運動と勉強をしましょう。
「今日から新しくリハビリに加わる瑠璃原優奈さんです。まだ知らない事ばかりだと思うので、色々教えてあげてください。結希さん」
「分っかりました! 優奈ちゃん、よろしくね! 僕は忽那結希って言います」
今日からリハビリに入る事になった俺は、用意されたジャージに着替えて、指定された部屋へ行くと、そこで既にリハビリを始めていた子が紹介された。ショートにしている髪と少しつり上がっている目が相まって、ボーイッシュな印象だな。同じくジャージを着ている事もあって、運動部にいそうな美少女って感じ。
「よろしく。俺の事は呼び捨てでいいよ。俺も結希って呼んでいいか?」
「オッケーだよ! 優奈、一緒に頑張ろうね!」
人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる結希。三枝さんとは違った意味で癒し系だな。犬っぽいっていうか、かまってあげたくなるかわいさというか。
「自己紹介も終わった所で、早速今日のメニューに移りましょうか。と言っても、簡単な運動をするだけですけどね。今日は外に散歩にいきましょうか」
「あ~何か久しぶりに外に出る気がするなぁ。長期休暇の合間の登校日を思い出す」
「なんですかその引きこもりあるあるは……」
「優奈ってそんな不健康な生活してたの……」
二人から憐みのような呆れられているようなじとっとした視線を向けられる。
「基本的にインドア派だしな。とにかく、行きませんか? ずっと寝てたから外出たくて」
「そうですね。こちらへ着いてきてください」
三枝さんに案内され、長い廊下を抜けると、広い庭へ出た。色鮮やかな花が植えられており、庭園としてかなり整備されているようだ。
庭をゆっくりと三人で歩く。天気も良く、体を動かすのが心地よい――が、歩くたびにどうにも気になるものがある。そう、胸だ。歩くたびに揺れる。非常に邪魔だ。
「あの、さっきから気になってたのですが……。優奈さん、下着着けてます?」
「え、着けてないですけど? 結希も着けてないですよね?」
「僕は着けてるよ? 確かに優奈と比べると僕はささやか過ぎるけどさ……。本当におっきいね!」
胸の当たりをさすりながら、苦笑する結希。いや、貧乳は貧乳で良いものだ。乳に貴賤はない! しかし、性転換者にも色んなとこで個人差があるんだな。俺は別に大きくなりたくてなった訳じゃないが。
「先に座学を行うべきでしたね……。えっと、続けて大丈夫ですか? つらいようでしたら、先に私たちだけ切り上げましょう」
「邪魔ではありますけど、大丈夫です。折角なので、もう少し景色を楽しみたいですし」
「分かりました。もうちょっと続けましょう」
「は~い。ねね、優奈は何で女の子になりたいと思ったの?」
「唐突だなぁ。悪い。正直に言って、まだそこら辺の整理はついてないんだ」
「ごめん。何か言いづらい事みたいだね……。うんと、僕はね、元々女みたいって周りから言われてたし、ずっと自分が女の子だって思ってたんだ。けど、性別は変えられないから諦めてたんだけど、お姉ちゃんが適性だけでも調べてみればって勧めてくれて、何とか手術を受けてって感じかな」
三枝さんも結希も性転換は自分から希望した事なんだよな……。不可抗力と言い訳したいけど、俺の理由って楽そうってだけで、二人に比べて何だかなって感じだよなぁ。
「優奈さん。また難しい事考えてますね? 眉間に皺がよってますよ? 今はリハビリ中ですよ? 集中していませんでしたので、後で罰ゲームですね。内容はおっぱい揉ませろです」
「そーだ。そーだ。おっぱい揉ませろっ」
「何でだよ……。別に揉んでもいいけど、二人のも揉ませろよ」
冷静に返答しながらも、内心はドキドキしていた。ついにあの秘境を拝める時が来るかもしれないと。あ、自分のはどーでもいいです。体が動くようになった時に思う存分揉んだし。ちょっと変な気分になったのは内緒だ。でも、やっぱり他の子のが触りたいです。
「え、優奈って女の子に興味があるの……?」
「えぇ?! だ、ダメですよ。いくら私もそんなに胸は大きくないとは言え、私のは修司さんのものなんですからっ」
「ふっ、何とでも言うがいい! 正直に言おう、俺はおっぱいが大好きだ!!」
「よくいった優奈よ。仕方がない私も一緒しよう」
何がどう仕方がないんだよ。さりげなく混ざってきた親父を蹴り飛ばす。倒れた親父に二人が追撃をかけていた。てか、どこから湧いた?!
