第13章 6
「いいえ、知った方がいいことよ!」
ジナイーダがぴしゃりと言った。
「よく聞いて、コーリャ。あなたもずっと知りたかったって言っていたものね」
コーリャには思い当たるものがある。
「もしかして……手紙のこと?」
「そうよ。あなたはね、わたしの父さん__セルゲイ・アカトフの実の子どもなの」
コーリャは咄嗟にジナイーダから距離をとった。僕が? ジナイーダのお父さんの息子? それって__
ああ、しかも、今君はアカトフと言った。
「あなたのお母さん、首吊って死んだんでしょう……奇しくも、父さんがウクライナに行った時期に」
何故知っているんだ。そんな疑問は遠くに追いやられた。だって、今最も大事なのは__母さん、母さんが死んだ時に、僕の父さんが僕の家がある町にいた?
あの夜、アカトフさんをホテルでちっとも見かけなかった。それにあの時、僕は鍵をなくさなかったか? じゃあ、じゃあ、母さんが死ぬ前に会っていたのは__首を吊ったのは__
『お前の母さんは、ロシア兵に犯されたんだよ』
ウクライナにやってきたそのロシア兵が、たまたま母さんにそっくりな僕の顔を見て、母さんに会いたくなったのだったら__そして再会した母さんをひどく傷つけたのだとしたら__
その場に崩れ落ちかけたコーリャを、オレグと記者が支えた。ジナイーダは大笑いして、走って行った。
「あ、あ、あ……」
呆然と呻くコーリャには、しっかりしろと鼓舞するオレグの声は耳に入らない。
母さん。幼いコーリャを見て泣き出しそうになる母さんが、コーリャが耳で覚えたロシア語を話す度に手に持っていた物で殴りつける母さんが、顔を合わせるとよそよそしく目を逸らす派手な化粧の母さんが、コーリャの頭の中をぐるぐると何十回も巡っている。その中にアカトフが乱入してくる。
やたらコーリャを気に入りべたべたと話しかけるアカトフ。警察署から車で逃げ出すアカトフ__!
気づけばコーリャは叫んでいた。部屋の中からシロンや、ベグやアリーが飛び出してきて、訳の分からないままにコーリャを慰めた。アパートの他の住人が何だ何だと顔を出し、子どもたちが集まっている様子を見物していた。




