第14章 3
だが、昼夜を問わずドミトリーがやってくるので、次第に心配になったコーリャはついに彼に話しかけた。平日の午前十時、普通だったらとっくに学校の授業が始まっている時間帯だ。ドミトリーは目立たない配色の服装で、こそこそと空き巣のようにオレグの家を窺っていた。
コーリャの不安は的中した。ドミトリーはもうずっと学校には行っていないらしい。
「オレグに合わせることなんてないのに」
「分かってる。けど、勉強してても集中できないんだ。何となく……」
ドミトリーはコーリャと家の前で話しながらも、二階の窓にちらちらと視線を走らせている。
「君たちは元気かなって……ずっと気になってる。特にマリヤとか、……オレグとか」
「どっちも元気だよ」
コーリャは苦笑いした。オレグが自分に関して言っていることを聞いたら、ドミトリーは怒るだろうか。いや、どちらかというと悲しむだろうな。
「__そうだ。ジナイーダも……」
ドミトリーが言い出した。コーリャは思わず身構えた。
「何!?」
「君に会いたがってる」
またか。いや、ずっとだ。
「あの子に会うのは二度とごめんだな」
「だろうな」
ドミトリーは、彼女と連絡を取り合っているらしい。一瞬、正体の分からない寒気がした。
「……仲直りしたんだね。ごめんね、僕が彼女に近づいたりして」
「いや……彼女とはもう、そういうんじゃない」
ドミトリーは自分の顔を手でいじくりながら、呟いた。
「マリヤの一件でやっと分かったんだけど……あの子は見ていて本当に危なっかしいから、側にいてやらないとって気分になるんだよ。それも、彼女の魅力なのかな」
魔性の女。そんな、大人びた言葉が彼女に似合うかもしれない。マリヤやアリーのような、仲間としての親しさは彼女に抱けそうもない。一緒にいて心が休まることはないし、腹の中で何を考えているか分からない空恐ろしさがある。だけど、気がついたら彼女のことを考えてしまう。ジナイーダの澄んだ瞳に冷え冷えと見つめられた時の喜びが忘れられない。マリヤにあんなことをされた後なのに。
「__ジナイーダは、あれはマリヤのせいだと言ってる」
不意に、ドミトリーが顔を歪めて言った。
「へ?」
「マリヤが先にナイフで斬りかかってきたんだって__ジナイーダの腕にも切り傷があるって言い張っている」
「そんな……」
コーリャの動揺を、ドミトリーは感じ取ったようだった。
「残念なことに、僕ら、誰もその現場を見てない」
「マリヤが嘘をついてるって言いたいの?」
ドミトリーは否定しなかった。コーリャとの距離を一歩詰め、提案した。
「ジナイーダの傷__見てみるか?」
彼女は喜んで見せてくれる。だって、君に会いたくて仕方がないんだからな。
後ろから声が響いた。
「下らない。切り傷なんて、後からいくらでもつけられる」
オレグだった。コーリャの背後にいつの間にか出てきていたらしい。
「とっとと失せろ。ジナイーダの使いっ走りに来たのか?」
「違う! ……オレグは、学校に来ないのか?」
「ああ、もう行かないね。新しい彼女がいるんだから寂しくないだろ?」
「僕は……」
「コーリャに今さらジナイーダの話をして、どういうつもりだ? あの女がコーリャやマリヤに何をしたか、忘れたのか? そうだろうな。お前らロシア人は、都合の悪いことは何でも忘れる!」
「そんなつもりじゃなかった。ただ、彼女の言い分を聞いてやらないのは不公平だと思って」
「誰に聞かせるというんだ」
オレグは静かな怒りを込めて言った。
「コーリャはもう十分彼女の話を聞いた。判断するには十分だ。さあ、消えろ!」
オレグはとうとう、いつまでもその場から動こうとしないドミトリーの手を強く叩いた。
「次この近くでお前を見つけたら、水ぶっかけてやるからな。俺たちのことなんか忘れてしまえ。それから、学校にはちゃんと行け。親父が成績にうるさいんじゃなかったのか?」
「どうしても、仲間になりたいって言ったら?」
「まだそんなことを言ってるのか! 俺たちに、お前は必要ない。お前にも俺たちみたいな奴らは要らないはずだ! ベゲモートをけしかけてやろうか?」
ドミトリーはもう何も言わなかった。唇を噛み締め、ゆっくりと背を向けて歩き去った。