「さて、ゴミも片付けましたし、だいぶ歩きもましたから今日はここまでにしましょう。優奈さんは私と一緒に行きましょう。結希ちゃんは検査があるから、病室で待機しててね。」
三枝さんがさりげなく毒を吐いてる。段々と親父の扱いが分かってきた気がする……。
「はい! あ、優奈。明日、部屋に行ってもいい? 一緒に遊ぼうよ!」
「いいよ。俺も暇だしな」
「じゃ、連絡してから行くねっ! ばいばーい」
走り去っていく結希。本当に犬みたいだなと思いつつ、三枝さんの後ろを追いかけた――。
すると、黒板や映像機器が準備されている教室のような場所へ案内された。そこには、なぜか服のショップにあるような簡易な更衣室と収納ボックスのような物が鎮座していた。
「それじゃ罰ゲームを始めますね?」
にっこりと笑顔を浮かべ、手をわきわきさせながら近づいてくる三枝さん。すごく、怖いです。
「え、冗談じゃなかったんですか?」
「というのは冗談ですけど、それに近いことはしますよ? 図らないと下着が準備出来ませんから。服、脱がせますね?」
抵抗する暇もなく、鮮やかに脱がされる俺。手慣れすぎじゃないですか?
「――すっごく綺麗ですね。私、自信なくすなぁ。それじゃ失礼します」
「あ、あのすっごく恥ずかしいんですけど……」
同じ性転換者だとしても体を見られるのは恥ずかしいな……。顔が火照っているのを感じながら、俺は三枝さんに色々な所を弄られてしまった。もうお嫁にいけないっ! いや、いかないけどね?
「こんな所ですかね。残念ながら、お洋服は用意しておりませんので、後で身長や体重、スリーサイズをお母様に連絡しておきますね。なぜか下着は先生の指示で取り揃えてますので、優奈さんだとこちらですかね……。この中でお好きなのをお選びください」
一面に広げられた魅惑の布たち。これ、俺が選ぶのおおお? 見るだけでもきついのに……。
「えっと、全く善し悪しが分からないんですけど……」
「気になったのをご試着してみてください。着けてて楽なのが一番じゃないかと」
「えぇ! も、もう何でもいいです。青が好きなんでこれにします!!」
色鮮やかな魅惑の花園から、青のセットを取り出す。シンプルなのでいいんです。フリルが付いてて、ヒラヒラしてるやつなんて恥ずかしくて見に着けてられるかっ! それに誰にも見せないしな!
元男として抵抗はすごくあったけど、我慢して試着する俺。あ、何か胸の当たりが楽になった気がする。下も別に問題なさそうだ。
「――問題なさそうです……」
「それじゃ、そちらと同じ種類の物の色違いが何点かありますので、ご一緒にしておきますね?」
その後、三枝さんによる座学、学校で受けた保健体育の復習のようなものを受けた。小学校の時、男子と女子で別れて授業受けた事もあったけど、女子はこんな内容だったのかなぁ。
「だいぶ時間が掛かってしまいましたね。今日はここまでにしましょう。」
閉め切られたカーテンの僅かな隙間から差し込む光は茜色。いつのまにか随分と時間が経過していたようだ。羞恥心に耐えてて、時間を気にする余裕もなかった……。
「やっと、終わった……」
「あ、余談ですけど、優奈さんが選んだ下着は、先生が購入したものなんですよ? やっぱり親子で趣味が似てるんですね! 『シンプルイズベストだ!』って言って選んでましたよ?」
微笑ましいものを見たかのような表情をする三枝さん。マジで本当にいらない情報ですね!? 今、すげー選び直したくなりましたよ?!
「親父と趣味が同じ……」
三枝さんから下着の入った袋を受け取り、重い足取りで部屋を後にする俺だった――。