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その後、姉からのお金を引き出し、メールに記載されている住所に向かった。意外と遠く、蒸気機関車で最寄りの駅まで乗り、その後馬車を使った。馬車からの景色はどんどんと緑豊かになっていく。結構な田舎だな。しばらくして馬車が止まったのは、森といっていいような場所に集落のような村がある門の前だった。
フリザック村と書かれた門をくぐり、村に入る。小さい村だが、祭りが近いからか活気づいた雰囲気で人々の顔色も明るい。姉が添付してくれた地図を見ながら屋敷に向かって歩いていく。歩く、歩く、歩いていく…村民の住居からはかなり離れたところにその屋敷はあった。門に入ってすぐのところは村民で賑わっていたが、ここら辺は静かだ。屋敷はさすが最近儲かっている貴族、立派なものだな。ちょっと緊張する…恐る恐る屋敷の玄関の呼び鈴を鳴らすと、若いメイドが出てきた。僕と同い年ぐらいかな。ただ、白い肌に黒髪に黒瞳、色彩のない色合いからか、少し冷たい印象を受ける。
「こんにちは。どなた様でしょうか。」
「あっ、はじめまして!アズライト社で取材のお約束をさせていただいています、アンバーと申します。」
そう言って姉から渡されているアズライト社の僕の名刺を渡す。
「ご丁寧にありがとうございます。アンバー様、お待ちしておりました。応接室にご案内いたします。」
案内してもらう途中、姉からのお願いもあり、きょろきょろして気づいたのは広い屋敷の割りに人の気配があまりないということだ。
「すごく大きなお屋敷ですね。その分、使用人方もたくさんいらっしゃるんですか。」
「いえいえ、使用人は私とメイド長の2人のみです。」
「えっ!少ないですね!大変じゃないですか。」
「確かに少し忙しいですが、メイド長はベテランなのでなんとかなっています。」
「そうなんですね。あなたはいつ頃から働いていらっしゃるんですか。」
「私はここ3週間ぐらいからです。」
「本当にここ最近から働き始めたんですね!」
「はい、そうなんです。それでは、アンバー様ここで少々お待ちください。主人を呼んでまいります。」
さりげなく情報収集をした結果、この若いメイドさんによると姉さんの友人は今ここで働いていないことになる。辞めてしまったのだろうか。それならなぜ?それに姉さんと連絡が取れない理由も謎だ。う~ん、「いなかったよ」と報告するだけじゃなぁ。出来たら辞めた理由とか聞けたら良いけど。
「待たせたね。」
少しすると、この家の主人であろう紫色のスーツを着た白髪で小太りで小さな初老の男性が部屋に入ってきた。金色のステッキで体を支え、ドスンドスンと近づいてくる。なんかファンタジー小説に出てくるドワーフっぽい。続いて先ほどのメイドさんもお茶を持って部屋に入ってくる。メイドさんはお茶をテーブルに置いた後はスッと扉の前まで下がり、待機している。
「いえいえ、お忙しいところ取材にご協力していただき、ありがとうございます。アズライト社のアンバーです。どうぞよろしくお願いいたします。」
立ち上がり、名刺を初老の男性に渡す。
「おぉ、よろしく。私はこの屋敷の当主のコランバインだ。我が領地の鉱石について取材をしたいんだって?なかなか見る目があるじゃないか。なんでも聞いてくれたまえよ。」
「ありがとうございます。早速ですが…」
それから少し鉱石について話を聞いていったが、回答の途中で自分の話、というか自慢話になることが多く、精神的に疲れた。
「たくさんお話いただき、ありがとうございます。取材はこれで終了です。」
「なんだ。もういいのかね。随分あっさりじゃないか。」
「いえいえ、お忙しい中たくさんお時間をいただくのは申し訳ないので。」
「そうか?しかしだな、」
「旦那様、ご歓談中に申し訳ありません。本日はこれからお客様もいらっしゃるので、そちらのご準備も必要かと。」
「あぁ、そうだったな。それじゃあ、失礼するよ。」
「はい、ありがとうございました。」
メイドさんに促されてコランバインさんが出ていくのを見送る。ふーっ。他にもお客さんが来るようで助かった。
「アンバー様、本日お休みになられますお部屋までご案内いたします。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
メイドさんに案内してもらえる間に姉さんの友人の話が聞けないかな…。
「そういえば、メイドさんのお名前は何と言うのですか。」
「あっ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はジェットと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「ジェットさんですね。先ほどはありがとうございました。どう切り上げようかと困っていたので…。」
「いえいえ、旦那様はご自分のお話になると長いですからね。それに、そろそろ次のお客様とのお時間が迫ってきていましたし。」
苦笑しながら話すと、ジェットさんも少し表情を緩めながら答える。
「忙しいんだね。」
「そうですね、ここ最近は。鉱石関係で商人の方々がいらっしゃることが多いです。」
「そうなんですね。」
いつ、切り出そうか考えているとジェットさんがある部屋の前で立ち止まった。
「ここがアンバー様のお部屋です。」
「あ、ありがとうございます。」
「いえ、それではまたご夕食の際にお呼びいたします。」
行ってしまった…。だってなんて切り出せば良いんだ。いきなり前に勤めていたメイドの話をするのは変じゃないか?っていうか、連絡が取れなくなった原因がこの屋敷にあるのだとしたら、あまり変な行動はこの屋敷の人に見せない方が良いのでは?でも、このままだといつ聞き出せるか分からないし…ジェットさんは最近勤め始めたようだし、聞くなら一番安全な気もする。よし、追いかけてさっさと聞こう。ジェットさんに開けてもらった部屋に入ったはいいものの、すぐに出ることになった。扉を開けてジェットさんが戻った方向に行こうとしたら、バンッと音がしたと思ったら目の前に扉があった。
「うわあっ!」
思わずそのまま扉にぶつかってしりもちをついた。思い切りぶつかったのでかなり痛い。おでこにたんこぶが出来ていてもおかしくはない。あまりの痛さにおでこを抑えて俯く。
「なっ、大丈夫ですか。」
若い男性の声だ。
「あ~…なんとか?」
「すみません。少し見せていただいても?」
その声に従い、おでこから手を離し、顔を上げるとめちゃくちゃ綺麗な顔があったので、一瞬痛さがとんだ。
「うわ、かなり腫れていますね。血は出ていませんけど、冷やすものをもらいましょう。メイドを探してきますね。気持ち悪さはありますか。」
「あ、いえ…」
「それは良かった。無理に立たなくて大丈夫なので、少しここで待っていてください。」
「はい…」
な、なんだあの男性は。同じ人間とは思えないぐらい整った顔立ちだった。しかし、どこかで見たような…?というか、怪我人への対応が慣れていたなぁ。あの人もコランバインさんのお客だろうか。全然顔は似ていないから親族とかではないと思うんだけど。というか、やばい、ちょっとクラクラする…