ストーカーの田島さんは今日も可愛い
俺の名前は高見賢也。何処にでもいる普通の高校2年生である。
成績は中の上、スポーツは好きだが飛び抜けて何か得意な訳でもなく、顔も特別整ってはいない。
残念なことに彼女なんていた事がないし、部活に入っている訳でもない。
俺を知る人は、もし俺がどんなやつか誰かに聞かれたりしたら、だいたいこう答えるだろう。
「あいつはー、まあ、普通のやつだよ。」
とね。
さて、本題に入りたい。
そんな何の特徴もない。平均的な男子高校生である俺だが、何故だかここ数日、クラスメイトに「ストーキング」されている。背後から感じる、熱い?視線に耐えきれずチラッと後ろに視線を向ける。
俺の視界の先には、明らかにもう遅いタイミングで電柱の裏に隠れ、なおもそこから顔を出してこっちを見ている同じクラスで隣の席の女の子がいた。
彼女の名前は田島美波さん。どう見てもバレバレな変装 (マスクを着けただけ)で、俺の後方5~10メートルをうろちょろしている。
学校では彼女とは時々会話するかな程度の関係だ。
何度か声をかけようかと迷ったが、彼女には絶対にバレていないという自信があるようで。学校でストーキングについて匂わせながら喋って見ても、いつも通りに言葉を返してきた。
まあ実害があった訳では無いし、問い詰めるのも可哀想なので最近はそのままにしている。というか、田島さんは前髪で隠れてしまっていて目立たないけど、とても綺麗な顔立ちをしている。
いや、というより今まで出会ってきた女の子の中でいちばん綺麗かもしれない。
教室の窓から強い風が入ってきた時、偶然見えた彼女の素顔。このことを知っているのは多分クラスで俺だけだろう。そんな美人からストーキングされているのだ。あんまり悪い気はしない。
なんの目的かは不明だけどね、、、
いつもの事ながら、俺の家まで着いてくるらしい。毎度毎度ご苦労なことだ。俺の家は学校の近くだが、彼女は電車通学、そして駅は俺の家とは反対側にある。
つまりかなりの遠回りだ。
家の前に着き、もう一度確認する。
うん。やっぱりまだいるな。
俺の視線に、また彼女はそそくさと物陰に隠れた。
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田島美波
2週間前のことだった。図書委員の仕事で遅くなってしまった私は、1人で駅に向かって歩かなくては行けなかった。冬だから暗くなるのが早くて、外は真っ暗。頼りになるのは低い頻度で置いてある街灯の光と、月の光だけだ。
そんな中一人で歩いている私には大きな不安があった。
最近私は、誰かに「ストーキング」されている。
それに気づき始めたのは1ヶ月くらい前。何だか視線を感じて振り向いてみたら明らかに怪しい格好をした人がずっと着いてきていた。
顔は遠かったのと、マスクのせいで分からなかった。
初めは気のせいかなって思ったけど、次の日もその次の日もその人は着いてきていた。すごく怖くなって親に相談する事も考えたけど、それで事が大きくなってしまうのも怖かった。
だから最近は、帰るのが遅くならないようにしたり、ひとりで帰らないようにしている。でも今日は先生に頼まれた委員会の仕事がかなりかかってしまった。気がつけば他のみんなはもう帰っていて、外は真っ暗。ダブルパンチである。
溜息をつきながら校門を出る。どうしよう。このまま帰るのはすごく怖い。思わずその場に立ち止まってしまう。もう一度溜息をつき、重い足を上げようとした時、後ろから声をかけられた。
「どうしたの?」
こんなの時に不意に後ろからの声。思わずうわっ!っと飛び上がってしまった。
「ご、ごめん、」
声をかけてきた相手をみて安心する。よく知った顔だったからだ。
「なんだ、高見くんか、、、」
クラスメイトの高見賢也くん。特別仲がいいという訳では無いけど、同じクラスで隣の席の男の子だ。今まで孤独だっただけに、いつもと変わらない様子の高見くんを見て少し心が落ち着いた。
「それでどうしたのさ、2回も溜息ついて、」
「ん?あー、これね、別に大したことじゃないよ。」
ふーんそうなんだ。とか言われて話が終わるかと思っていたが、思いがけず高見くんは食い下がってきた。
「そうなんだ。何があったの?」
「聞くんだ。」
「気になるからね。」
正直、迷った。高見くんはこのことについて全く関係ないわけだし、変に事情を教えて巻き込んでしまっても申し訳ない。
「だ、誰にも言わないで欲しいんだけど、、」
「もちろん。」
そだけど私は話すことにした。悩みは誰かに聞いてもらうといいって言うしね、、、それに高見くんは言いふらしたりしなさそうだ。
「実は私、、今誰かに付きまとわれてるというか、、ストーキングされているんだよね。」
「え?!」
高見くんは一瞬驚いた顔をすると、すぐに心配そうな顔をした。
「えっと、大丈夫?今日もう暗いし、一人だよな?」
「うん。だから困ってたんだよね、、、」
彼はしばらく何か考えた後、私に提案する。
「田島さんって電車通学だったよな?良かったら俺が駅まで送って行くよ。」
「え、いいの?もう遅いし、帰り遅くなっちゃうんじゃない?」
私としてはすごく嬉しい申し出だ。この暗闇を1人で歩くのは今の私ではちょっぴり勇気が足りない。
「うん。いいよ、俺も単純に田島さんが心配だしさ。」
「じゃ、じゃあお願い、してもいい?」
「りょーかい、じゃあ行こうか」
私達は暗い道を二人で並んで歩いた。どうやら彼は私に気を使ってくれているようで、沢山話しかけてくれた。
そのおかげで私も気が紛れて、怖いなんて気持ちは無くなっていた。
でも、ここでひとつ、もう1つ問題が出来てしまったことに気がつく。
さっきからずっと、私の胸がずっと高鳴っていることだ。
まずいまずい、私チョロイよこれ、
確かに、怖かった時偶然とはいえ声掛けてくれたけど!思っていたよりも優しくて、気を使って沢山話してくれたのが嬉しかったけど!
