第13章 7 オレグの家で
眼帯をつけたマリヤが仲間の元に戻ってきたのは、三日後のことだった。
「どうだい、かっこいいだろ」
歓声を上げて迎えた仲間たちに笑いかけながら、マリヤは眼帯を指差した。右目の視力を失ったことは口には出さない。細い傷が顔中に走っていることにも。皆、お見舞いの時に既に知っていた。
仲間たちが集まっているのは、オレグの家だ。アカトフがいつやってくるか分からないからとオレグが家に招待してくれた。
「ただいま」
マリヤは、黙っているコーリャの肩を叩いた。
「何か変な気分だね。初めて入るお屋敷でただいまって言うなんて」
だが、初めてウクライナに帰国した時も、緊張しながら「ただいま」と言ったっけ__マリヤは思い出す。「おかえり」と嬉しそうに返す母親の笑顔は、今もちゃんと覚えている。
「コーリャ」
マリヤは、一向に返事をしないコーリャに再び呼びかけた。
コーリャが顔を上げる。傷ついたことを必死に隠そうとしている時の無表情。マリヤの胸が痛んだ。
「……おかえり」
「辛かったね」
マリヤはジナイーダの狂気に満ちた顔を頭から追い出そうとした。
「あいつの父親が、母さんを殺したんだ」
二回も。
「少なくとも、あんたのせいでは決してないよ」
噛んで含めるような言い方をして、マリヤはコーリャの頭を撫でた。
「ところで、ドミトリーは?」
それに答えるのはオレグだ。
「あいつは、仲間にはできない」
「どういうこと?」
ふざけ合っていた仲間たちが集まってきた。その中には、フョードルもいる。マリヤを送ってきて、引き留められたのだ。
「俺たちは、団結して戦うべきだ。今までに十分、このロシアで味わってきた不幸から逃れるために」
「戦うだって?」
「反社になるわけじゃない。だけど、ここにいる皆が幸せになるために、俺たちは団結したい。君も言ったはずだ。一人が引っ張る力より、皆が同じ目的の下に合わせた力の方が遙かに強い。__レーニンの時代から」
話の飛躍についていけなくて、マリヤは眉をひそめた。アリーも、ベグも、年長のフョードルもうなずいている。
オレグは、マリヤに高らかな声で言った。
「俺たちで、ソビエト(議会)を作るんだ」
「それ、今までとどう違う?」
「ソビエトは……今でもロシアの「正義」だ」
オレグはよどみなく説明する。
「ソビエト連邦ははるか以前に崩壊したはずだった。だが、未だに皆、ソビエト連邦人のつもりでいる。ソビエトの論理で生き、ソビエト連邦時代の法律を復活させ、かつてのソビエトの冷戦が今も続いていると思っている。ウクライナに攻め込んだのは、ソビエトの亡霊がけしかけたせいだ。__なら、ソビエトに準じれば、きっと俺たちのやろうとしていることは「悪」にはならない」
「わたしたちの大人への怒りなんて、今は誰も聞いてくれない。本にされたところで何も変わらないわ。だから……わたしたち自身で、自分たちを救いたい」
アリーがカメラの前に居るときのようにはきはきと言った。
「僕ら傷ついた者同士で、慰め合うだけじゃ足りないよ。結束しよう。生きるために」
マリヤは、椅子から立ち上がったコーリャを見た。
「あんたも、そうしたいの?」
コーリャはさっとうなずく。
「もう、誰にも泣いてほしくない」
二階から、ソビエトの軍歌が聞こえてきた。オレグの祖父が歌っているのだ。誰からともなく笑い出した。円陣を組んで手をつなぎ、無言で子どもたちは誓い合った。




