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野井琅世のエッセイまとめ

麻酔が効いていないのに歯の神経を抜かれた話

作者: 野井琅世
掲載日:2026/09/10

題名から分かると思いますが、かなり痛い話です。

苦手な方は避ける様にお願いいたします。



 これは、初老のオッサンである私が十代だった時の話です。

 当時、高校生だった私は、前歯の神経がやられました。

 後から歯医者の先生に聞いた話だと、詰め物が外れて、そこから神経がやられたとの事でした。

 で、まあ、激痛です。

 歯と歯が触れただけで、とんでもない激痛が走る程でした。

 歯医者の予約を入れたのですが、夜もまともに寝れない程で、市販の痛み止めを飲んでも耐えられませんでした。

 そのため、歯医者に無理を言って、急患扱いで治療してもらえる事になりました。

 あの時程、歯医者に行くのが喜ばしいと思えた事は他にありません。


 で、治療となり、レントゲンを撮って、神経がやられているのを確認。

 神経を抜く事になりました。

 この時が、私にとって、歯の神経を抜く初めての経験です。

 生来小心者の私は、神経を抜くと聞いてビビり倒しました。



 嫌だな。嫌だな。怖いなぁ。



 そんな感じで、内心、ビビり倒していたのです。

 ビビり倒す私の気持ちなど知らず、歯医者の若い先生は淡々と治療の準備を進めます。

 私としても、激痛に耐えながら生活するのは嫌なので、覚悟を決めました。


 そう、覚悟を決めてしまったのです。


 麻酔を打たれ、歯を削られ、後は神経を抜くだけになりました。

 この頃には、私の覚悟は完全に決まっていました。



 どんな痛みでも来てみやがれ!



 そんな気持ちでいました。

 今思うと、完全にいらない覚悟です。

 しかし、当時の私は、神経を抜くのは痛いはずだと思い込んでいたのです。


 そんな私の歯にねじ込まれる治療器具。




 そして、全身を貫くかのような激痛!!!!




 とんでもない激痛でした。

 しかし、私は覚悟していたのです。

 覚悟してしまっていたのです。



 何を血迷ったのか、私は耐えきりました。



 呻(うめ)き声すら上げず、身じろぎ一つせず耐えきってしまったのです。



 ただ、顔だけは歪(ゆが)み切っていました。

 おそらく、鬼の様な形相(ぎょうそう)になっていたはずです。

 それでも、声すら上げていないので、歯医者の先生は麻酔が効いていない事に気づいていません。

 そして、私も麻酔が効いていれば痛くなどないと気づいていません。

 結果、不幸な出来事が訪れます。



 そう、何の気なしに顔を上げた先生と、鬼の形相の私の目が合ったのです。



 次に起きた出来事は、今も忘れられません。

 何というか……



 恐ろしく速いバックステップ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。



 と、言う感じでした。

 歯医者の先生が、治療中にバックステップを決めるのを、後にも先にも、あの時以外に見た事がありません。

 で、バックステップを決めた先生ですが、一瞬の沈黙の後、極めて冷静な声音で話しかけてきました。



「……痛みますか?」



 顔を見りゃ分かんだろっ!!!!



 そう思いましたが、私も冷静に返しました。



「痛みますね」



 先生は、無言で追加の麻酔を打ちました。

 この時になって、痛いのは普通ではないと気づきましたが、完全に後の祭りです。

 正直、名医の医院長先生に代わってくれと思いましたが、その後の治療は痛みなど無く、平和に終わってくれました。






 で、今更になって、何故、こんな文章を書いたかという話です。

 実は、最近、友人と会った時に、ふと思い出して、この話をしてみました。

 その時に、友人の一人に言われたのです。



「歯の神経って、人体が感じる痛みの中でも、かなり痛い方らしいぞ」


「ああ。二番目か三番目って聞いた事があるな」


「お前が受けたのは治療じゃない。拷問(ごうもん)だ」



 ………………


 拷問だったらしいです。


 まあ、知識としては、そういう拷問があるのは知っていましたが、他の人の口から聞くと、何とも言えない気持ちになりました。

 そして、せっかくだから、エッセイと言い張って、世に放ってやれと思い立ちました。

 それだけと言えば、それだけが動機です。



 で、今更ながら、この時の出来事を思い出して思うのです。

 麻酔が効いていないのに歯の神経を引っこ抜く。


 これ……






 ……軽い医療事故だったのでは?



一応ですが、その時の歯科医院は、医院長先生は名医です。

別の時に医院長先生に歯の神経を抜いて貰った事があるのですが、痛みも無く、ものの五分で神経を抜かれました。

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