ついこの間まで隣の席の普通の男の子くらいにしか思っていなかったのに、
「どうした?顔色悪くないか?安心しろよ。今は後ろには誰もいないし、」
彼はこちらの顔を見つめてくる。
………あれ?こんなイケメンうちのクラスにいたっけ?
私たちが駅に着く頃、私は自分の気持ちを自覚してしまった。
それからというもの、私はどうにかしてお礼をしようとしてチャンスを伺っていた。
そして、この一週間でチャンスは数え切れないほどあった。
なのになんでまだ私が彼と会話すらできていないかって?
そんなの決まっている。私がヘタレチキンだからだ。
しかしこのままでは行けない。高見くんのことが好きとかそういうのが関係なくても、お礼はするべきだ。
その日の放課後、今日こそはと気合を入れて、高見くんを追いかける。ホームルームが終わると、彼はすぐに教室から出ていってしまった。
やっと追いついた。よし、話しかけよう。……あと10秒したら話しかけよう、、、校門を出たら話しかけよう。
私ってこんなチキンだったっけ、?というかもう結構歩いて来てしまった。
前を歩いている高見くんをみる。
イケメンしゅぎる、、、
ふと、彼が横を見て立ち止まる。反射的に私はもの陰に隠れた。
そしてその目線の先を追ってみると、そこには猫がいた。高見くんは猫が好きなのだろうか
笑顔で見つめている。
なんだこのシチュエーションは!あつすぎる。こんな尊い場面を脳のフォルダに入れるだけではもったいない、、、
ダメとわかっていたが、自分の衝動を抑えきれずに、私はスマホのカメラでシャッターをきった。
結局、その日は高見くんの家の前まで来てしまった。家ここなんだ、駅と反対じゃん。それなのに着いてきてくれたとか、、、しゅき
そんな事を繰り返しているうち、気がつけばもう1週間が経っていた。そして私の写真フォルダのほとんどを高見くんが埋めつくしていた……
そんな折、珍しく彼が話しかけてきた。
「なあ、」
「は、はい!どうしたの?」
「最近ストーカーは大丈夫か?」
「う、うん!そういえば最近は全然だよ、あ!この前はありがとうね、嬉しかった、」
よかった、やっとお礼が言えた。
「それなら良かった。ところでさ、最近はちゃんと家にまっすぐ帰ってるか?」
後をつけている事がバレたのではないかと少しギクリとしたが、考え直す。多分私の事を心配してくれているだけだろう。
真実を言う訳にもいかず、心が痛いが私は嘘をついた。
「う、うん。学校終わったらすぐ帰ってるよ。」
その日は授業にあまり身が入らなかった。気づいてしまったのだ。私これ、ストーカーじゃん。ストーカーから守ってもらってストーカーになるって、、、
これがバレたら高見くんに嫌われてしまう。それはまずい。バレないようにしなきゃ。
この時の私には、もう日課となっているストーキングをやめるという考えが無かった。
今日も今日とて彼の後をついてゆく。今日はマスクをして。
いつも私をつけていた人はこれで顔が分からなかった。参考になって、少しだけあの人に感謝した。
電車に揺られながら写真フォルダを眺める。うん、やっぱりかっこいいな。
そういえば、高見くんは部活も委員会もやってないんだよね。話しかけてくれた時はめっちゃ遅い時間だったのに、なんで学校に残ってたんだろう?
ま、なんでもいっか!
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高見賢也
田島さんが帰っていった後、俺は慣れた手つきでスマホの写真フォルダを開いた。
「はあー、やっぱり、田島さんは可愛いなあーー、」
ぎっしりと詰まった田島さんの写真を眺めながら呟いた。最近は写真を撮るチャンスがあまり無いから撮れていないが、もう随分と増えたものだ。
俺は田島さんのことが好きだ。
初めて彼女の素顔を見た時、俺の脳に電撃が走った。一目惚れだ。こんな気持ちは初めてだった。
そして、気がついたらマスクを着け、フードを被り、彼女の後をつけていた。
かれこれそれを半年以上続けている。だが、最近になってそれを自粛せざるを得なくなった。
……その日は、どうやら彼女は委員会の仕事があったようで、今日は彼女と駅まで行くのは無理かと思っていたが、どうしても仕事をしている彼女の姿が見たかった。
だから俺は図書室で仕事をしている田島さんのことを扉の隙間から眺めていた。結構遅い時間までひとりで作業をしている。なんてえらいんだろう。
仕事を終えた彼女は何故か校門の前で立ち止まると、大きな溜息をふたつついた。
本当は話しかける予定ではなかったが、思わず声をかけてしまった。そして、話を聞いて驚いた。
まさかバレてたなんて、、、
その1週間後から、彼女は俺のことをつけるようになった。きっと、あんな時間まで残っていた俺を疑っているのだろう。
だからしばらくは大人しくする事にしているのだ。
スマホに目を落とし、また俺はため息をこぼす。
「【俺の田島さんは今日も可愛い】なあ」




