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第3話「メスガキだらけの世界でメスガキに見えないワケってなんですか?」

衝撃の独白をした日から数日。


あれ以来、七瀬からは距離を置かれている。

あの後、教室に帰るころには七瀬の姿はメスガキになっていた。

相変わらず喋ってる内容はダウナー気味だったのでそこは安心した。

どうやらメスガキじゃない姿を見るには何かしらの条件と時間があるらしい。


―昼休み―


いつもの二人と学食で昼食を摂っていた。

俺の好物であるメスガキカレーが目当てである。

学食の中でも人気が無い。

普通、カレーライスなら大人気だろう。

だがこのカレーはとにかく辛い。

男にとってカレーを食べられないという悔しさは計り知れない。

食べられないという事実だけで屈するほどである。

まあ俺は辛党なんで余裕なわけなんだが。


「佐古井は…やっぱカレーか。」

「ああ、これを目当てに学食に通っている。」

「よく食えるな。そんな辛いの。」

「ふっ…。俺からすればまだ甘いくらいだぜ。」

「お、おう。」


相沢は呆れたように俺を見ながらメスガキうどんを受け取る。

メスガキうどんは絶妙にコシが効いてない中途半端なうどんだ。

悔しさを滲ませながら食べる生徒が多い。


「やれやれ。お二人はまた同じメニューですか。」


そういう柳澤は日替わりメスガキ定食。

今日はどうやら焼肉定食らしい。

普通なら羨ましいところだが、この世界はメスガキまみれ。

焼肉も当然のようにメスガキ要素が入っているだろう。

柳澤が焼肉を口にいれる。


「こ、これは…!?」


どうした柳澤。さあ言って見ろ。

何があった?

お前のあひりを聞かせてくれ。


「…ない。」

「何だって?」

「味が…ない。」

「「うわぁ…。」」


何て外道。

焼肉定食という男子ならば喜んで食べるであろうメニュー。

まさかの味なし肉。

これはキツイ。


「しかも…冷たい。」

「ひ、ひでえ…。」


出来立てならまだ良かっただろう。

しかし学食は汁物や米以外は作り置きが多い。

そしてあろうことかメインの肉が冷めている。

これはあれだ。

焼肉に心躍らせる男子のワクワクを根こそぎ奪うやつ。

流石の柳澤もこれには悲しい目をしている。

だが俺は見逃していない。

お前が口に肉を運ぶ度に足が震えているのを。


学友と食事を楽しんでいるところに放送が流れる。


「2年B組。佐古井健介くん。至急、生徒会室までお越しください。」


え?俺?

生徒会室が名指しで…?


「おい、佐古井。お前何やらかしたんだよ。」

「いや、特に身に覚えは―」

「…。」

「……あるな。」

「たぶんアレだろ。」

「アレかな?やっぱり。」

「まあアレでしょうね。」


先日の七瀬の件だろうか。

はたまた別の用事だろうか。

呼び出された理由を考えながら俺は生徒会室へと向かう。



―生徒会室―


ノックをする。


「はぁ~い。」


緩い声と返事が聞える。

俺は扉を開ける。


「失礼します。2年B組の佐古井です。ご用件は―。」


俺は生徒会室にいた人物を見て言葉が止まる。

そこにいたのはあの大和撫子なメスガキであった。


「ふふっ。またお会いしましたね~。雑魚舌くん。」


予想外の人物が座っていたことに度肝を抜かれる。

俺の驚きをよそに会長は俺の耳元に近寄り声をかける。


「とりあえず、立ち話もなんですから。そちらにおかけください。」

「はい。」


またもASMR。

この人ならそうするだろうなと思っていた。

俺は言われたとおりに素直に座る。

それを見た会長は俺をジッと見る。


「…ふ~む。」

「あなた、やっぱり面白いですね~。」


何かおかしかっただろうか?

ただ座れと言われて座っただけなのだが。


ん…?いや、まてよ。

よく考えたら今の会長の言葉おかしくないか?

どうしてメスガキ特有の煽りが無いんだ?

前にあった時は煽られていたのに。


「佐古井くん。もしかしてなんですけど~。」

「は、はい…。」

「聞こえていますか~?」


俺は焦る。

あきらかにその質問は俺を疑っている。

俺がメスガキ以外の何かを感じ取っていると分かっている質問だ。

だが、まだバレるほどの状況じゃないらしい。

質問をしたということは確信が取れていないということだ。

つまり、本当は今の質問もメスガキに煽られているはず。


そうか。最初の座れと言われたときも煽られていたんだ。

七瀬の件で油断していた。

会長は俺を煽ったはずなのに何食わぬ顔で座ったと思ったのか。

なんてこった。迂闊すぎる。

何とかしてメスガキに煽られて屈したフリをしなければ。


「す、すみません。まさか喫茶店のお姉さんがいるなんて思わなくて。」

「思わずあの時の耳元での囁きがフラッシュバックしてオッフォオ…!!?」


俺をジッとみる会長。

その表情からは何も読み取れない。

まだ疑われているだろうか…。


「ふふっ。佐古井くんは面白いですね~。」

「まぁ~。今は、そういうことにしておきましょ~。」


どうやら今のところ深く追求する気はないらしい。

あきらかに俺を疑っているが、そこは大した問題じゃないようだ。

俺はふたたび会長に質問をする。


「それで、えっと。生徒会長。」

「あ、すみません~。自己紹介がまだでしたね~。」

神薙九重(かんなぎここのえ)と申します~。3年で~す。」

「私のことは、神薙と呼んでかまいませんよぉ~。」

「では…神薙先輩。それで、俺はどうして呼ばれたんでしょうか?」


俺が呼び出された理由。

恐らくは七瀬の件なのだろうが。


「はい~。実はですね~。」

「佐古井くん、生徒会にご興味はありませんか~?」

「え…?」


生徒会…?

七瀬の件ではないのか?


「どうして、俺を生徒会に?」

「はい~。実は少々困ったことがありまして~。」

「佐古井くんも知ってのとおり~。この学園は生徒会の権限が強いんです~。」

「存じています。」

「ただ、男子の役員はいないんですよぉ~。」


でしょうね!

