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トトと森の気配たち

 夜の森は、昼間とは違った息をしていました。

 木々の葉がそよぎ、草の間を小さな虫たちが歩きます。

 その静けさの中で、トトはひとり、森の小道を歩いていました。

 彼の鼻と耳は、夜の気配を感じるための大切な道具です。

「今日は、ぼくが一人でやってみるんだ」

 トトは小さくつぶやき、胸を張りました。

 ぬいぐるみの仲間たちは、普段は一緒に行動します。

 でも今夜は、トト自身の力を試すため、独りで森に入る約束をしたのです。


 森の奥に、小さな精霊が迷子になっていると聞きました。

 音の精霊ではなく、においで道を覚えるタイプの精霊です。

 そのため、気配や匂いを頼りにしなければ、正しい道に導けません。


 足元の草や木の匂いをひとつひとつ確認しながら、トトは静かに進みます。

 森の空気が、彼の毛の先をくすぐるように吹き抜けました。

 すると、どこからか、微かに甘い匂いが漂ってきます。

「……あれかな」

 トトは匂いを頼りに、そっと近づきました。

 暗闇の中で、目には見えない小さな光が揺れています。

 精霊です。ちいさな体を震わせ、少し怯えた様子で立っています。

「大丈夫、怖くないよ」

 トトはそっと声をかけました。

 精霊はにおいをかぎ、トトの存在を認めるように小さく光ります。

「こっちだよ」

 トトは前に進み、精霊の前で手を差し伸べました。

 匂いを頼りに、少しずつ安全な道を進みます。

 木の枝や小石を避けながら、静かに、確実に。

 途中、川の音が大きく聞こえました。

 精霊は少し怖がって立ち止まります。

 トトはそっと背中を押すように寄り添いました。

「一緒に渡ろう。ぼくがついてるから」

 精霊は安心したように体を揺らし、二匹で小川を越えます。

 水面に月が映り、二人の影も揺れました。

 トトは初めて、自分の気配だけで誰かを守ることの責任を実感します。


 森の小径を抜けると、精霊の家が見えてきました。

 小さな灯りが窓から漏れ、温かさを伝えています。

 精霊はうれしそうに飛び跳ね、トトに向かって小さな声で言いました。

「ありがとう、トト……一人でよく来てくれたね」

 トトは胸を張り、にこっと微笑みました。

「うん、ぼくも頑張ったんだ」

 その瞬間、森の空気がふわりと変わります。

 森の精霊たちが集まり、小さな拍手のような音を立てました。

 トトは驚きつつも、誇らしさで胸がいっぱいです。

 森を抜けて戻る途中、トトはふと考えました。

「一人でも、仲間と一緒でも、守る力は変わらない。でも、独りでやると、自分の責任をもっと感じるんだ」


 部屋に戻ると、ぬいぐるみたちはぐっすり眠っています。

 モモは窓辺で月を眺め、ハリーは音の種を抱きしめ、ニコは宝の箱の中で夢を見ています。

 トトは自分のベッドにそっと戻り、毛布にくるまりました。

 胸の中に小さな誇らしさを抱えながら、トトは目を閉じます。

 森の気配、精霊の笑顔、そして独りで成し遂げた経験が、彼の心に静かに響きます。

「ぼく……これからも、守るよ」


 夜の静けさの中で、トトの小さな誓いは、森の風に溶け込みました。


 そして、月の光がぬいぐるみたちの部屋に差し込み、すべてをそっと包み込みます。

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