大きな一歩
コンペで出すデザイン案を決めるため、担当営業とうちの上司。そしてオレを含め、声をかけられていた数名のデザイナーが会議室に集合した。
各自、自分が作ったデザインをテーブルの上に並べる。
それを少し離れた場所から眺めながら、客観的な目で見て意見を出し合い、候補を絞っていく。
「これは向こうの意向とは合わないですね」
「こっちもちょっと違うね」
最終的に3案まで絞ったところで、妹尾さんがみんなに声をかけた。
「あ、あとはオレと小宮くんで決めるから。戻っていいよ。お疲れ様」
みんなが「失礼します」と部屋を出ていく。
オレもみんなと一緒にデザインルームに戻ろうとすると、妹尾さんに腕を掴まれた。
「真木は残って」
「はい」
自分が何か役に立つのかと不思議に思ったけれど、上司命令を受け、オレもその場にとどまることにした。
他のデザイナーたちが会議室を出ていくと、残った3人で改めて最終選考を行うことになった。
「さて……この中から、一つ落とさなきゃならないんだけど……どうする?」
上司が、誰にともなく言う。
「僕は正直、一番右は他の二つに比べると弱いと思います」
制作した本人がいなくなり、意見が言いやすくなったのだろう。小宮さんがストレートに言った。
「真木は?」
「オレは……」
(小宮さんが言ったことはよく解る。解るけれど……)
「真木?」
妹尾さんに促され、飲み込みかけた言葉を言ってみることにした。
「勝ちに行くなら、それでいいと思います。でも、オレは後輩にチャンスをやりたいです」
確かに他の2案に比べたらまだまだ精度が甘いし、このままでは土俵にも上がれないだろう。
けれど、粗削りなデザインながら、もう少し手を加えたら大きく化ける可能性が感じられた。
それに、もしこの案を出して採用されたら、自分のデザインに自信が持てずにいる後輩が殻を破るいいきっかけになる。
(コンペは、勝ってなんぼの世界。だから、こんな考えじゃ駄目なのは解ってる。それでも……)
「どうする?」
妹尾さんが小宮さんに問いかける。
小宮さんは黙ったまま腕を組んで少し思案したのち、何かを決意したような瞳でオレを見た。
「解りました。今回はこれを入れた2案にします。但し、出す以上はそれなりのレベルのものを持って行きたいです」
「了解。じゃあ、後は真木に任せるから。そうすると、もう1案はこれと真逆に振った方がいいからこっちかな」
「そうですね。真木さん、後は頼みます」
「はい!」
自分の意見が通ったことに驚く一方で、上司たちのやさしい判断が嬉しくて頬が緩む。
まだ社内選考を通っただけだったが、それでも、新人デザイナーにとっては未来に向けた大きな一歩に違いない。
(オレがあの人にそうしてもらったように、後輩にもそうしてやりたい)
それが、巡り巡って上司の期待に応えることにも繋がる。そう信じて。
END
本作品はブログで連載しているシリーズものの中の一つです。
短編「カフェ日和」「セカイ」「異動希望」とは別な人物の視点の話になっています。




