表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界まで来て、飯食ってるだけなんだが〜スキルはあるけど、自由に飯食ってるだけ〜  作者: 咲村 えん
第1章 旅のはじまりは、魔素とうさぎのスープから
2/7

異世界に来たら、うさぎに追われたんだが



 風が、やけにやさしかった。


 草の匂い、陽の光、虫の声。どこか懐かしいような、でも見たことのない風景。青々とした草原がどこまでも広がり、すぐ近くに小さな川が流れていた。


 


「……あれ、俺……?」


 


 起き上がった俺、天宮ヒロは、自分の服を見て首をかしげた。


 どこか“RPGの村人A”みたいな、ダボっとしたシャツに革のベルト、半ズボンに近いズボン。それにブーツ。寝起きのクセ毛が風にふわりとなびく。


 


「まじか……夢、だよなこれ。っていうか、腹減った」


 


 とりあえず立ち上がる。足元の感覚ははっきりしてるし、鼻も効く。草の匂いも、風の冷たさもリアルすぎて夢じゃない気がする。


 


 周囲をぐるっと見回すと、森がある。川もある。なんか動物の鳴き声もする。


 胃袋がキュルル、と鳴いた。


 


「……〆ラーメン、食っときゃよかったな……」


 


 数歩歩き出したそのときだった。


 


 ──ガサッ。


 


「……ん?」


 


 茂みが揺れた。


 その方向を振り返った瞬間、目が合った。


 ……なんだ、うさぎ?


 


 と思ったのも束の間。


 


「ぴぎゃあああああああああああ!!?」


 


 こっちに突っ込んできたそれは、ウサギの形をしているが、耳が二股に分かれ、目が赤く、牙が生えていた。前脚の爪がやたらと鋭い。


 


「お、おい待て!話し合おう!俺まだスキルもわかんねーから!」


 


 叫びながら逃げる。全力で。


 草原を転がり、転び、転げ回る。


 息が切れる。振り返ると、やつはめっちゃ跳躍して追ってきている。しかも笑ってるように見える。何がウサギだ、モンスターじゃねぇか!


 


「……やばい、詰んだ」


 


 岩に足を引っかけ、盛大に転倒。背中から地面に叩きつけられ、息が抜けた。


 


 ウサギ魔物が跳ね上がる。


 今度は、本気で狙ってる。


 


(ああ……やっぱ“なんとかなるっしょ”じゃならなかったか……)


 


 そのときだった。


 


 ──ズバァッ!


 


 音がした。


 風を切るような、鋭い一閃。


 


「おぉ、間に合ったかい」


 


 ゆっくりと近づいてくる老人がいた。


 白髪のオールバックに、ちょっとくたびれたコックコートみたいな服。手には、長い包丁のような……剣?


 その先には、真っ二つにされたウサギ魔物が転がっていた。あれほど暴れていたのが嘘のように、静かになっていた。


 


「お、おじいさん……?」


 


「ようやるのぅ、若いの。よく逃げたもんじゃ」


 


 俺はしばらく、何も言えなかった。


 命を救われた安堵と、現実感のなさと、そしてなにより――


 


「……めっちゃ腹減った」


 


 思わず口から漏れたその一言に、老人はケタケタと笑った。


 


「腹が減ってるなら、ちょうどええ。ちと、ワシの小屋に来んか?」


 


 俺は、抵抗する気力もなく、ふらふらとその背中を追った。


 



 


 木々の合間を抜けた先に、こじんまりとした木の小屋があった。


 軒先には干された香草、窓からはふわりと肉と香味野菜の匂いが漂ってくる。


 


「おお、ちょうどええ。さっきのウサギ魔物を使って、もう一品足してみるかのう」


 


 そう言って老人は、台所に向かい、手際よく鍋に火を入れ始めた。


 


「さっきの、食べれるんですか……?」


 


「ああ、魔素はちと濃いが、ちゃんと処理すれば立派な出汁になる。ワシの腕を信じるがええ」


 


 薪がパチパチと鳴る。


 野菜と香草と、魔物肉のうま味がひとつの鍋の中で踊る。


 


 ああ、なんだろう。


 俺、今、異世界で、


 


──めちゃくちゃいい匂いのスープに見とれてる。


 


「さて、できたぞい。最初の一杯じゃ」


 


 老人が鍋をかき回しながら、ニヤリと笑った。


 


「……この島のスープは、ちと特別なんじゃよ」


 


 


✦To be continued✦

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