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月には帰りません!  作者: 夏岸希菜子
第0話*佳久也誘拐事件
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鬼ヶ島天都の始末

「おとなしくプリンを返しなさい、この極悪非道めがっ! このあたしが成敗してくれるわ!」

 佳久也が天都のいる部屋まで案内すると、桃香は水を得た魚の如くいきいきし始めた。

「え、ちょっ、どういうこと?」

 状況を問う天都に、桃香は容赦なく蹴りを食らわせる。

「つべこべ言わずにブツの在りかを吐けっ! さもなくば簾巻きにして海に沈めてやる!」

 戸惑う天都。見下ろす桃香。どっちが悪人なのか分からない。

 天都が状況を把握する前に、どこからか取り出してきた縄で縛り始めてしまうから質が悪い。


「本当にどうして佳久也くんのお姉さんってあんな乱暴なの……?」

 台風の後のような荒れ模様の室内で、簾巻きにされ転がされた天都が、力なく溜め息を吐いた。

「昔からです。小さい頃から近所の子供(主に犬山薙伸)を従えて町を闊歩してましたよ」

 身動きの取れない天都の状態を、あまりに可哀想だと判断した佳久也は、縄を解いていた。結び目がきつく、さっきやっと左腕を自由にしたところだ。

「佳久也くんはこんなに可憐なのにねえ」

「#%&*△に゛ゃっ!?」

 尻を撫でられた。

「やめてください」

 手を払い除ける。

「減るもんじゃないし、良いじゃん別にー」

「良くありません! 痴漢は犯罪です!」

「犯罪じゃなければ良いんなら、佳久也くんが合意してくれれば――」

「誰が! ぼくは変態じゃありません!」

「えー、つれないなぁ」

「あんまりしつこいと、このまま放置しますよ? それから、交番に被害届を出してきますね……痴漢は親告罪ですから」

「……もしかして最近、お姉さんに似てきた?」

 それはそれで良いかもしれないね、とかぶつぶつ言っている。脳が腐っているに違いない。

 

「佳久也ー、ついでに服見つけたけど、いる?」

 目的の物を発見したらしい桃香が、ひょっこりと顔を覗かせる。

「何やってんの……お邪魔なら出てくけど」

「邪魔じゃないよ! ていうか、むしろ助けて」

「構うから付け上がるのよ。放っておきなさい」

「え、でも痛そうだし可哀想」

「佳久也くんはなんて優しいのだろう! 女神のようだ!」

「だってさ。大丈夫、先輩んち家政婦いるし、ほどいてくれるでしょ」

「……ごめんなさい先輩、帰ります」

 そこで謝ってしまうのが佳久也の佳久也たる由縁である。


 ◆

 そんなことがあって、無事に事件(?)は解決したものの、結局最後まで薙伸は放置されっ放しだったとさ……。


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