表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強面な同級生は、俺の横顔が好きらしい  作者: ミドリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/40

27 考察

ようやく気付いた、かもしれない。

 週末の俺は、相当不気味だったと思う。


 突然何の前触れもなくニヤニヤしたり、クッションを抱えて「くうーっ!」と悶える俺を見る母さんは、珍獣を見る目つきをしていた。そんな目で見ないでよ。だって仕方ないじゃん。


 でも、「ま、楽しそうならいっか」と小さく呟いた声を、背中越しに聞いた。多分、母さんとしては聞かせるつもりもない独り言だったんだと思う。


 だけどその言葉で、俺は随分と母さんを心配させていたことに気付いた。


 考えてみれば、家では友達の話なんてもう何年もしてなかった。部長の山本とのやり取りはあったけど、あれはどっちかと言うと業務連絡だ。


 スマホは持っていても、やるのは専らゲーム。そこで緩く繋がっている奴らとチャットしたりする機会はあったけど、俺が誘われてないオフ会で会っただの何だのを聞くのが辛くて、積極的に会話には参加していなかった。


 顔が見えない場所なのに、やっぱり俺は友達が作れない駄目人間なんだ。その事実を突きつけられたから。


 俺から発信する話の中に、部活以外での人間の名前が一切出てこないことに、きっと母さんは気付いていたと思う。少し考えたら、簡単に分かることだ。放課後も誰ともどこにも行かない。長期休暇はただひたすら家に引きこもっている。どう考えたって友達がいないのはバレバレだ。


 だけど、何も言われなかった。相当取扱い注意な子供だったのかもな、と今なら少し客観的に思えるのも、俺の心に余裕ができたからかもしれない。


 だとしたら、この心の余裕は全部日向のお陰だ。つくづく、勇気を出して中学時代から抱えていたトラウマを日向に話して本当に良かったと思う。やっぱり俺の思っていた通り、日向は俺を面倒臭いとか変な目で見ることなく受け入れてくれた。


 しかも、あんなに沢山俺の横顔を描いちゃうくらい俺のことが好きって、へへ、えへへ。


 いやあ、友情っていいな。これってもう親友って呼んでいいやつかな? 日向だって俺に隠してたことを話した訳だし、俺だって話せたことだし、お互い友情を確認し合った訳だし。


 ちょこちょこ届く日向からのメッセージも、俺の浮かれ具合に拍車をかけた。くだらないやり取りも、これまでぼっちを貫いてきた俺にとっては輝いて見える。


 それにしても、まさか春香ちゃんがあんなに気の強い子だとは全く想像していなかった。意外な一面を見た感じだけど、日向と仲良くなる前まで感じていた恋愛感情は、もうどこにもない。今残ってるのは、「相澤と幸せになるんだぞ……!」ていう、どっちかっていうと先輩風を吹かした感情だけだった。


 こんな感じで少しずつ俺の人生が上向き加減になっていったら、ビビリな性格もきっとその内治ってさ、可愛い女の子に告白されて日向に「返事どうしよう!?」とか悩む日が来るのもそう遠くない未来の話だったりして。あ、でも俺よりも日向の方が格段にイケメンだから、先に日向に彼女ができそう。え、そうしたら俺はまたぼっちに逆戻り?


 そのことに気付いた途端、浮かれていた気持ちが一瞬で萎えてしまった。


 俺はスマホをサッと取り出すと、「大好きな親友に彼女、寂しい」と入力してみる。すると。


「……えっ」


 ネット上では、俺と同じ悩みを抱えている人がわんさかいるじゃないか。おお、やっぱり親友に彼女ができたら寂しいよな? うんうん、俺も同じ気持ちだよ! と心の中で頷きながら、似たような悩みと回答を次々確認していく。


 すると質問のひとつに、「これは恋愛感情なのでしょうか」というものがあるじゃないか。え? 恋愛感情って、同性に? いやまあ、世の中にはそういう人もいるのは知ってるけど、そんなに悩むほど分からないものかね? と斜め読みをしていると。


『その人といるとドキドキしていたら、それは恋です』


 という回答があった。


「ドキドキ……?」


 ……ドキドキは結構してるな。だってあいつ、やることが突拍子もないし。基本驚かされっ放しだから、そりゃ心臓もドキドキするって。だってさ、しょっちゅう俺の頬を撫でたりとか、この間も泣いてる俺を抱き寄せたりとかさ、やたらと距離感が近いっていうの? 超優しいイケメンな日向にあんな距離感で来られたら、なあ? ――するよな? 普通。


 ちょっと不安になってきたので、更に検索してみることにした。「同性、ドキドキ」と入力する。


 そして、検索結果の内容に、口がパカッと開いた。


『ハグやキスなどのスキンシップをしたいのなら恋、そうでないなら憧れです』


 ……俺たち、滅茶苦茶スキンシップ多いよな。日向なんてさ、最初からズボンを穿かせようとしたり、お姫様抱っこをしたり、送迎だって支える時は腕を掴んで腰に手を当ててるのがデフォルトだった。雨が降ったら俺を抱き寄せてジャケットをかけてくれたりして、なんかこう優しすぎてソワソワするっていうか――。


「……あれ?」


 俺は今、何か大事なことに気付いた気がする。だけどそれが何かが自分でも分からなくて、モヤモヤしながら画面とにらめっこを続けた。


 ……そういや、スキンシップの大半は日向からだな。


 一旦思考には蓋をして、検索を続ける。打った内容は、「同性、スキンシップ、男」だ。


 すると。


『男同士でのハグや過度なふれあいは不快』なんてあるじゃないか。へえー、女性より男性の方がパーソナルスペースが広いんだ。あ、でも、若者の間では映えもあって割と接触が多い傾向がある、なんてことも書いてあるぞ。


 つまり、どういうことだ? 俺は友情とか疎いからよく分からないけど、ここから導き出される答えは――。


「……ッ!?」


 ガバッと起き上がると、キッチンに立っていた母さんがぎょっとした目で俺を見てきた。次いで、怪訝そうな顔になると尋ねられる。


「冬馬、どうしたの? 顔が真っ赤じゃない!」

「ふぇっ!? そ、そう!?」

「やあねえ、エアコンガンガンに点けたまま寝たんじゃないの? 夏風邪は治りにくいんだから。だからいつも気を付けろってあれほど……」


 ブチブチと説教が始まりそうな気配を感じたので、サッと立ち上がると「風邪じゃないって! ちょっと熱くなっただけ!」と言い残し、その場を立ち去ることにした。


「あ、ちょっと冬馬、話はまだ――」

「課題あるから!」


 急いでリビングから立ち去ると、階段を駆け上り自室に飛び込む。そのままベッドにバフッとうつ伏せでスライディングすると、くぐもった声で枕に向かって「わあああああっ!?」と叫んだ。


 思わず叫ばずにはいられなかったんだ。


 だって、俺が気付いたかもしれないのは、「あれ、日向って、もしかして俺に恋してる?」てことだったから。

次話は明日の朝投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] わああっ〜冬馬くん!やっと気がついて下さいましたか? 無自覚だったから、あの距離感で日向とご一緒にできて 親友って?いえいえいえ…その先の♡ですよね(〃ω〃) 日向くんと顔を合わす冬馬くん…
[一言] 冬馬くん、ようやく気が付きましたね。 続きを楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