クリスマス
「はい、雨はブラック、海意はミルク多め、あたしは砂糖多め!」
そう言って、コーヒーが入ったカップを机の上に置く。
「ありがと、紀衣ちゃん」
チョコレートに伸ばしていた手の方向を変え、よつばのカップを取る雨。
「よく飲めるよね、そんな苦いの」
眉間にしわを寄せて、ついでに心の中だけで付け加えてみる。インスタントは飲まないなんて、贅沢だけど。
「苦いのが美味しいの。インスタントはどうあがいても本当には勝てないんだよ」
肩をすくめて、黒くて艶のある髪を耳にかける雨は、綺麗なんだよね、と改めて思う。自覚がないのがどうにも、って感じではあるけれど。
「劣化版か」
「うん、廉価版」
新しく覚えた言葉を使ってみたくて口にしてみるけれど、微妙に違う風に覚えていたらしく、雨と少しトーンが違った。
「なあ、ケーキは?」
ピッ、と暖房の温度を設定しなおした海意が期待した風にあたしを見る。
「そんなにお菓子食べといて何言ってんの」
「あ、そっか、紀衣は太るの気にしてんのか」
けらけら楽しそうに笑いながらこっちを見る海意――または双子の弟――を蹴り飛ばす。
「年末年始に体重増えるの当たり前、それから痩せればいいんだよ」
呆れた風に呟いて、雨はチョコレートをひとつ、口の中に放る。それから少し笑みを零して、あたしに「ひとつ食べる?」と声をかける。
あたしは海意の言葉が気になったわけじゃないけれど、少し考えて、雨の隣に座る。手を伸ばすに決まっているでしょう。
だって、年に一度しか来ないんだから。
「メリークリスマス!」




