表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名探偵の助手  作者: 青葉
3/7

 次に目が覚めた時は見知らぬ高い天井が見え,いつもと違う光景に一瞬戸惑った。そうだ、僕は今コランバイン子爵の屋敷にいるんだった。頭をぶつけて、それから意識がなくなって…2人のどちらかがベッドまで運んでくれたようだ。ついでに冷たいタオルが額にのせてあった。

「目が覚めましたね。頭の具合はどうですか。まだ痛みますか。」

「わっ!あ、もう大丈夫です。少しズキズキしますが,良くなってきました。」

 気づくと先ほどの若い男性がベッド傍の椅子に座っていた。

「それは良かった。先ほどはすみませんでした。」

「いえいえ!謝ってもらうことは何もないですよ!僕が勝手にぶつかっていったんですから!」

「でも、申し訳ないので、何か困ったことがあったら言ってください。僕で良ければ手伝いますので。今日はここに泊まらせていただくことになってますし。あ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前はノアといいます。どうぞよろしく。」

 そう言ってノアさんが差し出した手を握る。

「よろしくお願いしますノアさん。僕はアンバーです。」

 う~ん、やっぱりノアさんの顔、どこかで見たことがあるような…。僕が知らないだけで有名な人なのか?服装や雰囲気から貴族のような気はするな。

「あの、アンバーさん?そろそろ夕食のようです。もしまだ具合が悪いようでしたら僕がジェットさんにお伝えして、ご飯を運んでもらいましょう。」

「あっ、いえいえ!もう大丈夫です!行きましょう。」

 ノアさんと一緒に下の階の食堂へと向かう。最初にジェットさんに案内された時は、姉さんの友人の話を聞きだすことに集中していたから気付かなかったけど、部屋数のわりに人の気配がない。来客用に用意している部屋が多いのか?貴族ってそうなのか?

「アンバーさんはどういった御用でこちらに?」

「僕は雑誌の取材で、鉱石のことを聞きにきました。ノアさんは?」

「僕も鉱石関係のことで来ました。少しお譲りしていただきたくて。」

「そうだったんですね。コランバイン子爵とはお知り合いですか?」

「名前は知っていた程度かな。直接的にはあまり話したことはなかったんだが、今回の鉱石のことで連絡を取ったんだ。快く応じてくれて助かったよ。」

 そう言ってニコリとするノアさんだが、いきなりコランバイン子爵にそんな交渉が出来るということは、ノアさんはかなり影響力のある人だということだろう。子爵といえど、貴族だし、今かなり資金は潤沢だろうから。ただ、自己紹介の時に性を名乗らなかったから、あまり聞かれたくないのかな…。


 そんなやり取りをしながら食堂に着くと、もう既に何名かが食卓についていた。食堂の天井にはシャンデリアが吊るされ、室内を明るく照らしているが、なんとなく食堂内の雰囲気は重い気がする…。僕たちが来る前に何かあったのか?

 食卓のテーブルは、貴族のテーブルと言われて想像するような長テーブルで、既に料理が運ばれていた。

「おお、ノア様お待ちしておりました!さあ、こちらにどうぞ!君も空いている席へ座っておくれ。」

 うわ~、全く扱いが違うな。ノアさんとか呼んじゃってるけど、子爵よりもだいぶ爵位が上なんだろう。やっぱりさん呼びは不敬かな…。

「皆さま、お待たせして申し訳ありません。お待ちいただきありがとうございます。」

「いやいや、構わないよ。さあ、こちらへ。」

 ノアさんは僕にチラリと心配そうな目線を向けたが、僕が軽くうなづきながら微笑むと、少しだけ困った顔をしてコランバイン子爵の近くの席に向かう。コランバイン子爵はいわゆるお誕生日席に座っていて、その左手側の席がノアさんの席のようだ。僕も空いている端の席に座る。

「皆さま、本日はお越しいただきありがとうございます。さあ、全員揃ったことだし、食事にしましょう。そして、今日はお客様が来ているから自己紹介といたしましょう。私はまずはノア様、よろしいでしょうか。」

「ええ。コランバイン子爵、本日は歓迎いただきありがとうございます。ノア・アパタイトです。皆さまどうぞよろしくお願いします。」

 えっ!!アパタイト!?アパタイトって、公爵家の?だからコランバイン子爵はあんなに敬っていたのか。うわ~~僕の振舞はかなりアウトだったんじゃ…?

