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手術終わっちゃいました。

 目を覚ますと、眼前には汚らしい親父の顔が広がっていた。


(うおおおお、汚い顔を近づけるなっっ)


叫んだ筈なのに、なぜか声が出ず、思い切り咳き込んでしまう。体も思うように動かない。


「無茶するな。まだ手術が終わってから、三日しか経過していないんだ。体が馴染むまでは寝てろ」


親父は俺の身体を真剣に観察しているようだ。真面目な顔も出来るんだな。というか、三日も寝てたのか……。


「やばいな。やっぱすごいわ俺。めっちゃ良い感じに仕上がってる。若い頃の母さん超えたわ……」


待て待て。少しでも湧き上がった俺の尊敬の念を返せ。何よりも、俺の男としての体を返せ。


「術後の経過は良好だな。ま、分かってた事だけどな! 後、リハビリとか色々あるから、家に帰ったり、学校に復帰出来るのはもうちょっと先になるから! んじゃ! 俺、他の仕事もあるから行くわ」


仕事は終わったと言わんばかりに去ろうとする親父。そうはさせまいと俺は思いっきり親父の白衣を握りしめた。


「潤んだ瞳とギュッと服を握りしめる姿とか反則だろ……。いかん、すげぇかわいい。いやいや、我が息子に欲情してどうする。あ、娘か」


俺は服を破る勢いで握りしめたつもりだが、どうやら、全く力が入らないらしい。いや、そんな事はどうでもいい。とにかく、俺を元の体に戻せ。


「ちなみに元の体に戻せっていうのは現状は不可能だからな。今後、研究が更に進めば可能になるかもしれないが……。今の所は一方通行だ」


一方通行って冗談だろ……。まだ全く体が動かないから確認出来てないけど、俺の体はどうなってるんだ。


「ま、戸惑うのも分かるけどな。何、女性化出術をしたのは、お前が初めてって訳でもない。既にリハビリに移行している子もいるし、社会復帰している子もいる。その子らから、色々と教えて貰え」


どうやら、俺以外にも、既に何人かの性転換者がいるらしい。


「じゃ、今度こそ行くな」


今度こそ去っていく親父。もう俺には何をする気力も残っていなかった。 これから、どうなるんだろう? どうやって生きていけばいいんだろう? 色々な考えが浮かんでは消えていく。

頭痛を感じるほど考えている内に、いつのまにか意識を失った……。



――次に目を覚ますと、寝すぎていたためか、そのだるさは残っているものの、体は動くようになっていた。


「考えすぎて寝ちゃったみたいだな……。って声が出る! てか、声たかっ」


今までの自分の声とは全然違う。鈴が鳴るようなってこんな感じか……。とか、意味の分からない自画自賛をしてみる。


かなり混乱していると、扉のノックと同時に、研究所なため、看護婦さんが適当かは不明だが、それらしき制服を着ている人が入ってきた。


「おはようございます。目を覚まされたのですね。ご気分は如何ですか?」


落ち着いた口調で話しかけてきた看護婦さん。その声のおかげで少しだけ冷静さを取り戻す俺。おはようってことは、朝みたいだな。


「あ、はい。何とか体も動かせそうです。っていっても、まだ状況が把握出来てないし、理解も納得も出来そうにないですが……」

「急激な変化ですもの。いくら準備していても、すぐには受け入れられませんよ。あ、自己紹介が遅れて申し訳ございません。私、性転換をされた皆様のお世話をさせて頂いている三枝みよりと申します。お腹は空いていませんか? 簡単にですが、朝食を作ってまいりました」


そう言われると、お腹がすごく空いている気がする。ずっと寝てたもんな……。


「俺は瑠璃原優人です。ありがとうございます。いただきます」

「かしこまりました。すぐ準備しますね」


穏やかにほほ笑む看護婦さん。落ち着いてみてみると、一つにまとめ上げている髪、少し垂れ下がった目が印象的な美人さんだ。


「はい。どうぞ召し上がれ」


どうやら、準備が整ったようだ。あれ、これどっかで見たことありますよね。


「いや、何かすごいトラウマを感じるものがおいてあるんですけど……」


用意されたお皿には、馬場に羽交い絞めされた際に飲まされた白い液体。


「ご希望に沿えず、申し訳ございません。術後、いきなり固形物は負担が大きいと思いましたので、流動食を準備いたしました。大丈夫です! 見た目はともかく、味は保証いたします!」


小さくガッツポーズを作りながら、三枝さんがアピールしてくる。うん、かわいい。だけど、かわいいだけじゃ許されないことも世の中あるんですよ?


「もしご自分で食べられないのでしたら、馬場さんをお呼びしますが……」


心配そうな表情で、不穏な事を言う三枝さん。いや、なんで態々、馬場さんを呼ぶ?! 自分でやろうとは思わないの?!


「あ、本当に結構です。彼を呼ぶくらいでしたら、もう覚悟を決めて自分で食べます。手が動かなければ足を使ってでも食べます」


馬場が来るくらいならと、すぐに覚悟は固まった。もう食べるしかない。


「っはむ。あれ、意外と美味い。前はリンゴだったけど、今度はオレンジか……。しかも喉越しも悪くない」

「お気に召していただけたようで何よりです。さて、朝食後ですが、先生より経過観察をしていただく予定となっております」

「分かりました。声も出せるようになったので、この怒りを存分に親父にぶつけます」


あっという間に食事を終えた俺。流し込むだけだしな。とにかく、もう一度、元の身体へ戻れないか確認してみるつもりだ。


「ふふっ。あ、そう言えばまだお姿を見ていませんよね? こちらをお使いください」


小さく笑いながら、手鏡を差し出してくる三枝さん。

ついにこの時が来た。考えないようにしていたが、すごく自分の姿を見るのが怖い。差し出された鏡は受け取ったものの、全く動けずにいた。


 不意に背中に優しい温もりを感じる。どうやら、後ろから三枝さんに抱きしめられたらしい。


「大丈夫です。とてもかわいらしい女の子ですよ? 私もあなたのような娘が欲しいと思ってしまうぐらいです!」


変な方向に慰められたけど、本気で言っているのは伝わってきた。とにかく、見てみないと始まらないのは確かだろう。


「い、行きます」


手を震わせながらも、俺は思いっきり手鏡を持ち上げた――。

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