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第17章 6 アレクス

 アレクスは、紅茶のおかわりを持って行った。ウォッカをたっぷり入れたストレートだ。アカトフは一気にそれを飲み干し、見知らぬ少女にお代わりを要求した。

「私の次の子が、用意していると思います」

 アレクスは冷たく答えた。あまり長くこの空間にいたくない。さっさと自分の役目を果たしてしまおう。

「私の名前は伏せさせていただきます。今から話すのは、五人の消えた子どもたちについてです」

 アカトフがゆっくり身を起こした。

「何だと?」

 アレクスは淡々と言った。

「モナ、ユーリ、イヴァン、ヘルガ、アミ。分かっているだけでも、これだけの子どもがあなたたちの周りで姿を消している件について」

 アレクスとフョードルの目が合う。子どもたちを見守り続けたフョードルは、うなずいてみせた。彼も危険な橋を渡って集めてきた材料を、子どもたちは正確に組み立ててきたはずだ。

「最初にいなくなったのは、モナ。ジナイーダの最初に出来た友達の一人です。アカトフの妨害で友達がジナイーダから離れていく中、モナだけはジナイーダと仲良くしていました。彼女は、ジナイーダの家の向かいに住んでいました。幼い頃からよく家の前で一緒に遊んでいたそうですね。ですが、ジナイーダが学校に入学して二ヶ月後、親子遠足の最中に忽然と姿を消しました。その時、ジナイーダと一緒に参加していたのはアカトフ、あなたです。だから、モナの失踪騒動のことはよく覚えているでしょう」

「ああ、だが……」

「次は、ユーリです。彼女はジナイーダとは違うクラスでした。けれど、同じ遠足で仲良くなり、こっそりと交換日記をするようになりました。両者の母親は知っていたようですが。彼女は、モナが消えたのと同じ年、九月二十日__平日の夕方を境に、行方不明になりました。彼女を探すために懸賞金がかけられましたが、結局発見には及びませんでした。ですが、興味深い事実があります……」

 アレクスは記事の一文を指し示した。

「その日、彼女はクラスメイトと遊ぶ約束をしていました。けれど、後になって事情を聞かれた当のクラスメイトは、その日は彼女と遊んでいないと答えました。急に用ができたとユーリが言ったそうです。その用事がなんだったのかは、分かっていません。家の手伝いでも医者に行くのでも、学校の活動でもないそうですが。

 その次に騒動となったのは二年後、ジナイーダが習っていたピアノ教室の友達イヴァンです。彼は母親と二人暮らしでした。彼は、ジナイーダがたまたま居合わせたレッスンの帰り道で消息を絶ち、後日……大雨の日に、下水道の口で見つかりました。

 次は、ヘルガ。彼女は、私のようにウクライナから越してきました。当時十歳だったジナイーダのクラスに転入してきて、ジナイーダはその子と積極的に仲良くなりました。ですが、彼女もまた、すぐに姿を消したのです。

 最後……恐らく最後が、アミです。彼はドミトリーやコーリャのように、十三歳だったジナイーダに惹かれて近づいてきました。ジナイーダとうまくつきあうことに成功したと、友達に喜び勇んで報告していたそうです。しかし、彼はその後まもなくして、置き手紙を残して家出しました。彼の両親は、今も家出だとは信じていません。手紙がプリントされたもので、署名の字もどこか彼の字の癖とは違っていたからです」

 アレクスは、小さく畳んだ紙を取り出して、開いてみせた。読み上げることはしなかった。アカトフが目を細め、立ち上がろうとした。

「彼らは何故、」

 アレクスは目を閉じ、暴漢に殺された姉を想った。姉を殺した奴らは夏には逮捕された。だが、ウクライナ人を殺しても何の罪にもならないと裁判で言い張った。その上、未成年かつ十分に反省していると判断され、大した罰は与えられなかった。

「消えたのでしょうか」

 その問いかけに、アカトフもジナイーダも答えない。彼らを説得するつもりはアレクスにもない。自分はただ、今までの仲間たちと同じように、真実を話すだけ。

「彼らは、生まれも、家族構成も、年齢もばらばらです。趣味も性格もそれぞれ違う。何故、あなたの近所に住んでいる他の子どもたちを差し置いて、彼らが消えたのでしょうか?

最も大きな彼らの共通点は、ジナイーダと知り合いだったことです。だから、ジナイーダに関する悪い噂が広まったのでしょう」

 だが、それだけでは、共通点ともいえない。もっと、彼らが消されねばならなかった理由が__そして、ドミトリーが毒牙にかからなかった理由があるはずだ。

「私次の人が、もっと面白い話をします」

 扉の向こうから、文句を喚く声が聞こえ、アレクスは初めてちょっと笑った。



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