第2話「ダウナー系なメスガキってそれメスガキなんですか?」
メスガキしか存在しないはずの世界。
だが俺が見たのはたしかにメスガキではない同年代の普通の女性だった。
疲れから見間違えたのか。
はたまたメスガキでは屈することが出来ない俺が見た妄想だったのか。
教室に戻った俺を迎え入れる相沢と柳澤。
1限は現国か。
担任が教室にやってくるなり全員に静かにするように声をかける。
「はぁい♡じゃあここで、今日は皆に新しいお友達を紹介しまぁす♡雑魚男子もしっかり聞いておいてねぇ~♡」
入ってきたのは女の子。
人を煽るような顔。
男という生物を舐めまわすように見てはニヤニヤと笑う。
つまりメスガキだ。
「七瀬瑠璃です。…よろしくお願いします。」
声ちっさ!あと、めっちゃ地味な挨拶!表情と声とのギャップ凄すぎだろ!
もっとこう、メスガキっぽい煽りというか。語尾にハートマークがついてるみたいな感じじゃん?
男を挑発してなんぼみたいな。
いうなれば教室に入ってくるなり男子だけを煽った先生みたいに。
そんなことを思いながら先生を見ると、こちらをみてニタニタして笑っている。
勘弁してくれ、こっちを見るな。
笑うな。
後で煽る顔だろそれ。
と、俺が悩んでいる間にどうやら転校生の挨拶は終わったらしい。
そしてどういうわけか俺の隣には不自然に空いた空間。
そう、俺の隣の席はあろうことか空席。
どう考えてもこれは俺の横に座るやつだ。
古の恋愛ゲームでも良くあった。
転校生がやってきて席が近くになってそのまま急接近するみたいなの。
だが残念ながら現実はメスガキだらけの世界。
そういうと七瀬は俺の隣に座る。
仕方ない。
ここはとりあえずファーストコミュニケーションだ。
いくら相手がメスガキで無条件に煽ってくる存在といえど、挨拶は基本。
「よろしくな。俺は佐古井。」
「…うん。」
おいおいおいおい。
なんだそのリアクション。
そこは名前に突っ込むところだろ?
クラスの女子なんて俺の名前を聞いた途端に
「え?雑魚い?うっけるぅー♡」とか言ってたぞ。
うんってなんだようんって。
見たことあるぞ。
えーっと…昔あったという歴史的キャラ。
そう、ダウナー系だ。
無気力な感じでいる何を考えているか分からないやつだろ。
こっちが困るよリアクションに。
そこはメスガキでこいよ!
そもそもダウナー系なメスガキってそれメスガキなんですか?
ここは何か?屈した方がいいのか?屈した素振りを見せたほうが良いのか?
心なしか周りの奴らもこっちを見てザワついている。
ええい、とりあえずここはなるようになれだ。
屈したフリでしのぐんだ俺。
「くっ…転校生に早々こんな態度で来られるとは。だが俺は負けないぞ。」
よし、こんなところか。
無難な感じで屈したぞ。
どうだ思い知ったかメスガキどもめ。
どうやら満足したらしい。
クラスメイトどもは黒板を見ている。
恐らく他の奴らにはきっと違ったリアクションに見えていたのだろう。
これはあとで相沢か柳澤あたりに確認しておいたほうが良さそうだな。
そんなこんなで1限が終わり休み時間。
七瀬は手続きがどうのこうので職員室へ行ったらしい。
俺は相沢と柳澤を呼びつけてさっきの挨拶の件を確認する。
「転校生、どう思う?」
まずはこいつらの反応を見よう。
「あー。しょっぱなからあの挨拶は凄かったよな。まさにメスガキって感じで。」
何が?めっちゃ小声で挨拶してただけだよな?
だが相沢にはあれがメスガキの煽りに聞こえていたらしい。
「それにしても突然、佐古井くんを煽りだしたときは焦りました。何をしたんですか?」
「え?普通に挨拶しただけだけど。」
「それであの煽りを返されたのですか…!?なんと恐ろしい…。転校生恐るべし…。」
ちょっとまて柳澤。
お前にはいったいあれがどう聞こえていたんだ。
あいつ小声で「…うん。」しか言って無かったよな?
どうやら柳澤がいうにはあの時の挨拶はこうだ。
「七瀬瑠璃でぇ~す♡こんな時期に転校するとかいう雑魚い親の都合でやってきました♡」
そして俺が話しかけたときの返事こうだ。
「ザコイ~?名前からして雑魚なのにどうして私に話しかけたの?♡」
「あ~あ。君のせいで私に雑魚ウイルスがついちゃったかもぉ~♡」
「あとで消毒しないと♡ほんと、最悪ぅ♡」
言ってねえだろ…!あの短い言葉にそんな詰まってたの!?
