鬼ヶ島邸に来てみれば
鬼ヶ島天都の家は、絵にも描けないレベルの豪邸だった。金持ちだとは知っていたが、門の内側まで来たのは初めてなのだ。
まず、鬼ヶ島家に着いて寝室に通された。そして、「脱げ」と天都。佳久也は抵抗もむなしく強引に脱がされた。何をされるかと思えば、天都は着替えを持って来ていた。佳久也に貸してくれるという。着て安静に寝ていろということらしい。
「ただの着替えで良かったです……」
ベッドの縁に腰掛けて、佳久也は呟いた。
「いくら僕が変態でも病人を襲う趣味はないさ」
本人にも変態の自覚はあるらしい。紳士的な対応をする天都を少し見直しかけた。
だが、渡された「寝間着」を広げて見て、やっぱり変態は変態だと思い直す。これは寝間着ではない。
黒を基調としたデザインに、フリルがふんだんにあしらわれたエプロンドレスである。無論、女物だ。
「……これはどういうことですか、先輩」
女装? コスチューム・プレイ?
「似合うと思ってね。つい、佳久也くん専用に作らせてしまったんだ」
「着てた服を返してください」
「さて、そんなものあったかなあ?」
あくまでしらを切るつもりらしい。確か、あの後佳久也の衣服は、お手伝いさんと覚しき人が持っていってしまった。返してもらえるのだろうか。
「とぼけないでくださ――ふぇっくし!」
佳久也がくしゃみをすると、天都は急に慌て出した。
「佳久也くん! 大丈夫か? 早く着ないと体が冷えて風邪を引いてしまう!」
佳久也は、もしかして返してもらえるのかと期待してしまったが、それ以上に天都は変態だった。
「よし、僕がこの腕に抱いて温めてあげようじゃないか!」
がばっと両腕を広げ、佳久也に抱き付こうと勢いよく飛び込んできた天都。
「ぎゃああああ無理無理無理っ! 着ます、着ますよ! 着れば良いんでしょ!?」
枕を投げつけながら、金切り声を上げて佳久也は降参した。走って逃げる気力も起きない。頭が痛い。病状は悪化の一途を辿るばかりのようだった。