第13章 1 警官
警察署でコーリャの尋問をしたのは、彼を連行した時と同じ警官であった。帽子を取り、明るい場所で向き合うと、驚くほど若く見えた。まだ十代と言われてもおかしくない。緊張しきっているコーリャの前で、警官はフョードルと名乗った。名前、年齢、住所(偽の番地を言った)などひとしきり特定情報を聞き取ってから、警官の態度はいきなりくだけた。
「ウクライナとロシア、どっちが住みやすい?」
「ろ、ロシアです」
判断できるほど長く住んではいないのだが、こう答えないと確実に角が立つ。
警官はウクライナの社会に興味があるようだった。コーリャにウクライナでの生活のことばかり質問して、かと思えば調書をとっている様子はない。
「身元引受人がいなければ、今晩はここでお泊まりだ」
「あの……さっきの友人のお母さんが……」
「本人が署に来るまでは認めない」
警官はふっと笑った。
「どうして、ロシアに来たんだろうな?」
「え?」
「この国にはね、望んでいないのに連れてこられた君の国の子どもたちがいる」
コーリャはまじまじと警官の顔を見た。記者と同じようなことを言う。カマをかけているのだろうか。
「そうだろうと思います」
コーリャは慎重に答えた。マリヤやアリーたちの名前は絶対に出しちゃいけない。たとえ自分が__命の危機に晒されても。
足が震えた。僕、これから拷問される? どんどん罪を着せられていって、最後は銃殺刑? 怖い。正直言ってものすごく怖いよ。
「両親は?」
「……いません。お母さんは死にました。父さんは、どこにいるのか分かりません」
「……そうか」
警官は何故か目頭を押さえて呟いた。
「僕もだ」
「え?」
「僕の本当の両親も、今どこで何しているのか分からない」
コーリャは驚いて、表情を崩した青年を見つめた。
「せめて、ウクライナで幸せに生きていてくれたらと……思う」
失礼、と警官はハンカチで顔を拭って謝った。さっきまで恐ろしい権力の行使者だったのに、今は少し背が高いだけの友達にすら錯覚する。
「じゃ、あなたは……」
その時、別の警官がコーリャたちを呼んだ。早速身元を証明してくれる大人が現れたらしい。コーリャはとても驚いた。シロンの母親が帰ってきたのだろうかと思った。呼んでくれた警官も迅速さに半ば呆れているようだった。




