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異世界まで来て、飯食ってるだけなんだが〜スキルはあるけど、自由に飯食ってるだけ〜  作者: 咲村 えん
第1章 旅のはじまりは、魔素とうさぎのスープから
1/7

【プロローグ】「俺、飯のこと考えてたら死んだらしい」 

※男主人公・天宮ヒロ視点です。

現世の終わりと、異世界転生の始まりを描いたプロローグ。

 


 リーンリーンという涼やかな鈴の音が、静かな夜に心地よく響く。



 何杯目かもわからないウーロンハイで、喉が少しヒリついていた。


 飲んだ深夜の帰り道、天宮ヒロはコンビニで買ったからあげ棒を片手に、鼻歌交じりにふらふらと歩いていた。


さっきまで学生時代から仲のいい先輩と飲んで軽く説教された。


そう、また仕事を辞めたのだ。


「ヒロ、お前またやめたんかー?もう26歳だろ、そろそろちゃんとしろよー」



「いやー。なんか、続かないんすよねー」



こんな会話を繰り返し

 最後はいつも通り「ま、なんとかなるっしょ」で済ませ解散した。



 夏の終わりの虫の音が聞こえる夜だった。

 ビルの合間に見えた月が、なんだかやけに遠く見えた。



「は〜、腹減ってきたな。〆ラーメン行っときゃよかったな……」



 スマホを取り出して、「世界一うまい飯」と検索を始める。



 出てくる画像の中には、知らない国のスープ、屋台で焼かれている肉、見たこともない果物のパフェ。



 ──そのときだった。


 にゃあ。


 小さな鳴き声がした。

 視線を落とすと、道路の真ん中に、小さな子猫が座っていた。


 黒い毛並みに、まだおぼつかない足取り。たぶん、生後数ヶ月ってところだ。


「おいおい、そんなとこで寝るなよ……」


 ヒロは、とっさにスマホをポケットにしまい、フラフラと子猫に近づいた。



 車の音が、すぐ後ろから「ハッ」──


 ドン、と何かが弾けるような音がして、世界がふわっと反転した。




 気がつけば、真っ白な空間にいた。

 床も天井もない、光だけで満ちた空間。立っている感覚もない。


「……あれ、俺……え?…

もしかして、死んだ?」


「そうじゃよ」


 背後から声がした。

 振り向けば、杖をついたローブ姿の老人が、ニコニコと立っていた。


「よう、天宮ヒロ。相変わらず、体より先に動く奴じゃのう」


「……あんた、誰?

…なんか見たことあるような。」


「ワシか? まあ“神様”というやつじゃな」


「……いやいや、冗談キツいって。夢でしょ、これ」


「夢で車に撥ねられて死ぬやつは、あまりおらんがの」


「うっ……」


 ヒロはその場にしゃがみこむ。実感はない。痛みもない。でも、心のどこかが、スッと冷えていた。



「まあ、嘆くな。おぬしはな……よくやったよ」


「……は?」


「おぬし、あの子猫を助けたじゃろ。まっすぐに、迷わずに」


「え、見てたの?」


「見ておったとも。あの時もな。昔、お主神社で、子犬を助けておったよな?」


「……え。あ、あのときの、子犬のことも知ってるの?」


「うむ。あの時ちょうどそこの境内に行っててな、ちょうどおぬしを見てたのじゃよ。あのときから、おぬしのことは気に入っておってな」


 遠い記憶がよみがえる。



—————-//


 子どもの頃、母と行った神社。


母が神主さんと話してる間、「ヒロ、少し遊んで待ってて!遠く行かないようにね」と

俺は境内の水が溜まった堀沿いを歩いてた。


その時に少し遠くのほうから

バシャバシャと苦しそうにもがく子犬を発見した。


それを見て、


「ぉお母さん!おかぁさん!だれかっ!」と叫んだ。


でも遠くて誰にも聞こえてない。

子犬が溺れてしまう。


怖さを感じた。でも見過ごせなかった。


幼いヒロは泣きながらも、すぐ助けないと、と必死に手を伸ばして、深く水の溜まってる堀に飛び込んだ──


——————-//



 それを、どこかの“大人”が助けてくれた気がした。思い出せない顔。……いや、今目の前にいる、このじいさんか?


「そうじゃ。あのとき、わしがお主を助けたんじゃ。」



「おぬし、人生ではいろいろあったな。バイトを転々とし、飽きっぽく、逃げグセもある。

全部中途半端じゃったな。

 だがな、それでも“根っこ”はまっすぐだった。ワシはそれが好きだったのじゃ。」


「……なんだよ、それ」


「だから、一つ頼みがある。いや、贈り物かの。

 おぬしには、別の世界で“好きなように”生きて”みてほしい」


「……えっ、転生ってやつ?」


「うむ。いつも見てたのだが、おぬしは食べ物を大切にして、食べることに幸せを感じ、いつも食べることを考えて生きていたのぅ。

だから“食べたものの力を使う”スキル、

そして“レシピを直感で理解できる”スキル。

 おぬしの“食”への執着……いや、愛は、ワシも見ていて面白かったからのう」


「え、マジ? なんか、めっちゃ都合よくない?」


「よいではないか、お主はうまそうになんでも飯を食う。神の気まぐれじゃ。あとわしは”食”の神でもある」


ボソッと「まぁ、他にも理由はあるけどのぉ」



 ヒロの足元から、光が立ち上る。

 あたたかく、やわらかく、腹が鳴るような光。


「とりあえず、新しい世界に同じような体で送るから楽しんで来い。」


「え…?もう?もっと詳しく説明ないのかよ!」


「ハッハッハ、お主は何でも楽しめるであろう。天宮ヒロ。とりあえずいろいろ食ってこい!」



「なんだそりゃ!まぁだったら──

……うまい飯探して歩き回るのも、悪くないよな」




パァーー

まばゆい光に包まれた


✦To be continued✦



初投稿読んでいただき、ありがとうございます!

次回はいよいよ、異世界で目覚めて最初の“うまい飯”と出会います!

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