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試し行動【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/01/17

「ねえ。人を殺したとしたら、どんな気持ちになるんだと思う?」

「なんだい、急に。気味の悪い質問だな」

「一回くらい考えたとこはない?」

「なくはないけど…。そうだな、結局は罪悪感に苛まれるんじゃないか?」

「罪悪感…」

「普段は忘れられたとしても、生涯そのことがちらつきそうじゃない?」

「そっか。じゃあ、確かめてみるね」

「え?」

私は確かめたくて、そのまま恋人を殺した。

血が流れていく恋人の、白くなっていく顔を見守った。

その顔はその後夢に見ることもなければ、罪悪感も湧かなかった。

人を刺す時の触感が、ちょっとだけブニッとしていて気持ち悪いくらいだった。


朝会社に出勤して、夜家に帰る。

恋人の家に寄る、というイベントがなくなってからは時間が余る日々だった。


「最近、週末は私とランチに付き合ってくれるじゃん?彼はいいの?」

「あ、うん」

「何、その反応。まさか別れたの?」

「そういうわけじゃないんだけど」

「ええっ、話に聞く感じ上手くいってたじゃない?喧嘩でもした?」

「んー…」

「テキトーに仲直りしたら?それか次いくか」

「次…」

「そ、次。結婚ってわけでもないんだし、合わないなら一緒にいても意味ないでしょ」

「すごいね、すぐ決められて。決断力だ」

「そんなんじゃないって。我慢がきかないのよ、私」

「それは私もそうだと思うけど…」

「そう?私より堅実に生きられるタイプじゃん」

「堅実…。確かに、わかりきった結果が見えているものに対しては、行動してしまいがちかも」

「でしょ?こうなるって確実にわかるものに対しての行動が上手いよね」

「うん、そうかも」

「んじゃ、彼と上手くいってないなら来週も私と遊ぼうよ」

「いいよ」

「約束ね」


花の水を変える。

恋人が花を飾ると気持ちが元気になると言っていた。

だから私も少々花を買ってくるようになったが、いまいち元気にはならなかった。

赤やオレンジだと、色鮮やかだと思うくらいだった。

恋人の血はもっと黒ずんでいた気がする。


「でさっ、10も年下の女にチュッチュメッセ送ってたのよ、まじでキモい」

「うっわ〜、キツイっすね〜それ」

「あんな奴と一瞬でも家族だったのが本当に汚点」

「でも離婚できてよかったじゃないですか〜。祝勝会でもします?」

「是非やって!私のこと、労って!」

「よっしゃ、今日は華金だ〜!伊藤さんも来ますか?あ、彼氏さんと会うか」

「あ、いえ、行きます」

「あれ?彼氏いいの?私に気を遣わなくていいのよ?」

「いえ、最近会ってないので…」

「何!?そっちも浮気された!?」

「そうじゃないんですけど…。会っても意味ないっていうか、返事もないし」

「え〜、ほっとかれてるってことですか?」

「うーん」

「はあー!相手を不安にさせる奴は、どいつも碌でもないわね。今日は私らとパーっと飲みましょう!」

「はい、飲みましょう」

「そうこなくっちゃ!」


ほろ酔いで電車に揺られる。

恋人が好きな日本酒も飲んでみた。

お酒に強く無いけど、飲むのが好きな人だから家でたまに飲んでいた。

酔い始めるとベタベタしてくるところが、唯一好きじゃないところ。

週末に会わない日が日ごとに増えていく。


「やっぱ、別れたの? 」

「仲直りできなかったみたい」

「そっか、それは仕方ないね」

「仕方なかったのかな」

「2人のことは2人しかわからないからなぁ」

「そうよね」

「ねえねえ、嫌じゃなかったら私の知り合いに会わない?新しい出会いじゃないけどさ、そいつと合うんじゃないかなって思うんだよね」

「出会い…」

「そっ、終わった恋の上書きは新しい恋じゃない?」

「じゃあ、会ってみようかな」

「そうしよそうしよ。すぐセッティングする!」


恋人が好きな香水と、恋人が買ってくれたワンピースを着る。

香水のムワッと感は好きじゃない。

これを着ている日は、「俺が買ったやつ!似合っている!」といつもご機嫌になる。

その笑顔を見るためにわざと着ていく。

恋人の笑顔は好き、もう見せてくれなくなって残念。


「今日はありがとうございました。伊藤さんと話すの楽しかったです」

「私も楽しかったです」

「じゃあ私のおかげだ、褒めてもいいのよ」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとう」

「やーね、真面目同士なんだから。じゃ、私ここで。駅まで送ってやんなさいよ、あんた」

「わかってるよ」

「じゃあ、またね」

「うん、おやすみなさい」

「少し歩きますか」

「はい」

「あの、言いたくなかったらいいんですけど、前の恋人とは何が理由で別れちゃったんですか?」

「そうですね。彼が言ったことが自分の考えとは合わなくて、彼の言う方を試してみたけど、やっぱり私とは違って。それでそれきりでした」

「そっか〜、譲れない価値観の違いみたいなのはありますよね。それを話し合いで譲れるか、とか、歩み寄るのかとか」

「歩み寄ったら違ったみたいです」

「ははは、難しいですね」

「はい、難しかったです」


「ちなみに、人を殺した人と遭遇した場合はどうなされますか?」



短編毎日投稿17日目。お読みくださりありがとうございました!

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