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くろねこのニコときえるおてがみ

 美桜の家には、黒猫のぬいぐるみが二匹います。

 しっかり者のお兄さんと、まだ少し甘えん坊な弟。弟の名前はニコ。

 モモが迷子の黒猫を助けたときの“本人”でもあります。


 ニコは最近、ちょっと悩みがありました。


「お兄ちゃん、ぼくのメモ知らない?」

「またなくしたのか。ニコはほんとそそっかしいなあ」


 ニコは紙切れを集めるのが好きでした。

 ミオ(美桜)が折り紙セットから落としたきれっぱしや、ノートのはしっこ。

 そこに小さな“おてがみ”を書いて、こっそりいろんなぬいぐるみのそばに置くのです。


 「モモちゃん、きょうの耳かわいいね」とか、

 「ハリーの背中、ふわふわすきだよ」とか、

 「トト、しっぽのかたちがすてき!」とか。


 ぬいぐるみたちが誰も気づかないと思っていたけれど、

 実はこっそりみんな読んで、ほっこりしていました。


 だけど、


「この紙、ここに置いたのに……なくなってる」


 ニコはぽすんと座りこみました。


 それは今日だけでなく、ここ数日つづいていたのです。

 せっかく書いた“ほめほめおてがみ”が、いつのまにか消えてしまう。


「きっと風のせいだよ」


 とモモは言いました。

「いや、あやしい」

 とトトは鼻をひくひくさせます。


「何か、いる……?」


 その言葉に、ニコの尻尾がぴんと立ちました。


「なんかって、なに!?」


 しかし、その答えはまだ誰にもわかりませんでした。



 夜、美桜が寝静まり、家がしんとしたとき。

 ぬいぐるみの動ける時間が訪れます。


「ニコ、いっしょに見に行こう」


 とモモが言いました。


「ぼく、においでなんとなくわかるよ」


 とトトも鼻をひくつかせます。


 三匹はそーっと部屋を出ました。


 ニコのおてがみは、いつも廊下の小さな棚の上に置かれていました。

 今日も一枚だけ、白い紙切れがそっと置かれています。


「これ、ぼくが書いたやつだ。『ハリーのとげ、ふわふわでだいすき!』って……」


「かわいいなあ」


 とトトが笑いました。


 その瞬間……


 すうっ。


 紙が、ひとりでに浮いたのです。


「えっ!?」


 ニコが飛びつくより早く、紙がふわりと宙をすべり、廊下の奥へ吸い込まれていきました。


「まってぇー!!」


 三匹は慌てて追いかけました。

 紙切れは小さな蝶のようにひらひらしながら、廊下を曲がり、階段をすべり落ちていきます。


「紙なのに速い!」


「風じゃないよこれ!」


「まってよぉー!」


 飛んでいく紙が向かった先は、物置部屋でした。


 ここは、段ボール箱や古い家具が積みあがり、薄暗い影が揺れる場所。

 ニコはちょっと震えました。


「だ、大丈夫……?」


「大丈夫。ぼくがいる」


 とトトが前に出ます。


「わたしも一緒よ」


 とモモがニコの手を握りました。


 三匹は物置部屋に入ります。

 その奥で、何かが動きました。


「……あれ?」


 小さな箱がひとつ、震えるように揺れています。

 箱の隙間から、光がもれていました。


 ニコがおそるおそる近づくと、


「ひゃあっ!」


 箱がぱかっと開き、中からちいさな生き物が飛び出しました。


 体は薄い紙のようにぺらぺらで、体全体が白く光っています。

 顔は笑っているようにも、泣いているようにも見える不思議な形。


「き、君……なに?」


 ニコが尋ねると、その生き物は声のような風のような音を出しました。


「……ひらぴ……」


「ひらぴ?」


「紙の妖精かな?」


「なんだか弱ってるね」


 とモモ。


 ひらぴはニコを見て、しずかに頭をさげました。

 そして、ニコのおてがみをぎゅっと抱えこむと、ふるえて涙のような紙のしずくをこぼしました。


「もしかして……」


 ニコはハッとしました。


「だれかのおてがみがほしかったの?」


 ひらぴはこくりとうなずきます。

 ニコのおてがみは小さくてやさしくて、言葉がふわっとあったかい。

 だから、つい、持っていってしまったのです。



「……じゃあ、なおさら言わなきゃ」


 ニコはそっとひざをつきました。


「ひらぴ、ぼくのおてがみ、勝手に持っていったのはだめだよ。でも……」


 ニコはしばらく迷って、勇気を出して言いました。


「きみ、さびしかったんだよね?」


 ひらぴはくしゃりと体をふるわせ、紙の涙をぽとぽと落としました。


 モモがにっこりします。


「ニコ、おてがみ書くの得意だものね」


「そうだよ」


 とトトが言いました。


「ほめるの天才!」


 ニコは赤くなりながらも、紙切れを取り出しました。


「じゃあ……ひらぴにも書くよ」


 そして新しい“おてがみ”を書きました。


「『ひらぴへ きみはとてもきれいだよ ひかるところがすてき』」


 ひらぴはその紙を抱えて、まるで羽ばたくように震えました。

 体の白いひかりがぱあっと強くなり、部屋いっぱいに広がります。


「わっ……!」


「すごい!」


 ひらぴは満足そうに一回まわると、紙吹雪のようにきらきら舞い上がり、

 そしてすうっと、どこかへ消えていきました。


「消えちゃったね……」


 ニコがつぶやきます。


「でも、うれしそうだったわ」


 とモモ。


「うん、ニコのおてがみは力があるんだよ」


 とトトがにっこり。


 ニコは胸の奥があたたかくなるのを感じました。


「よし、明日もいっぱい書こう!」


「誰に?」


「みんなに! それから、またどこかでひらぴに届くかもしれないし!」


 三匹は笑いながら物置部屋を出ました。


 その夜、ニコの枕元には、ちいさな紙切れが一枚だけ落ちていました。


『ニコへ ありがとう ひらぴより』


 ニコはしっぽをふりながら、その紙をぎゅっと抱きしめました。

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