのか分からないだろう?
自分自身で判断するしかない。信じるか信じないかは・・・
数年にわたって夏の間だけ活動するシリアルキラー「サマーゴースト」が逮捕された。本名はサカイノブオ。年齢は二十五歳。犯行の手口は夏休みで深夜まで遊びまわる若者達を言葉巧みに人気のない廃墟などに誘い出し監禁。様々な手段で相手の抵抗力を失わせて服従させ、肉体を傷つけるなどの拷問を加えて加虐死させる事で快楽を得るシリアルキラーだった。
彼の犠牲者となった人数は推定で十人。最初の犠牲者は六年前。当時高校生だったキジマヨウコさんを落狗山付近の県道で自分の車に乗せて山のふもとの廃墟に連れ込み殺害した。この件についてサカイは「神のお告げで彼女を宇宙に送らないといけないと言われた。霊魂となった彼女はアンドロメダに旅立った」と取調べ担当の警察官に答えたという。
裏設定追加版を上げさせてもらいました。こちらのバージョンだと方向性が固まるので初期バージョンではあえて削除しましたが別の意味で怖い話の全貌が明らかになるのであえて出してみました。