第13章 3 病院
マリヤは、顔をカッターで切り裂かれてのたうち回っていた。
「マリヤ……! 一体何が……」
排気ガスと血で汚れた顔をかきむしろうとする手をコーリャが押さえた。怪我がひどくなる。マリヤは痛みに呻いた。傷は片目にまでかかっている。
「病院だ」
真っ青に顔の警官が彼女を警察車両に乗せようとする。しかしマリヤは弱々しく抵抗した。
「平気だ。病院には……行きたくない」
「何を馬鹿なことを!」
警官が叱りつけた。
もしマリヤが病院に行けば、無保険でモスクワ市民でないこともバレてしまうかもしれない。
「止血すれば……治るよ」
「無理だね」
オレグとコーリャは彼女を無理に車に押し込んだ。警官がさっと運転席に飛び乗り、エンジンを入れた。
傷は包帯がとれた後も残るだろうと医者は言う。病院ではマリヤよりもコーリャの方がうろたえていた。彼女が入院した部屋に通されると、警官のフョードルが優しい口調で負傷の経緯を尋ねた。
マリヤは、ジナイーダにやられたのだと言った。
あの時、逃げていった車はジナイーダの父親の物だった。ジナイーダと父親が警察署に来ていたのだとマリヤは口ごもりながら答えた。
「な、何で彼女が?」
「あんたを連れて行くためだよ」
マリヤは呻く。
「いい? あんたのことを通報したのもきっと彼女だ。あんたを警察で保護させて、父親と一緒に引き取りに行くつもりだったんだ。でも、ちょっとの差で、あたしらが勝ったよ」
マリヤが顔のない顔で笑う。吐き気がした。マリヤのせいじゃない。自分のためにマリヤが傷を負ったのだという事実がコーリャを苦しめる。
警官が険しい顔で問い詰める。
「それで、何故君が切られた?」
「父親と……あの子が車から降りてきたとき、ヤバいと思ったんだ。コーリャを狙ってるんだってすぐに分かった。だから、あんたの目論見は崩れたよって言いに行った。あの子はとんでもなく不気味だけど、父親も異常だよ。ジナイーダに向かって、面目丸つぶれだ、家に帰ってから覚悟しろって言った。先に父親が運転席に乗ってから、ジナイーダが急に襲いかかってきた」
マリヤはコーリャに顔を向けた。
「本当だよ。嘘ついてなんかいないよ。あたし、あの子に言ったんだ。思い詰めてることがあるんなら、一晩寝た仲だしあたしらが力になるって。だけど……あの子……」
「分かってる。もういいよ」
コーリャはマリヤを力なく抱きしめた。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
顔に傷が残るんだって。傷が目にかかったせいで、片目が失明するかもしれないんだって。僕がジナイーダに夢中になってたせいで。
「ごめんね__……」
コーリャは泣きだした。マリヤも泣いていた。涙で包帯が汚れると必死にこらえながら、コーリャに懇願した。
「頼むから、もうあの子に会いに行くな。あの子があんたにまで何かしたら……あたしは嫌だ。耐えられないよ」
コーリャは約束した。




