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第15章 3

「できの悪いホラー映画みたいだね」

 屋敷に閉じこもったままのドミトリーがそう批評した。

「殺人ピエロでも下水道に潜んでいるのかな?」

「あるいは、ジナイーダが張本人か」 

 消えた子どもたちは皆、ジナイーダとの接点があった。近所の交流会や、学校で。あるいは、父親の職場で。

「でも、どうして!」

 シロンがかぶりを振った。脆い陶器の人形のような見かけをしたジナイーダが大量殺人鬼だとは、とても思えなかった。

 行方知れずの五人の名前と簡単なプロフィールを読みながら、マリヤが唸る。

「この子たちが選ばれた理由は何だ?」

「ジナイーダと関係があった」

「だけど、ドミトリーなんかは明らかに相手にされてなかった」

 ドミトリーは肩をすくめる。殺されなくてよかったと思う反面、自分だけは狙われてもやすやすとやられはしないという自信があった。

「ドミトリーとコーリャ。あるいは、オレグに教えてくれた子と、消えた子。違いは何だろう?」

「コーリャとドミトリーには大きな違いがあるよ。ウクライナ人とロシア人だ」

「この子たちもウクライナ人なのかね?」

 フョードルが首を振った。

「この子たちの両親は、この町に三代住み続けるロシア人だ」

 子どもたちは口を閉じた。ジナイーダという少女がますます分からなくなる。

 最初におずおずと沈黙を破ったのは、アリーだった。

「もう一つ、分からないことがあるわ。ジナイーダはどうやってコーリャのことを知ったのかしら」

 シロンとコーリャが顔を見合わせた。

「アカトフさんだ。コーリャとジナイーダの父親だよ」

「アカトフさんと連絡先を交換した。その……僕の母さんが死んだ時に。ツアー客の中でも、アカトフさんは僕のことが気に入ってた」

「あの社長も、あんたをそいつに会わせたがってなかったか」

 マリヤが言った。

「そういや、そうだったね」

「ジナイーダは当然アカトフに指示されて手紙をあんたに送ってたんだろうし、アカトフは社長にも根回ししてた。あんたに執着しているのは、ジナイーダじゃなくてその父親なんじゃないか?」

 オレグが険しい顔になった。

「一体、どういう神経してるんだ。コーリャに会いたがるなんて」

「父親としての愛情?」

 ベグがおえっと吐く真似をした。下品だと思いつつ、彼に倣いたくなるコーリャである。


 アカトフは、一人でツアーに参加していた。たまたま同じツアーにいたシロンが傍から見ていて心配になるほど、コーリャを気に入りくっついてきた。


 そうだあの時……アカトフは僕の家族のことばかり聞いてきた。母さんと二人暮らしで父さんも兄弟もいないと聞くと、あの人は嬉しそうだった。母さんがどんな人か知りたがり、普段からあまり仲良くなかった僕は返事に困ったっけ。


 思い出したくもない、あの時。母さんの体には真新しい傷があると、警察が言いにくそうに伯父さんと僕に言った。いつもきちんと片付いていた部屋の中は、妙に荒れていた__。


「おい、大丈夫か?」

 オレグがコーリャの肩を捕まえて揺さぶった。

「……うん」

「奴に復讐したいか?」

「無理でしょ。危険過ぎる」

「そんなことはない。アカトフや娘の殺人を立証できれば……彼を破滅させることは容易い」

 そう言ったのはフョードルだった。

「ただし、生半可な覚悟では警察も、アカトフらの心も動かせない。コーリャ、彼らのことを調べていく過程で、君の心をひどく傷つけてしまうかもしれない。それが嫌なら、彼らに関わらないようにするのもいいだろう。__せっかく、ドミトリーも彼女と縁を切ったことだし」

 コーリャは仲間たちの顔を見渡した。


「あんたの望むことをすればいいよ」

と、ロシアに連れてきてくれたマリヤは言った。


「君のやろうと決めたことを、僕は手伝う」

 コーリャをいつも支えてくれたシロンは微笑んで言った。


「コーリャの側に、いつもわたしたちがいるから」

 と、心優しいアリーは言った。


「あんなろくでなしども、俺がお前の代わりにぶちのめしてやる」

血の気の多いベグは、自慢の固い拳を振ってみせた。


「俺たちにできないことはないさ」

 誰よりも「ソビエト」に入れ込んでいる熱血なオレグが豪語した。


「勝手かもしれないけど……ジナイーダのためにも、僕は真実を明らかにしたい」

 と、誠実なドミトリーは遠慮がちに言った。


 オレグを呼びながら祖父が下りてくる。オレグは一瞬嫌な顔をしたが、よろけそうになった祖父にさっと駆け寄った。

「ソビエトの話をしていたのか」

 祖父はしっかりとした声で義孫に言った。

「そうだよ。俺たちはソビエトを作った。全ての同志の為に戦う」

「それはいい。勝利の秘訣は、心を鉄にして敵にかかることだ。全権力をソビエトへ、悲願のために誰も遠慮はしなかった」

 コーリャの心に、その言葉が染み込んだ。


 悲願を達成するためには、どんな犠牲も厭わない……そんなのは実際不可能だ。仲間の誰も犠牲になんてしたくない。だけど、それぐらいの心意気でジナイーダたちに向き合っていい。そう仲間が許してくれている。


「僕は」


 コーリャが口を開くと、皆が注目した。


「父さんの罪を暴いてみせる」


 言葉に出すことで、気分が楽になった気がした。もう何もできない子どもじゃない。自分を苦しめた敵と戦うことが出来るのだと証明しに行きたい。



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