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ハリーと森の小さな約束

 夜の森は、昼間とはまったく違った顔をしていました。

 葉っぱの間を通る風は、やわらかくて静か。

 小さな虫たちの羽音も、光を反射する水滴も、すべてが夜の世界の一部として、そっと息づいています。


 ハリーは森の奥へ向かって歩いていました。

 手には、小さな音の種が一つ。

 森みみからもらったこの種は、森の音を守る大切なものです。

 でも今日は、その守る力を試す“約束”があるのです。

「ぼく……ちゃんと守れるかな」

 ハリーはつぶやきました。

 自分の声が森に吸い込まれるように、ひそやかに。

 木々は答えてくれません。

 でも、森の奥から小さなざわめきが届くのを、ハリーは感じました。

 そのざわめきの先には、ちいさな木の精霊が立っていました。

 顔は葉っぱでできていて、ちょっと心配そうにこちらを見ています。

「ハリー……お願いがあるの」

 精霊の声は小さく、でもはっきりしています。

「森の南側の小川で、音が消えかけてるの。小さな生き物たちが困ってるんだ」

 ハリーはうなずきました。

「わかった。ぼくが守るよ」

 精霊は安心したようにほっと息をつきました。

 そして、森の奥に光の小道を作るように、ひらひらと飛び去りました。


 ハリーは小道を辿ります。

 夜の森は怖くありません。

 音を守るための目と耳が、森の一つひとつの葉や枝を友だちのように感じさせてくれます。

 小川にたどり着くと、水面は月の光を映してきらきら輝いていました。

 でも、確かに変でした。

 小川のせせらぎが、いつもより弱く、かすかにしか聞こえません。

「……音が、消えかけてる」

 ハリーはそっと音の種を小川に置きました。

 種から光がふわりと広がり、水面に触れると、せせらぎがゆっくり戻り始めます。


 小さな生き物たち、水辺のカエルや小鳥、虫たちが目を覚まし、再び小川の音とともに動き出しました。

 ハリーは胸の奥にあたたかいものを感じます。

「よかった……」

 でも、同時に、胸の奥に緊張も残っていました。

 守る力は確かにあったけれど、それを絶えず維持する責任があると、ハリーはわかっているのです。

 そのとき、小さな声が聞こえました。

「ハリー……ありがとう」

 振り返ると、森の精霊たちが一列に並び、夜風に揺れる葉っぱの間から、にっこり微笑んでいます。

「みんな……」

 ハリーは自然に微笑み返しました。

 森の音は、守られたことで静かに安心して、夜空へと溶けていくようです。


 小川のそばで、ハリーはそっと約束を思い出しました。

 森みみからもらった音の種を、大切に守ること。

 そして、森に住む小さな生き物たちの声を、絶えず聞き届けること。

「ぼく……守るから」

 月明かりに照らされたハリーの目は、決意で輝いていました。

 森の精霊たちも、その光を受け止めてくれるように、そっと風を揺らします。


 その後、ハリーは森を抜け、ぬいぐるみたちのいる家へ戻ります。

 夜の空気はまだ冷たいけれど、胸の中は温かく、誇らしい気持ちでいっぱいです。


 部屋に戻ると、モモが窓辺で月を眺めていました。

「ハリー、おかえり」

「ただいま」

 ハリーは小さく答え、音の種を胸に抱きしめました。

 ベッドに戻ると、トトがぐうぐう眠っています。

 ニコは宝の箱を抱えて夢の中。

 兄さんは静かに微笑みながら絵本を閉じました。

 ハリーはそっと窓の外を見上げます。

 森の向こうで、月明かりに照らされた木々が揺れていました。

 小さな生き物たちの声が、夜の空気に溶け込んでいるのを感じながら、ハリーは心の中で小さく誓いました。


「これからも……ずっと、守り続ける」


 月の光と森の音が、ハリーの胸の中に静かに響き渡り、夜はふたたび穏やかに深まっていきました。

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