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第14章 4

 オレグの祖父は、夜中に壁を伝って階下に下りてくることがある。特に何か用がある訳でもないらしいが、そんな時にする話は決まって隣国のウズベクで大儲けした話か、ゴルバチョフと会った時の話だ。子どもたちは割に面白がって聞いていたが、オレグは祖父が滔々と仲間に昔話をするのを嫌っていた。うんざりするほど今までに聞かされたせいか、老人の昔話を無類に恥ずかしい代物だと信じている。自分は祖父のことをぞんざいに扱うくせに、他の誰かが祖父の世話を買って出ると嫌な顔をする。

 だからいつも、寝ぼけて下りてきた祖父を支えて寝室に連れて行くのはオレグの役目だった。

 フョードルが深夜に家にやってきた時も、オレグは二階にいた。遅くまでおしゃべりに興じていたマリヤとコーリャが疲れきった様子のフョードルを出迎えた。

「ただいま」

 フョードルがそう挨拶するようになったのは最近になってからのことだ。

「お帰りなさい」

 脱いだコートを受け取ったコーリャは、焦げた臭いをかぎ取った。

「火傷でもしたの? 変な臭いがする」

「ああ……いや」

 フョードルは首を振った。

「火事だよ。全焼した現場に出ていた」

 よく見れば、彼の顔にもすすがついている。

「火事だって? どこ?」

 マリヤはカーテンをめくり、外を覗いた。

「ここから少し離れている別荘地だ__そうだ、オレグはいるか?」

「二階にいるけど、何で?」

「燃えた家に住んでいたのが、彼と同じ学校の生徒だ。知り合いかもしれない」

 マリヤが眉をひそめる。

「死んだのか?」

「分からない。だが、派手な爆発だったし、家は跡形もなく焼け落ちた。生き延びた可能性は……低いだろうな」

 朝にでも、骨が見つかるかもしれない。フョードルはそっと付け加えた。

「……オレグを呼んでこようか」

 マリヤがのろのろと動いた。近くで誰かがひどい死に方をした。とてもざまあみろとも、他人事だとも割り切れない。自分がその場にいたらと想像してしまう。

 戻ってきたマリヤとオレグは、座っているフョードルに真剣な顔で詰め寄った。

「住所は何番ですか?」

「ペスコフ通りの五番地」

 オレグが三人の前で凍りつく。コーリャにマリヤが小さく目配せした。オレグがやっと答えを口に出す前に、分かっていた気がした。

「ドミトリーの家だ」

 弱々しい声だ。普段の堂々とした物言いの面影はかけらもない。ドミトリー。彼は親友の名前をもう一度口にした。

「__放火ですか?」

「その可能性が高い」

 コーリャとマリヤの二人で、立ち尽くしたままふらふらと左右に揺れていたオレグを肘掛け椅子に座らせた。深く椅子のクッションに沈み込み、オレグは自身の顔を両手で覆った。

「あの女だ。あの女に決まってる」

「ジナイーダ?」

「他に誰がいる?」

 アリーやベグ、シロンは今二階で眠っている。オレグは今日一度も家から出ていない。皆が集まって会議をしていたからだ。

 コーリャは、一瞬でもオレグを疑った自分を恥じた。

「ドミトリー……」

 コーリャは、オレグの声が波打っていることにいち早く気づいた。肩にそっと手をのせても、彼ははねつけなかった。

 何と声をかけたらいいのか。身近な人間の死を経験しているはずのコーリャにも分からない。オレグがこんなにも動揺していることに驚いている自分がいる。

 呼び鈴が鳴った。四人は飛び上がった。時計はもう午前二時を回っている。

 真っ先に立ち上がったのはフョードルだったが、家の住人であるオレグが彼をおしのけた。責任感の強い彼は、どんなに弱っていても役目を果たさないことは嫌いだった。


 扉を開いて__オレグは絶句した。


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