番外編 美桜と夜の小さな気配
夜の風は、ひんやりと肌を撫でていました。
美桜はベッドの上で目を覚まし、ふと窓の外を見ました。
月がまんまるに輝き、庭の木々に銀色の影を落としています。
胸の奥がざわつき、なんとなく昨夜のことを思い出しました。
ベッドの脇に置いたぬいぐるみたちを見つめると、微かに心がざわつきます。
夜中に何かが動いた気がしたのです。
布の柔らかい感触のはずなのに、ほんのわずかに位置が変わっているような……そんな気がしました。
「気のせい……かな」
美桜はそうつぶやき、毛布をぎゅっと抱きしめました。
でも、胸の奥に小さな期待や好奇心も芽生えていました。
まるで、ぬいぐるみたちが自分を見守ってくれているような、そんな気がしたのです。
窓の外を見ると、庭にうっすらと月光が差し込み、影が揺れています。
木の葉が風に揺れ、カサカサと音を立てました。
その音の中に、どこか小さな生き物の気配を感じます。
思わず美桜は息をひそめ、耳を澄ませました。
「誰か……いるの?」
声には出さず、心の中で問いかけます。
でも答えは返ってきません。
ただ、ふんわりとした温かさが、近くにあるぬいぐるみたちから伝わってくるような気がしました。
ふと、枕元のモモに手を伸ばすと、毛の先がかすかに揺れました。
「……え?」
美桜は目を見開きます。
ほんの少しだけど、今、誰かが触れたような感覚。
息をひそめて耳を澄ませると、微かに小さな声が聞こえた気がしました。
それはまるで、森の中の小川のせせらぎや、夜の虫の羽音のように、やさしく耳に届く気配です。
怖いわけではありません。
むしろ、胸の奥に安心感が広がります。
「誰か、そばにいてくれるのかな……」
美桜は小さく微笑みました。
部屋を歩くたび、床のきしむ音や窓の外の風のざわめきに、ぬいぐるみたちの存在を感じます。
一つひとつの音が、まるで「大丈夫だよ」と語りかけてくるようです。
布の塊が、自分の心にそっと寄り添ってくれている。
そんなふうに感じる夜でした。
夜が更け、眠気が訪れても、美桜はその気配を胸にしまったままベッドに横たわります。
目を閉じると、ぬいぐるみたちのやさしい温かさと、森の夜の静けさが心に広がります。
まるで、誰かがそっと手を握ってくれているような、穏やかで安心できる感覚。
「ありがとう……」
小さな声でつぶやき、美桜は毛布にくるまりました。
誰も見ていないけれど、確かにそばにいる存在を感じながら、深い眠りに落ちていきます。
夜の森も、庭も、部屋も、静かに月の光で包まれています。
ぬいぐるみたちの小さな気配は、今日も美桜を守り、励まし、そして優しく見守っているのです。
彼女はまだ知らないけれど、ぬいぐるみたちは夜ごと、静かに動き、世界を守る小さな冒険を続けています。
美桜は夢の中で、月明かりの森を歩き、誰かがそっと手を引いてくれる温かさを感じました。
目には見えないけれど、心で感じる安心感――それこそが、ぬいぐるみたちの本当の魔法だったのです。




