第16章 1 アリー、マリヤ、ドミトリー、アレクス
2036年1月7日。クリスマスだ。「ソビエト」の子どもたちはいくつかの班に分かれて働いていた。
アリー、マリヤ、ドミトリー、そして夏頃新たに仲間に加わったアレクスは、オレグの家の中をきらびやかに飾り付けていた。スーパーで買い込んだモールを壁一面に貼り付け、物置から出してきた古めかしいツリーにボール玉と星を飾った。雪の結晶のガラス細工も本棚や机に沢山載せた。
「クリスマスといえば、マロースおじさんだね」
ひげ面の老人の人形をピアノに置きながら、ドミトリーが言った。
「昔は、プレゼントをくれるのがほんとにマロースおじさんだって信じてたな」
ドミトリーはしみじみと家族とのクリスマスを思い出す。豪華な食卓と、望んだものが必ず入っていたプレゼント。
「皆は、いつまでマロースを信じてた?」
その言葉に振り向いたマリヤとアリーが、困ったように肩をすくめた。
「あたしの家は貧乏だったからね。最初からマロースも親もプレゼントなんかくれやしなかったよ」
「わたしも」
アリーが同意する。
「あんたの家は、そこそこ金持ちじゃないか。有名配信者の個人事務所なんだから」
「でも、お母さんはわたしには何もくれなかった」
アリーは懐かしげに語った。
「母さん、本当の子どもにはいつも大きな玩具を買ってたみたいだけど」
ドミトリーが申し訳なさそうにうつむいた。
「……ごめん」
マリヤが慌てて彼を慰める。
「気にするんじゃないよ。いろんな家があるんだって、あたしたちはよく分かってるよ」
「アレクスはどうだった?」
アリーが話しかけると、黙々と木彫りの人形を選んでいたアレクスが振り向いた。
「私の家は、聖ニコライだったわ。でも、信じていたのは六歳くらいまで」
アレクスは、五月に殺されたタチアナの妹である。姉の死後、両親は壮絶な言い合いの末に離婚した。医者である父親に引き取られたアレクスはモスクワに留まったが、母親はウクライナに帰って行った。それ以来、連絡は全くとっていない。
「ドミトリー、あんたは何歳までマロースを信じていたんだい」
マリヤがからかう。
「……11歳」
皆が笑った。
「ほんの最近じゃないか!」
「ドミトリーって、可愛いとこあるのね」
ドミトリーは珍しく口をとがらせて拗ねる。
「笑うなよぉ」
「まあでも、今はもうマロースなんて必要ないね。願い事なんて、自分たちで叶えるもんだ」
マリヤの言葉に三人はうなずいた。皆の望みを叶えるために、とソビエト発足時にオレグやコーリャは言った。言うなれば、彼ら自身がマロースで、雪娘だ。自分以外の誰かの意思でロシアに来て、誰に守られるでも愛されるでもなく子ども時代を終えようとしている今、互いの友情だけを一つの宗教のように信じている。




