【プロローグ】「俺、飯のこと考えてたら死んだらしい」
※男主人公・天宮ヒロ視点です。
現世の終わりと、異世界転生の始まりを描いたプロローグ。
リーンリーンという涼やかな鈴の音が、静かな夜に心地よく響く。
何杯目かもわからないウーロンハイで、喉が少しヒリついていた。
飲んだ深夜の帰り道、天宮ヒロはコンビニで買ったからあげ棒を片手に、鼻歌交じりにふらふらと歩いていた。
さっきまで学生時代から仲のいい先輩と飲んで軽く説教された。
そう、また仕事を辞めたのだ。
「ヒロ、お前またやめたんかー?もう26歳だろ、そろそろちゃんとしろよー」
「いやー。なんか、続かないんすよねー」
こんな会話を繰り返し
最後はいつも通り「ま、なんとかなるっしょ」で済ませ解散した。
夏の終わりの虫の音が聞こえる夜だった。
ビルの合間に見えた月が、なんだかやけに遠く見えた。
「は〜、腹減ってきたな。〆ラーメン行っときゃよかったな……」
スマホを取り出して、「世界一うまい飯」と検索を始める。
出てくる画像の中には、知らない国のスープ、屋台で焼かれている肉、見たこともない果物のパフェ。
──そのときだった。
にゃあ。
小さな鳴き声がした。
視線を落とすと、道路の真ん中に、小さな子猫が座っていた。
黒い毛並みに、まだおぼつかない足取り。たぶん、生後数ヶ月ってところだ。
「おいおい、そんなとこで寝るなよ……」
ヒロは、とっさにスマホをポケットにしまい、フラフラと子猫に近づいた。
車の音が、すぐ後ろから「ハッ」──
⸻
ドン、と何かが弾けるような音がして、世界がふわっと反転した。
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◇
気がつけば、真っ白な空間にいた。
床も天井もない、光だけで満ちた空間。立っている感覚もない。
「……あれ、俺……え?…
もしかして、死んだ?」
「そうじゃよ」
背後から声がした。
振り向けば、杖をついたローブ姿の老人が、ニコニコと立っていた。
「よう、天宮ヒロ。相変わらず、体より先に動く奴じゃのう」
「……あんた、誰?
…なんか見たことあるような。」
「ワシか? まあ“神様”というやつじゃな」
「……いやいや、冗談キツいって。夢でしょ、これ」
「夢で車に撥ねられて死ぬやつは、あまりおらんがの」
「うっ……」
ヒロはその場にしゃがみこむ。実感はない。痛みもない。でも、心のどこかが、スッと冷えていた。
「まあ、嘆くな。おぬしはな……よくやったよ」
「……は?」
「おぬし、あの子猫を助けたじゃろ。まっすぐに、迷わずに」
「え、見てたの?」
「見ておったとも。あの時もな。昔、お主神社で、子犬を助けておったよな?」
「……え。あ、あのときの、子犬のことも知ってるの?」
「うむ。あの時ちょうどそこの境内に行っててな、ちょうどおぬしを見てたのじゃよ。あのときから、おぬしのことは気に入っておってな」
遠い記憶がよみがえる。
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子どもの頃、母と行った神社。
母が神主さんと話してる間、「ヒロ、少し遊んで待ってて!遠く行かないようにね」と
俺は境内の水が溜まった堀沿いを歩いてた。
その時に少し遠くのほうから
バシャバシャと苦しそうにもがく子犬を発見した。
それを見て、
「ぉお母さん!おかぁさん!だれかっ!」と叫んだ。
でも遠くて誰にも聞こえてない。
子犬が溺れてしまう。
怖さを感じた。でも見過ごせなかった。
幼いヒロは泣きながらも、すぐ助けないと、と必死に手を伸ばして、深く水の溜まってる堀に飛び込んだ──
——————-//
それを、どこかの“大人”が助けてくれた気がした。思い出せない顔。……いや、今目の前にいる、このじいさんか?
「そうじゃ。あのとき、わしがお主を助けたんじゃ。」
「おぬし、人生ではいろいろあったな。バイトを転々とし、飽きっぽく、逃げグセもある。
全部中途半端じゃったな。
だがな、それでも“根っこ”はまっすぐだった。ワシはそれが好きだったのじゃ。」
「……なんだよ、それ」
「だから、一つ頼みがある。いや、贈り物かの。
おぬしには、別の世界で“好きなように”生きて”みてほしい」
「……えっ、転生ってやつ?」
「うむ。いつも見てたのだが、おぬしは食べ物を大切にして、食べることに幸せを感じ、いつも食べることを考えて生きていたのぅ。
だから“食べたものの力を使う”スキル、
そして“レシピを直感で理解できる”スキル。
おぬしの“食”への執着……いや、愛は、ワシも見ていて面白かったからのう」
「え、マジ? なんか、めっちゃ都合よくない?」
「よいではないか、お主はうまそうになんでも飯を食う。神の気まぐれじゃ。あとわしは”食”の神でもある」
ボソッと「まぁ、他にも理由はあるけどのぉ」
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ヒロの足元から、光が立ち上る。
あたたかく、やわらかく、腹が鳴るような光。
「とりあえず、新しい世界に同じような体で送るから楽しんで来い。」
「え…?もう?もっと詳しく説明ないのかよ!」
「ハッハッハ、お主は何でも楽しめるであろう。天宮ヒロ。とりあえずいろいろ食ってこい!」
「なんだそりゃ!まぁだったら──
……うまい飯探して歩き回るのも、悪くないよな」
パァーー
まばゆい光に包まれた
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✦To be continued✦
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初投稿読んでいただき、ありがとうございます!
次回はいよいよ、異世界で目覚めて最初の“うまい飯”と出会います!