マジでどうしちまったんだ俺の耳。
頭を抱えながら悶える俺。
それを見た相沢と柳澤は何かの病気か?と心配している。
知るか、俺が聞きたい。
病気であってくれ。
そうこうするうちに休み時間のチャイムがなる。
七瀬が教室に戻ってくる。
俺の方をチラっとみるがその表情からは何も読み取れない。
無機質でこちらを見ても物静か。
メスガキってもっと出会いがしらに煽り散らかす暴走トラックみたいなものだと思っていたのだが。
こんなタイプは初めてかもしれない。
今までにないパターンの女の子に俺の心は動揺している。
「あの…。」
そういうと七瀬が俺に話しかけてくる。
こちらをじっと見ている。まずい。なにかおかしな態度をとっていたか?
「教科書。私、まだ全部そろって無くて。」
「あ、ああ。教科書。見せればいいのか?」
「うん。」
「見えにくかったら教えてくれ。」
俺は七瀬に教科書を見せるために机を繋げて座る。
きっと今、すごい煽りを受けていたに違いない。
だが、今の俺には物静かなメスガキの見た目をした女の子にしか見えない。
そう思うと心なしか七瀬が本当はメスガキではないのではないかとすら思えてくる。
何かリアクションを取った方がいいのだろうか。
正直、今は正解が分からない。
「佐古井くん。」
ふと七瀬に声をかけられて俺は彼女のほうを見る。
するとそこにいたのはメスガキではない女の子だった。
ストレートに綺麗におりた髪。
虚ろな表情で何を考えているのかはわからない。
気だるそうな雰囲気を醸し出す美少女。
「え…七瀬?」
「…うん?そうだけど。…自己紹介したよね?」
「あ、ああ…ごめん。何でもない。」
まただ。
あの喫茶店の店員みたいに普通の女の子に見える。
いや、これを普通と読んでいいのかは俺にはわからない。
ただいえることはこれは昔存在していたと言われている同世代の女の子というやつだ。
しかしどういうわけだ?
さっきは見た目だけが変わっていたが、今は喋り方まで違って聞こえている。
もしかしたら妄想の可能性もある。
そんなことを考えていたが今の俺にはハッキリとわかる。
これが七瀬の本当の姿なのだと。
何故だかは分からないが俺の本能がそういっている。
「七瀬。」
「…何?」
「七瀬って、めちゃくちゃ可愛いんだな。」
「…!?」
思わず口からこぼれた本音。
待て。俺は今何を言った!?
転校初日の女子を口説いているのではないか?
ああ、駄目だ。
七瀬が顔を真っ赤にしている。
やっちまった。
完全にこれあとで弄られて煽られるやつだ。
クラスメイトがこっちを見ている。
ザワザワするんじゃねえ。
やめろこっちを見るな。
煽りたそうな顔で見つめんなメスガキども。
授業が終わるなり俺を煽りたそうにクラスメイトが見ている。
だがそんな俺を救ったのは他でもない七瀬であった。
「ついてきて。」
俺の制服の袖を引っ張り顔を赤くしながらいう。
可愛いなこいつ。
相変わらず俺の目に映るのはメスガキではない美少女。
生徒の通りが少ない屋上前の階段にやってくる。
「…どういうつもり?あなた何が目的なの?」
こちらを怒った顔で見ている。
俺にもよく分からない。
昨日までまわりはメスガキしかいないと思っていた世界。
そこへ今日になって美少女と2回も出会っている。
胸がドキドキしている。
確かなことがある。
これは俺の素直な気持ちだ。
「出会ったばかりの俺にこんなことを言われるのは、不思議に思うかもしれない。」
「もしかしたら、今から俺はとてつもなく気持ち悪いことを言うかもしれない。」
「だが、聞いてほしい。」
そうだ。
俺はずっとこれを抱えて生きてきたんだ。
だからこそ素直にこの気持ちを吐き出せる相手がいることが嬉しいんだ。
「俺は、七瀬に屈したい。」
「…きもっ。」
蔑むような目でこちらを見つめる七瀬をよそに俺は満ち足りていた。
これは、メスガキだらけの世界でメスガキに屈しない俺が屈するまでの物語。
俺はいつか、心の底から屈してみせる。
第2話です。
第1話でメスガキだらけの世界だったはずなのにメスガキ以外の美少女を認識するようになっていた主人公。
彼にとってはメスガキに屈することが出来ず恋愛も出来ない世の中は絶望の世界でした。
彼が何故、特定の人物だけ美少女として認識するようになったのか。
その謎は今後明らかになっていきます。