 そう思い、冷や汗をかきながらノアさんを見ると、少しだけ悪そうな笑顔をこちらに向けていた。あ、名乗らなかったのはわざとだ…。からかわれていたけど、怒ってはいなそうだ。良かった。

 一方、コランバイン子爵は得意気にノアさんの言葉を引き継ぐ。

「いや~~、ノア様が来てくださり、こちらこそ感謝しています。公爵家の高貴な方が私たちの鉱石に興味を持っていただけるのは有り難い。ぜひ、今後ともどうぞよろしくお願いします。」

 ノアさんはその言葉にニコリと笑みを返すだけだ。今度はさっきのような笑顔ではなく、完璧な笑顔だった。その顔を向けられたら、もう何も言えないだろう。コランバイン子爵はもっと話そうとしていたようだが、ノアさんに向かってうんうんと満足そうに頷いた。その様子を見てか、ノアさんの正面に座っていた細身のご婦人が話し始める。

「ノア様、皆さま、本日はようこそお越しくださいました。私はエマ・コランバインです。どうぞよろしくお願いします。」

 コランバイン子爵夫人か。ベージュのドレスに装飾品も最小限といったシンプルな装いで、子爵とは正反対の見た目だ。

「本日はご足労いただきありがとうございます。コランバイン家長男のダリルです。皆さまとお会いできるのを楽しみにしておりました。どうぞよろしくお願いします。」

 そのコランバイン子爵夫人が挨拶を終えると、ノアさんの隣に座っている青年が挨拶をした。こちらの青年も仕立ての良い薄いブルーのシャツにネイビーのジャケットといったシンプルな服装だ。コランバイン子爵の長男とは思えないほど爽やかな青年だ。

「私はコランバイン家の長女、エミリアといいます。ノア様、お会いできるのを心待ちにしておりましたわ。ぜひともいろいろとお話をお聞かせください。」

 ダリル様が挨拶し終わった途端に話始めたエミリア様は、話している間ずっとノアさんの方を見ていた。とても熱心に。まあ、ノアさんの顔すごく綺麗だからね。そうなる気持ちも分からなくはない。そんなエミリア様は、袖のない胸元が大きくひらいた髪の色に合わせた赤色の派手なドレスといったコランバイン子爵の長女らしい派手な装いだった。髪を払うと少し離れた僕の席まで甘ったるい香りがしてくる。

 エミリア様が挨拶を終えると、銀縁メガネをかけた初老の紳士が口をひらく。

「ドラン商会のオーリー・スタッドと申します。コランバイン子爵、ご歓迎いただき誠にありがとうございます。ノア様、お会いできて大変光栄です。皆さまどうぞよろしくお願いします。」

 ドラン商会!質の良いジュエリーを売ることで有名な商会だ。そういえば姉さんもドラン商会のアクセサリーを欲しがっていたな。

「お、同じくドラン商会のリチャード・ハーディです。本日はご歓迎いただきありがとうございます。俺、あ私はドラン商会の御者でして、あまりこういった場は慣れていないのですが、よろしくお願いします。」

 続いて挨拶したのは、茶色のくるくるした髪とそばかすから少し幼い印象を受ける青年だ。ドラン商会ぐらいの大きい商会だと専属の御者までいるのか。すごいな。

 次は僕の番か。

「アズライト社のアンバー・グロッシュラーです。コランバイン子爵、本日はご歓迎いただきありがとうございます。皆さまどうぞよろしくお願いします。」

 まあ、コランバイン子爵とエミリア様はあまり興味がなさそうに聞いている。ノアさんはあの何を考えているのか分からない笑顔のままこちらを見ているが、ダリル様とオーリーさんは微笑みながら軽く頷いてくれる。

「さあ、自己紹介も終わりましたし、皆さまたくさん召し上がってください。そしてせっかくの機会ですので親交を深めましょう!」

 そのコランバイン子爵の親交を深めたい相手はノアさんなんだろう。最後の言葉の目線はノアさんに向いていたし。実際、食事が始まるやいなやノアさんはコランバイン子爵とエミリア様に質問攻めされていた。ダリル様はそこには入らずに、オーリーさんと談笑している。エマ様は一人黙々と食事をしていて、話しかけられる雰囲気じゃないな。

 そういうことで、僕は下座の方に座っていたドラン商会の御者のリチャードさんと話していた。

「リチャードさんは御者のお仕事をされてどのぐらいですか。」

「お、、私はまだ3か月ぐらいです。」

「そうだったんですね。あの、僕は貴族とかではないので、話しやすい話し方で大丈夫ですよ。年もたぶんそこまで離れていないと思いますし。」

「えっ、ありがとうございます!ほんと助かります…!俺こういう場所、慣れてなくてめっちゃ緊張してました。俺は今22歳なんですけど、アンバーさんは?」

「僕は23歳ですよ。1個違いですね。」

「そうっすね!年近い人がいてくれて安心しました。アンバーさんの方が年上なんで、敬語はなしで大丈夫っすよ。っていうか、アンバーさんの雰囲気はあの長男のダリル様っぽいんでもしかしたら爵位のある人なのかと思いました。」

「いや全然そんなことないよ。家が特別お金持ちってわけでもないし。」

 こうしてリチャード君とお互いのことを話しているうちに夕食の時間は過ぎていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