試し行動【2000文字】
「ねえ。人を殺したとしたら、どんな気持ちになるんだと思う?」
「なんだい、急に。気味の悪い質問だな」
「一回くらい考えたとこはない?」
「なくはないけど…。そうだな、結局は罪悪感に苛まれるんじゃないか?」
「罪悪感…」
「普段は忘れられたとしても、生涯そのことがちらつきそうじゃない?」
「そっか。じゃあ、確かめてみるね」
「え?」
私は確かめたくて、そのまま恋人を殺した。
血が流れていく恋人の、白くなっていく顔を見守った。
その顔はその後夢に見ることもなければ、罪悪感も湧かなかった。
人を刺す時の触感が、ちょっとだけブニッとしていて気持ち悪いくらいだった。
朝会社に出勤して、夜家に帰る。
恋人の家に寄る、というイベントがなくなってからは時間が余る日々だった。
「最近、週末は私とランチに付き合ってくれるじゃん?彼はいいの?」
「あ、うん」
「何、その反応。まさか別れたの?」
「そういうわけじゃないんだけど」
「ええっ、話に聞く感じ上手くいってたじゃない?喧嘩でもした?」
「んー…」
「テキトーに仲直りしたら?それか次いくか」
「次…」
「そ、次。結婚ってわけでもないんだし、合わないなら一緒にいても意味ないでしょ」
「すごいね、すぐ決められて。決断力だ」
「そんなんじゃないって。我慢がきかないのよ、私」
「それは私もそうだと思うけど…」
「そう?私より堅実に生きられるタイプじゃん」
「堅実…。確かに、わかりきった結果が見えているものに対しては、行動してしまいがちかも」
「でしょ?こうなるって確実にわかるものに対しての行動が上手いよね」
「うん、そうかも」
「んじゃ、彼と上手くいってないなら来週も私と遊ぼうよ」
「いいよ」
「約束ね」
花の水を変える。
恋人が花を飾ると気持ちが元気になると言っていた。
だから私も少々花を買ってくるようになったが、いまいち元気にはならなかった。
赤やオレンジだと、色鮮やかだと思うくらいだった。
恋人の血はもっと黒ずんでいた気がする。
「でさっ、10も年下の女にチュッチュメッセ送ってたのよ、まじでキモい」
「うっわ〜、キツイっすね〜それ」
「あんな奴と一瞬でも家族だったのが本当に汚点」
「でも離婚できてよかったじゃないですか〜。祝勝会でもします?」
「是非やって!私のこと、労って!」
「よっしゃ、今日は華金だ〜!伊藤さんも来ますか?あ、彼氏さんと会うか」
「あ、いえ、行きます」
「あれ?彼氏いいの?私に気を遣わなくていいのよ?」
「いえ、最近会ってないので…」
「何!?そっちも浮気された!?」
「そうじゃないんですけど…。会っても意味ないっていうか、返事もないし」
「え〜、ほっとかれてるってことですか?」
「うーん」
「はあー!相手を不安にさせる奴は、どいつも碌でもないわね。今日は私らとパーっと飲みましょう!」
「はい、飲みましょう」
「そうこなくっちゃ!」
ほろ酔いで電車に揺られる。
恋人が好きな日本酒も飲んでみた。
お酒に強く無いけど、飲むのが好きな人だから家でたまに飲んでいた。
酔い始めるとベタベタしてくるところが、唯一好きじゃないところ。
週末に会わない日が日ごとに増えていく。
「やっぱ、別れたの? 」
「仲直りできなかったみたい」
「そっか、それは仕方ないね」
「仕方なかったのかな」
「2人のことは2人しかわからないからなぁ」
「そうよね」
「ねえねえ、嫌じゃなかったら私の知り合いに会わない?新しい出会いじゃないけどさ、そいつと合うんじゃないかなって思うんだよね」
「出会い…」
「そっ、終わった恋の上書きは新しい恋じゃない?」
「じゃあ、会ってみようかな」
「そうしよそうしよ。すぐセッティングする!」
恋人が好きな香水と、恋人が買ってくれたワンピースを着る。
香水のムワッと感は好きじゃない。
これを着ている日は、「俺が買ったやつ!似合っている!」といつもご機嫌になる。
その笑顔を見るためにわざと着ていく。
恋人の笑顔は好き、もう見せてくれなくなって残念。
「今日はありがとうございました。伊藤さんと話すの楽しかったです」
「私も楽しかったです」
「じゃあ私のおかげだ、褒めてもいいのよ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう」
「やーね、真面目同士なんだから。じゃ、私ここで。駅まで送ってやんなさいよ、あんた」
「わかってるよ」
「じゃあ、またね」
「うん、おやすみなさい」
「少し歩きますか」
「はい」
「あの、言いたくなかったらいいんですけど、前の恋人とは何が理由で別れちゃったんですか?」
「そうですね。彼が言ったことが自分の考えとは合わなくて、彼の言う方を試してみたけど、やっぱり私とは違って。それでそれきりでした」
「そっか〜、譲れない価値観の違いみたいなのはありますよね。それを話し合いで譲れるか、とか、歩み寄るのかとか」
「歩み寄ったら違ったみたいです」
「ははは、難しいですね」
「はい、難しかったです」
「ちなみに、人を殺した人と遭遇した場合はどうなされますか?」
了
短編毎日投稿17日目。お読みくださりありがとうございました!




