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The Reath  作者: tazdev
6/7

The Reath【6】

誰得な動物オンリー異世界ファンタジー。少しずつ、異世界リースの謎が明らかに……?

「なっ!?」

「……迷いし者、だと!?」

ヴォルクの答えに再びオオカミの群れがざわめく。そして、ピィィィッと甲高い風のような音が群れの半ばほどから聞こえると。


死ネッ!!


ヴォルクのものではない精霊が2匹、ソラ目がけて襲いかかってきた。


サセナイヨ!!


パシッとそれを受け止め、ソラの身を守ったのはさっきからソラの周りで漂っていたヴォルクの精霊たちだ。

それを見た群衆の中の二頭が「ヴォルク、貴様……っ!!」と群れから抜け出て、ヴォルクに向かって白く鋭い牙をむいた。


……動じるな。と言ったのはこのことなんだ。


突然飛びかかってきたオオカミたちだが、「何事にも動じるな」と先にソラに述べていたように、ヴォルクにはその行動が予測出来ていたらしい。

ひらりと軽く体をひねり、ヴォルク目がけて突っ込んできた一頭の攻撃を訳もなくかわす。襲いかかってきたオオカミの白い牙はガチッと耳障りな音を立てて空しく宙を咬んだ。攻撃が不発に終わった、と彼が気が付いてももう遅い。攻撃を避けたヴォルクはすぐさま態勢を整え、攻撃者の脇腹に牙を食いこませて相手の体をひねりあげ、いとも簡単に地面へと叩き伏せる。


ギャンッ


かなり激しく叩きつけられたのだろう。反撃を食らったオオカミは悲痛な悲鳴をあげ、戦意喪失のサインをヴォルクに示した。

その哀れな敗者の姿をヴォルクは冷めた視線で一瞬だけ見やり、もう一頭のオオカミからの攻撃に備えるために身構える。

ヴォルク相手では無理だ。仲間のオオカミが一方的にやられた光景を目の当たりにした別のオオカミは、ヴォルクから小柄で、見るからに非力そうなソラにターゲットを変えた。喉の奥から低い唸り声を上げながら、赤く暗い大きな口を半開きに開け鋭い牙を見せびらかし、ソラへと突進してきた。


……絶対にあたしがチビだからって甘く見てるよねっ。やってやろーじゃん!!


完全に舐められ切ってるとしかいいようのない、オオカミの素早いターゲット変更はソラが元来持っている「負けず嫌い」で「勝気」な一面を刺激する。

ソラは確かに小柄だ。群れの中では一番の小ささだったし、同じ年に生まれた他のオオカミたちの平均に幾分か足りない体格だということを自覚はしている。

が、喧嘩が弱いかどうかと言われたら決して弱いと言われるオオカミではない。

小柄ということ、そして小柄だからこそ磨かれてきた負けん気の強い性格を武器に戦うことを学んできた。

幸い傷ついている四足の痛みは先ほどの休憩でほとんど引いており、立ちあがってみても気にはならない程度なので多少暴れでも問題はなさそうだ。


うん、大丈夫。あたしは出来る。


ソラは逃げもせずに真正面から襲いかかってくる自分よりも体格のいいオオカミ相手に全くひるむことなく、最初の攻撃を見極めるために体を低く屈めて構え、唸った。

大きくジャンプした相手の牙が目前に迫った瞬間を見計らって低く跳躍、ソラは上手い具合に相手の懐へと潜り込む。そのまま体をひねると、頭上に位置する相手の下腹に思いっきり一咬みお見舞いして後方へと距離を取る。体が小さくて小回りが利くからこそのソラの戦闘術だ。相手は格下だと侮っていたチビオオカミの思わぬ攻撃に一瞬たじろいだが、再びソラに向かって対峙したときには瞳に怒りの感情を浮かべていた。……こんなチビに牙を避けられ、それどころか攻撃されたという事実が自分のプライドを甚く刺激した模様だ。

「クソッ、大人しくやられておけばいいものを!!」

再びソラに飛びかかってこようとしたが、ダカラ、サセナイッテバ!!と二頭の間に現れたヴォルクの三匹の精霊――他の二匹は、敵の2匹とくるくる踊るように争っている――に行く手を阻まれた。

そして突然の精霊の出没に思わずたたらを踏んだオオカミに、横から黒い大きな影が飛びかかってきて。


キャウンッ


彼は簡単に影の――ヴォルクの足元へと転がった。ヴォルクの大きな口に喉元を咥えられながらも、そのオオカミはまだ闘争心を失ったわけではないらしく必死で抵抗しようと四本の足で空しく宙をかく、が。

「そこまでじゃ」

低い、だが良く通る初老のオオカミの言葉によって、突如始まった戦闘は終わりを告げた。

ヴォルクはグルル、と喉を鳴らしながらも大人しく口から相手を放し、転がっていた2頭のオオカミは慌てて元いた群れの元へと戻っていく。

それを見届けた初老のオオカミは鋭い眼光でヴォルクを見据え、口を開いた。

「ヴォルク、一体何故その迷いし者を庇うのじゃ?」

ヴォルクとそのオオカミの間に、見ているこちらまで伝わってきそうな一色即発の緊張感が走る。

「……ヴァーガ。信じられんようだが、この「迷いし者」には「精霊」が見えているらしい」

ヴォルクは普通の神経の者だったら、視線をそらしてしまいそうになる初老のオオカミの視線を真っ向から受け止めつつ冷静に答えた。

ヴァーガ、と呼ばれた初老のオオカミは予想すらしていなかったヴォルクの答えに、眼光から鋭さを消し、思わず眼を丸くする。

他の群れのオオカミたちもそうらしい。再び「はぁ?」「でも迷いし者って契約してないんだよね?」「……うそだろ」と群れの中がざわめき始める。

契約ってなんだろう?っていうか、さっきからよく耳ににする「迷いし者」ってあたしのことだよね。と騒ぎを横目に一頭考えていたソラに向かって、ヴァーガと呼ばれたオオカミは声をかけた。

「……おチビさんや。お主、名前はなんという?」

「ソラです」

ソラを見つめるヴァーガのまなざしには、先ほどのような鋭く凍てつくようなプレッシャーは見えない。おかげでどもることも口ごもることもなく、ソラは自分の名前をきちんと言えた。

「……ソラ殿、か。ほう。いい名じゃのう」

低く柔らかいヴァーガの声で自分の名を褒められ、どこかくすぐったいような誇らしいような感情がソラの体を走る。

「……ところで、先ほどヴォルクが言っとったが。

 ソラ殿には精霊が見える、と言うのは、本当のことかの?」

見た目には優しいが、しかしよく見れば疑心暗鬼の灯る視線を受け、ソラはそれでも恐怖することなくしっかりとした口調で答える。

「精霊って、透明のような、でも色があって、形があるように見えて、でもすぐにそれは崩れて、ヴォルクが5匹持ってる、変な生きもののことですよね?

 だとしたら、あたしには精霊が見えてるんだと思います」

ザワッと群れのざわめきが再び大きくなる。

「……ということだ、ヴァーガ。こいつは俺が名乗る前に、精霊の言葉を聞いて俺の名を知った。

 こいつに精霊が見えてるのは確実だ」

ヴォルクの発言も相まって、ますます群れの混乱は激しくなる。

「静まらんか、馬鹿どもが!!」

ヴォルクの一喝に、ようやく群れは少しばかり落ち着きを取り戻すが、それでもかすかに「おい、なんかおかしくね?」「精霊見える迷いし者なんて聞いたことないよ」というような小声の囁きは少しの間続いていた。

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