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きっかけの夕食。

 鏡の前には美少女がいた……。

 自分が理想としていた恋人像のように、流れるような黒髪、パッチリとした瞳、出るとこは出て、ひっこむとこはひっこんでいる身体。

そして、何よりも、制服のスカートとハイニーソックスの間、いわゆる『絶対領域』が非常にまぶしい。

 是非とも、お近づきになりたい、出来ることならば恋人となりたいそんな風に思ってしまう。

だが、それは不可能だ。なぜならそれは……。


 ――俺自身だから。



「女って楽だよな。就職や進学が出来なくても、結局、好きな事した後に結婚すればいいもんな」


 ある日の夕食中、テレビを見ながらなんとなしに独白する俺。


「なーにいってんのよあんた。女だってそんな甘いもんじゃないわよ。そんなこと言うなら女の子になっちゃえば!!」


 そんな俺のしょーもない呟きに、目の前に座ってるお袋から言葉が返ってくる。


「それが出来たら苦労しないよ……。まぁ愚痴いってもしょうがないけどさ」


 俺、瑠璃原優人が愚痴を言ってしまうのも理由があった。

 今日、学校から通知された試験結果が芳しくなかったからだ。

実力試験の結果、希望大学への合格率は約四割。普段の授業は真面目に受けており、予習・復習をしていたにも関わらず――だ。


 それもあって、その日の俺はどうかしていた。テンションがおかしかった。だから『女になりたい』だなんて言ってしまったんだ。

 それが、どんな結果を生むことになるかも知らずに……。


 つけっぱなしにされているテレビからは、世界人口の減少は益々、深刻化。さらに、男女比九対一という問題に対し、男性の内、適性がある者を女性へ性転換する技術が実用化。各国で続々と男性の女性化が進んでおり、最初の性転換者については、既に社会復帰を果たしているといったニュースを淡々とキャスターが読み上げてる最中だった。


「あら、ちょうどタイムリーな話題じゃない。あんた、これ受けてみる? 私、娘が欲しかったのよね! 本当は!」

「ははっそれもいいかもな。はぁ……」


 お袋は何か一人でテンションを上げて騒いでいる一方、やっぱり俺はダメージから立ち直れてないようだ。折角、お袋が作ってくれたカレーライス。好物を前にしても食が進まない。

 お袋の言葉も右から左、うわの空で受け答えしていた。


「はい、決定ね! じゃあ、お父さんに言っとくから。心の準備しときなさいよ~ あぁ、夢に見た女の子! 服とか色々、準備しとかなきゃね♪」

「あぁ、うん。ごめん、頼むわ。俺もう、風呂入って寝るわ。おやすみ」


 考えても仕方ないから考えることを破棄した俺はさっさと寝ることにした。明日から気持ちを切り替えて頑張ろう。うん。そうしよう。


「あら、あんたも乗り気ね。そうね。明日から忙しいもんね。色んな意味で。うん、早く寝ちゃいなさい。後はお母さんがやっとくから」


 何かお袋がやけに優しいなぁ。本当なら成績が悪かった事を叱られるかなって思ってたのに。

なんて、見当違いの事を考えながら、風呂に向かう俺だった。



 ――翌日。目を覚まし、自室の窓のカーテンを開けると、家の前に大きなリムジンが止まってるのが見えた。

 どうやってこんな狭い路地まで、あんなにでかい車で入ってきたんだろう。

ま、俺には関係ないか。

 ゆっくりと階段を降りて、食卓に着いた俺は、準備されていたいつものラインナップの朝食へ箸を伸ばす。


「優人! 何してるの! もう迎えに来られて、家の前で待ってるわよ!」

「え、迎えに来たって? 誰が? なんで??」


 状況が全く理解出来ない。急に金持ちになったとか? いや、それはないか。目の前にある朝食はいつもと変わらない。味噌汁とご飯と魚だし。


「もう、とぼけなくていいから! さっさと行きなさい! はい! これ持っていきなさい!」

「わ、わかった。行くから押さないでよ……」


 急いで身支度を整え、玄関を出ると、黒いスーツにサングラス。短く刈り上げられた頭髪の男性が待ち構えていた。どうみても裏の世界の人です。本当にありがとうございました。


「お待たせいたしました。どうぞ、お乗りください」


 見た目とは裏腹に、優雅に俺へと最敬礼をした裏世界の人は、長く伸びた車の後ろのドアを開けた。


「優人のことよろしくお願いします。ちょっとこっちおいで。」


 そう言って俺を抱き寄せたお袋は、なぜか涙ぐんでいた。


「え、なんで泣いてるの? てか、今から俺、どこいくの?」


 訳も分からないまま、車に押し込まれる俺。そして、無情にも車は走り出す。


「行けば分かるわよ。あんたが夢を叶えられる場所。この姿のあんたを見るのは今日で最後だと思うけど、新しいあんたと会えるの楽しみにしとくね」


 ――そんなお袋の声をバックに、リムジンはとある場所まで走りだした。


 三十分程度走っただろうか。目の前には大きな病院。いや、研究所があった。ここには幼い頃によく行った。

 瑠璃原研究所。父、瑠璃原正孝が所長を務めているからだ。


「ご案内致します。私に着いてきてください」

「あの、一体何が始まるのでしょうか?」

「あの方にお会いすれば、お分かりになるかと思います。」


うん。答えになってないなー あの方って、どなたですよ。

 不安と緊張で震える足を何とか動かしながら、裏世界さんに着いていくと、広いロビーへと出た。白を基調とした清潔感溢れる室内とは対照的に、髭も髪も伸び放題。不清潔感漂う物体。もとい、我が父が立っていた。


「母さんから話は聞いたぞ。よく決心した。大丈夫だ!お前には適正があることは分かっている。さぁ、早速、始めようか。女性化手術を!!」

「は……? いやいやいやいやいやいや!! いつ?? 誰が?? どこで?? そんなこと言ったああああああああ??!!」


 勢いよく何とんちんかんな事を言ってやがりますか我が父よ……

そういや、何か昨日、お袋が何か言ってような気がするけど、なんでこんな話になってる?!


「心配なのは分かる。だが大丈夫だ。私自ら執刀するし、成功率は一○○パーセント。万に一つも失敗はない。」

「ねぇ? 俺の話聞いてる? なんで勝手に話進んでるの? いや、俺、女に何かなりたくないし! いや、確かにうらやましいとは言った気がするけどさあああああ」

「まぁまぁ。これでも飲んで落ち着け。むしろこれ飲め。馬場君、頼む」


 『分かりました』とさわやかな笑顔で答える裏世界の人。馬場っていう名前なのか。ってすげぇ力で押さえつけられてたんですけど?!


 そして、バリウムのように白く濁った液体が入ったコップが無理矢理、口に押し付けられる。一生懸命に口を閉じようとするが、馬場がそれを許さない。


 喉越しは最悪だったが、味はリンゴといったよく分からないけど、意外とおいしいそれを嚥下した瞬間、俺は意識を失った……。

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