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ただいま我が家、おかえり黒歴史。

 あぁ、なつかしきかな我が家よ。色々あり過ぎたけど、ついに俺は帰って来たのだ。

 しかし、しかしだ。俺の部屋、いや、もう元俺の部屋と言った方がいいのだろうか。我が家に帰り、二階の自室を開いた瞬間、俺は目を疑った。

 なぜなら、俺の部屋は全く原型を留めておらず、好きだったマンガ、アニメのDVD、ゲーム、ポスターは全て撤去されており、おしゃれな家具にかわいい小物が綺麗に配置されていた。お袋曰く、『レトロガーリー風にしあげたわ!』らしい。いや、俺のお宝達を返してくれませんかね……?

何か良い匂いまでするし、自分の部屋のはずなのに、女性の一人暮らしの部屋にいるみたいで落ち着かない。


「はぁ、とりあえず荷物をしまうか」


 三枝さんに貰った大量の下着を片付けるべく、クローゼットを開ける。そこには、女性用の制服と私服がぶら下がっていた。用意周到過ぎじゃない?!


「待て待て待て! よく見たら、何で私服の下が全部スカートなんだよ!? さすがにジャージのままじゃあれだから着替えようと思ったけど着る服ねーじゃん!」


 お袋が退院の際に持ってきた着替えがスカートだったから拒否して、リハビリの時使ってたジャージで帰って来たけど、家にも着替えが無いってどういうことなの……。 スカートはけばいいじゃんってのは無しでお願いします。だって、恥ずかしいし、スースーして落ち着かなそうで嫌じゃん……。


「もういいや。このままでいよう……」


 それらを視界に入れないようにしつつ、下着をクローゼットに詰め込むと、どっと疲れが出てきた。もう今日は何もする気が起きないな。明日だ。明日でいいから何かズボンを買ってこようと心に決めた。別に誰とも会う予定ないし今日はこのままでオッケーさ。いや、会うからといっておしゃれをする必要はないな、うん。

 精神的に疲れた俺はやたらとかわいいベッドに横になった。もう家具や小物については気にせず使うことにしよう……。


「優奈~! 陸哉君から連絡あったから家にいるって伝えといたわよ! 後少ししたら来るって! ってあんたまだ着替えてなかったの! まさかその格好で会う気じゃないでしょうね?」


 ごろごろしていると、ノックもなく扉が開け放たれ、お袋が乗り込んできた。ってちょっと待て誰が来るって?!


「おいいいいいぃ!! 何で陸哉に帰ってるなんて言うんだよ! どうするんだよ! 何て言えばいいんだよおおおおお?!」

「別にそのままで良いんじゃない? 学校の方には連絡してるから、もう皆が女になったって知ってるはずよ」

「ま、マジで……。別人として入学とかじゃないのかよ……」

「もちろん、それも出来たけど、手続きとかめんどくさいから事情説明しちゃったごめんね、てへ♪」


 てへ♪じゃねえええ! そんな便利な制度があるならなんで言わないんだよおおお! せめてどっちにするとか相談しろよ! 社会に出たら報告・連絡・相談は基本って言うだろおおお! これじゃ、学校で何て言われるか分かんねーじゃねーか!!


「ま、それは置いといて! 人と会うんだからこれに着替えなさい! 本当はミニスカをはかせたかったけど、今回はロングスカートで許してあげるから!」

「置いといてじゃねーよ!! しかも、妥協してってなんだ! 妥協してって! とりあえず、もう出てけっ」


 俺の発言を完全に無視して、クローゼットから服を取り出し始めるお袋。

 うわああああ、もういい! とりあえず、着替えて陸哉と会おう。もうなるようになれだ。ジャージを脱いで、お袋が勝手に用意した服を手に取る。上はホワイトのキャミソールにネイビーのカーディガン、下は薄いグレーのロングスカートという恰好となった。


「くそっ結局スカートはいてしまった……。 やっぱ、スースーして落ち着かないし……」


 とにかく、準備は出来たので、部屋を出ようと扉へ向かう際に、スタンドミラーに写り込んだ自分の姿にふと気付く。


「え、誰これ……?」


 改めてスタンドミラーの前に立ってみる。これが、俺なのか? 自分の姿はもう見慣れたと思ってたけど、私服を着るとまた違った印象を受ける。自分で言うのも何だけど、相当かわいくないか……? これでアイドルみたいなポーズを取ったらかなりヤバいんじゃなかろうか。よし、ちょっとだけ、ちょっとだけやってみよう。

 両手の中指と薬指を下げて、それ以外の指は立ててと――。うし、準備は万端だ!


「せーの、にっ――」


満面の笑みを浮かべ、構えた手を振り上げた瞬間、またも扉は開け放たれた。あれ、何この既視感……。


「あ、えっと、その、ごめん……。取り込み中だったかな……?」


 笑顔を張り付けたまま開け放たれた扉へ視線を向けると、その先には困ったような申し訳なさそうな表情を浮かべた青年、もとい俺の幼馴染であり、親友の菖蒲陸哉が立っていた。

 俺はその日、また一つ、黒歴史を刻んだ――。

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