鬼ヶ島天都の始末
「おとなしくプリンを返しなさい、この極悪非道めがっ! このあたしが成敗してくれるわ!」
佳久也が天都のいる部屋まで案内すると、桃香は水を得た魚の如くいきいきし始めた。
「え、ちょっ、どういうこと?」
状況を問う天都に、桃香は容赦なく蹴りを食らわせる。
「つべこべ言わずにブツの在りかを吐けっ! さもなくば簾巻きにして海に沈めてやる!」
戸惑う天都。見下ろす桃香。どっちが悪人なのか分からない。
天都が状況を把握する前に、どこからか取り出してきた縄で縛り始めてしまうから質が悪い。
「本当にどうして佳久也くんのお姉さんってあんな乱暴なの……?」
台風の後のような荒れ模様の室内で、簾巻きにされ転がされた天都が、力なく溜め息を吐いた。
「昔からです。小さい頃から近所の子供(主に犬山薙伸)を従えて町を闊歩してましたよ」
身動きの取れない天都の状態を、あまりに可哀想だと判断した佳久也は、縄を解いていた。結び目がきつく、さっきやっと左腕を自由にしたところだ。
「佳久也くんはこんなに可憐なのにねえ」
「#%&*△に゛ゃっ!?」
尻を撫でられた。
「やめてください」
手を払い除ける。
「減るもんじゃないし、良いじゃん別にー」
「良くありません! 痴漢は犯罪です!」
「犯罪じゃなければ良いんなら、佳久也くんが合意してくれれば――」
「誰が! ぼくは変態じゃありません!」
「えー、つれないなぁ」
「あんまりしつこいと、このまま放置しますよ? それから、交番に被害届を出してきますね……痴漢は親告罪ですから」
「……もしかして最近、お姉さんに似てきた?」
それはそれで良いかもしれないね、とかぶつぶつ言っている。脳が腐っているに違いない。
「佳久也ー、ついでに服見つけたけど、いる?」
目的の物を発見したらしい桃香が、ひょっこりと顔を覗かせる。
「何やってんの……お邪魔なら出てくけど」
「邪魔じゃないよ! ていうか、むしろ助けて」
「構うから付け上がるのよ。放っておきなさい」
「え、でも痛そうだし可哀想」
「佳久也くんはなんて優しいのだろう! 女神のようだ!」
「だってさ。大丈夫、先輩んち家政婦いるし、ほどいてくれるでしょ」
「……ごめんなさい先輩、帰ります」
そこで謝ってしまうのが佳久也の佳久也たる由縁である。
◆
そんなことがあって、無事に事件(?)は解決したものの、結局最後まで薙伸は放置されっ放しだったとさ……。