4. 大会
12月に入り、期末テストが終わってから卓球の全国大会が開催された。
金曜日から日曜日までの3日間。1日目は予選、2日目が決勝トーナメントの準々決勝まで、3日目が準決勝と決勝である。
前日に奈々ちゃんからも「頑張ってね」のメッセージとネコのスタンプが送られてきた。金曜の予選を通過すれば土曜の決勝トーナメントに奈々ちゃんは応援に来てくれる。
ここまで頑張ったので目標はもちろん、全国大会優勝だ。
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初日の予選はどうにか2位通過となり、決勝トーナメントへの進出が決まった。初めての“全国”という舞台は思っていた以上に大きくて雰囲気に呑まれそうだった。
早速奈々ちゃんにメッセージを送ると、「すごい! おめでとう! 明日応援に行くね」と返信が来た。
彼女がいると心強い。不思議だな……中学の時からいつもそうだった。
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翌日の決勝トーナメントも順調に勝ち進んで、僕たちは準々決勝も突破できた。うちの高校はこれまでもベスト4に入ったことがある。ここからが本当の勝負といったところだろう。
「はるくんお疲れさま!」
終わってから奈々ちゃんが会場の出口で待っていてくれた。
「奈々ちゃん、来てくれてありがとう」
「はるくん、強かったね」
「何とか勝てて良かったよ」
彼女の顔を見るとホッとする。
僕はいつだって奈々ちゃんに支えられているような気がするんだ。
「明日も頑張るよ」
「うん! 応援してるね」
※※※
そしてまた翌日。
まずは準決勝が始まった。僕は第3試合のダブルスに入る。横に立つペアの同級生がラケットを軽く叩いて「行くぞ」と目で合図を送ってくる。僕も深呼吸して頷いた。
序盤は相手の勢いに押され、レシーブが浮いて狙い打ちされる場面もあった。だが、隣にいる彼の力強いスマッシュが決まると、一気にこちらに流れが傾く。
「ナイス!」
思わず声を合わせる。ダブルスは一人ではない――その心強さが僕を支えてくれた。
しかし相手も簡単には崩れない。左右に揺さぶられ、必死に食らいつくうちにスコアは「8―8」。準決勝らしい接戦だ。
緊張で汗がラケットに伝う。落とせば決勝に進めない。だけど、負けるわけにはいかない。僕らは互いに声を掛け合いながら次の一本に集中した。
最後まで一進一退の攻防だったが、ついに「11―9」。
僕らは互いのラケットを打ち合わせ、拳を突き合わせて喜んだ。
このあとの第4試合も勝って、無事に決勝進出。
憧れていた舞台に立てるんだ。
応援席にいる奈々ちゃんを見ると手を振ってくれた。
僕も手を振って笑顔になる。
ここで奈々ちゃんに……いいところを見せたい。
※※※
――いよいよ決勝戦。
相手は決勝常連の強豪校。
やはり強くて第1試合はポイントを取られたが接戦を制して第2、第3試合はこちらがポイントを取る。
あっという間に僕の出場する第4試合となった。
ラケットを構えた瞬間から、全身に緊張が走る。だが観客席で両手を胸の前に組み、祈るように見守る奈々ちゃんの姿が目に入った。
その視線だけで、不思議と背中が温かくなる。大丈夫、やれる。
「竹宮! いつも通りでな」
顧問にもそう言われ、僕はラケットを握り直して試合に臨む。
序盤から一進一退。相手に一本取られれば、こちらもすぐに取り返す。
スコアは「4―5」「5―5」「5―6」と進み、追い風がどちらに吹いているのかまだわからない。
強豪相手に先行は許さない――その思いだけで体が動いていた。
そして「7―8」。この一本を落とせば流れが完全に傾いてしまう。だけど仲間の声援、奈々ちゃんの真剣なまなざしが背中を押してくれる。
僕はあえて長いラリーに持ち込んだ。スマッシュを決めなくてもいい。一つひとつ打ち返すんだ。すると相手が焦って強打を放つ。
――今だ。
体勢を崩しながらもバックで弾き返す。ピンポン球はネット際に吸い込まれ、相手は届かない。
「8―8」……追いついた!
ここから一気に攻め込む。ラストのカウンターが決まった瞬間、歓声が爆発した。
「ついにやったぞ!」
「よく頑張った!」
僕たちの高校は史上初の全国大会優勝を決めた。
仲間のもとへ駆け寄ると、みんなが笑顔で迎えてくれる。肩を叩かれ、拳を合わせて喜び合う。
その輪の向こうで、奈々ちゃんが拍手を送っている。頬に伝う涙を慌てて拭き取っている彼女を見て、胸がぎゅっとなるのを感じた。
この勝利は――仲間と、彼女のおかげだ。
※※※
表彰式を終えて会場を出るとひんやりと涼しく感じる。ひとしきり仲間と喜び合い顧問にも声をかけられ、解散となった。
門のところで奈々ちゃんが待っていた。
「はるくん!」
駆け寄ってきた彼女の笑顔に、緊張で固まっていた心が一気にほどけていく。
「お疲れさま。本当にすごかったよ」
「ありがとう。まだ実感がないな」
肩の力が抜けて、自然と笑みがこぼれる。
帰り道は、昼前の陽射しが温かく感じた。仲間たちとは途中で別れ、気づけば僕と奈々ちゃんの2人きり。
「改めて……おめでとう、はるくん」
「ありがとう。奈々ちゃんが見ててくれたから、頑張れた」
そう言うと、奈々ちゃんは少し顔を赤らめていた。
「はるくん……これまでで一番かっこよかった」
かっこいいという言葉に胸が熱くなり、気がつけば僕の右手は彼女の手を探していた。
指先が触れしっかりと手を握ると、奈々ちゃんは嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ていると、決勝で勝ったこと以上にこの時間の方が大切に思えた。