俺が通う学校。目須垣学園。

全校生徒は451人。男女比は8:2で女性が8割。

数少ない男子はメスガキに煽られるとすぐに屈してしまう。

そのため委員会への所属も難しい。

これは発言権が無いに等しいからだ。

だからこそ男子の役員なんて絶対にあり得ない。

それは”屈しない”という前提条件が必要だからだ。


「そこで佐古井くんに生徒会役員になってほしいんです~。」

「どうして俺なんですか?」

「え?それは言ってもいいんですかぁ~?」

「……。」

「ええ。確かめておいた方が良さそうなので。」

「そ~ですかぁ~。」


そういうと会長はこちらをジッと見つめる。

先ほどまでの穏やかな空気が一変して重たく感じる。


「佐古井くん~。あなた屈してませんよね~?」


やはりそうか。

この人は解っているんだ。

俺がメスガキに屈していないことを。

それでいて敢えて見逃している。


「いつから気付いていたんですか?」

「おや~?否定しないんですねぇ~?」

「ええ。恐らく無意味でしょうから。」

「それよりも神薙先輩には隠さないほうが良いと思いました。」

「ふふっ。あはは。やっぱり面白いですね~。」


俺がメスガキに屈しないことを知っているのは身内だけ。

にもかかわらずこの人はたった2回会っただけでそれを見抜いている。

俺がこれからの生活をしていくうえで彼女の協力は必要不可欠だ。

逆らう意味もない。

逆らったところでメスガキ当局に引き渡されてしまうだけだ。

なら、この人に協力的なほうが俺にとって都合が良い。


だから俺がどこでボロを出したのか知らなければならない。

今までは屈したフリでやり過ごせていた。

だが、この人はそれを見抜いたのだ。

俺は俺が思っている以上にメスガキをまだ理解していないらしい。


「いつから気付いていたか~ですよねぇ~。」

「実はお店に来店して初めて挨拶したときから変だと思ってました~。」


予想外の返事だった。


「え?あの時はわりといい感じに屈したフリをしてたと思うんですが。」

「そうですねぇ~。普通の店員さんならそう思ったと思います~。」

「では、何故?」

「私の囁きは少しだけ特殊らしくてですねぇ~。」

「私が耳元で囁くとですね~。」

「普通は2分ほど会話出来なくなっちゃうんですよ~。」


先輩にとって囁きは特殊なものだということか。


「…なるほど。」

「ですから、あっ…この人は変だな~って思ってました~。」


だからすぐに注文できてしまった俺をおかしいと感じた。

でもそれを指摘しなかった。

おそらくその段階ではまだ違和感だったんだ。


「そして~。2度目で確信しました~。」

「2度目…ハンカチのときですね。」

「はぁ~い。あの時も佐古井くんはすぐにお返事してましたから~。」


だとすると、さっきの質問の意味はそういうことだろう。

3度目の囁きに至っては何も感じることなく座った。

それもかなり素直に座っている。

だから今、神薙先輩の言葉が違って聞こえることにも気付いている。

なんてこった。そうとも知らずに俺はあんな恥ずかしい屈したフリをしたのか。


「さっき先輩は言いましたね。”聞こえているのか?”と。」

「言いましたねぇ~。」

「結論から言うと、聞こえています。」

「やっぱりそうなんですねぇ~。」

「一応、確認なんですけどぉ~。」

「はい。」

「今、私がどんなふうにぃ~。お話しているか答えていただけますかぁ~?」

「そうですね…。すごくゆったりとした緩い感じです。」

「おぉ~。凄いですねぇ~。大正解で~す。」


パチパチと拍手をする先輩。

俺は気になっていたことを質問する。


「気になったんですけど。」

「どうぞ~。」

「メスガキだらけの世界でメスガキに見えないワケってなんですか?」

「ん~。」

「佐古井くんはですね~。多分、思い違いをしていると思います~。」

「え…?」

「実は~。皆さん本当はメスガキじゃないんですよぉ~。」


本当はメスガキじゃない?

つまり、俺の目も耳もおかしくないってことか?


「聞いたことありませんかぁ~?」

「この世界の女の子は皆さん”メスガキになった”と~。」

「ええ、ですから生まれてくる子もメスガキになって―。」

「気が付きましたか~?」


生まれてくる子もメスガキになっている。

そうか、メスガキになっているということは本来はメスガキではない存在。

つまり、彼女たちはメスガキではない姿が別にある。

俺は…それを認識しているということか。


「つまり…メスガキに見えている人は全員、本当は違う姿を持っている。」

「はぁ~い。大正解で~す。」


パチパチと再び先輩が拍手をする。


「佐古井くんはメスガキに強い耐性を持つ特異体質なんですよね~?」


俺は頷く。


「そして佐古井くんと同じようにぃ~。」

「女の子の中にも自分をメスガキじゃないと分かっている子がいます~。」

「でも、周りはメスガキしかいませんよね~。」

「するとどうなると思いますか~?」


メスガキだらけの世界。そこがおかしいと認識している。

でも周りはメスガキしかいない。

俺はそんな世界を屈したフリで生きてきた。

つまり、彼女たちは逆。


「先輩はメスガキのフリをしている。」

「普段はメスガキのようにわざと話しているってことですね。」


この国においてメスガキを否定する行為は許されない。

だから、彼女は受け入れるしかない。

そして語ることも許されない。

それが常識だからだ。

だから、先輩も俺と同じように隠して生きている。

もしかしたら…七瀬も…?


「私たちの会話はですね~。」

「他の人から見たら佐古井くんを煽っているように見えています~。」

「実は最近も似たような状況になりました。」

「でも、俺には今の先輩と同じく違う話し方に聞こえていました。」

「それどころかメスガキじゃない姿に見えていたんです。」

「だから、信じます。」


あの時、七瀬と話した際に起きた現象。

あれは七瀬も耐性があるという証拠。

だが、七瀬は俺がメスガキに屈しない特異体質だと知らない。

だから自分の秘密がバレると焦っていたわけだ。


神薙先輩はリスクを冒してでも俺に耐性があるか確認したかった。

そうして確信を得たからこそ、俺に生徒会に入るように勧誘した。


俺がこの状況で生徒会に入る意味。

それは神薙先輩のやりたいことに必要だから。


「先輩。俺は何を協力したらいいんですか?」


そう答えると、先輩は笑みを浮かべる。

そして少し息を吸い込んでゆっくりと口を開く。


「佐古井くんに”お願いしたいこと”ですね~。」

「特異体質の女の子を生徒会にスカウトしてくださ~い。」


この世界には自分以外にもメスガキ耐性を持つ人がいる。

それを知った主人公。

そして勧誘される生徒会。

次回、ついに物語が大きく動き出します。

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