ハリネズミのハリーとひかりの木の実
美桜の家のリビングには、ころんと丸いハリネズミのぬいぐるみがすんでいました。
名前はハリー。
色はミルクティーのようにやわらかく、背中のとげも、ほんものみたいに痛くはなく、ふわふわしています。
ハリーはとてもおっとりした性格で、ぼうけんが少し苦手でした。
でも、みんなの話を静かに聞くのが大好きです。
とくにこのあいだの、モモがまいごの黒猫を助けた話は、何度聞いても胸がぽかぽかしました。
「ハリー、また聞きたいの?」
犬のぬいぐるみが笑います。
「……うん」
ハリーはちょっと照れながらしっぽを丸くしました。
そんなある日、家の外は少し早い夕暮れで、窓の外に金色の雲が流れていました。
カタン、とリビングの大きな時計が時を告げます。
そして、家が静かになると、いつもの“ぬいぐるみたちの時間”がやってきました。
ハリーはソファのへりに座り、外が赤く染まっていくのを眺めていました。
そのとき……
ふわり。
窓の外で、小さな光がひとつ浮かんでいたのです。
ほたるのようにやさしく明滅するその粒は、するすると近づくと、窓のすき間からぽん、と飛び込んできました。
「ひ、光の……木の実?」
ハリーは目をまん丸にします。
光の粒は小指の先ほどの大きさで、弱々しくゆらゆら揺れていました。
まるで「たすけて」と言っているように見えます。
「迷子……なの?」
ハリーがたずねると、粒はふるりと揺れました。
どうやら本当に“帰り道を失くしてしまった木の実”のようでした。
「ハリー、どうしたの?」
黒猫のお兄さんが近づいてきます。
「この子、帰りたいみたい……ぼく、送ってあげたい」
言ってみて、ハリーは心臓がどきんと跳ねました。
ぼうけんが苦手な自分が、自分からそんな提案をするなんて。
けれど光の木の実は、心細げに揺れています。
それを見ると、ハリーの胸はぎゅっとあたたかくなりました。
「行っておいで」
犬のぬいぐるみがやさしく背中を押しました。
「でも、暗くなる前に帰っておいでね」
「気をつけて」
黒猫のお兄さんも心配そうに言います。
ハリーはこくりとうなずき、光の木の実をそっと抱えました。
窓のすき間から庭へ出ると、夕暮れの冷たい風がふわりと吹き抜けます。
庭には小さな木々が並び、奥には大きな古い木がそびえていました。
光の木の実は、その木のほうへすいっと飛んで、またハリーの胸元に戻ってきます。
「こっち……なんだね」
ハリーは足をちょこちょこ動かしながら、庭の奥へ向かいました。
草を踏むと、しっとりとした土の匂いがふわりと立ちのぼります。
古い木の根元には、小さな小さな穴があいていました。
光の木の実は、嬉しそうにきらりと光りました。
「ここが……君のおうち?」
粒は喜びでふるふる震え、やさしい光を広げます。
そしてすっと、穴の中へ吸い込まれるように帰っていきました。
「よかった……」
つぶやいた瞬間、木の葉がふわりと揺れました。
枝のあいだから、金色の細い光がひとすじこぼれ落ちます。
それは“お礼のひかり”でした。
ハリーの足もとに落ちると、小さく輝いて、そのまま溶けるように消えてしまいました。
ハリーは胸に両手をそっと当てました。
あたたかさが、いつまでも残っています。
「……ぼく、できたんだ」
その言葉は風より小さく、けれど確かな誇らしさが込められていました。
家の中から、ぬいぐるみたちが心配そうに顔をのぞかせます。
「ハリー!」
「無事だったの?」
ハリーはくるんとしっぽを丸め、はにかむように笑いました。
「うん。ちゃんと、送ってこれたよ」
ぬいぐるみたちは拍手をして喜びました。
モモも自分の部屋から戻ってきて、まっさきに声をかけます。
「ハリー、すごいよ!」
「……ちょっとだけ、がんばった」
ハリーの言葉に、みんなはさらに嬉しそうに笑いました。
その夜、ハリーはソファの端で丸くなりながら、そっと外を見つめました。
庭の古い木の枝先では、ほんのり金色の光が揺れているように見えます。
「また……会えるといいな」
やさしいつぶやきは、夜風にのって、庭の奥へと流れていきました。




