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第12章 8 通報

 夕方になってそれを聞いたマリヤは、思わずアリーを抱きしめた。

「よくやったよ、アリー。コーリャの命が助かった」

「大げさよ……」

 だが、アリーにも分かる。コーリャがあのままジナイーダの両親に会っていたらどうなったか。父親はコーリャを歓迎するかもしれないが、母親がどう思うだろうか? 手紙の内容が正しければ、コーリャはジナイーダの異母兄弟になるではないか。

 罵られ、追い出されるか。争いになる夫婦の間で板挟みになるか。ジナイーダは善意でコーリャを呼んだのかもしれないが。

「あの子、また来るかな?」

「多分ね」

 夕日が差し込む窓には、真新しいガラスが嵌まっている。

 扉を叩く鈍い音がした。子どもたちは顔を見合わせた。

「ジナイーダ?」

「いや……ドミトリーとオレグかもよ」

 フットワークの軽いコーリャがいの一番に玄関に向かった。

 家の前に立っていたのは、彼らの知っている誰でもなかった。

「えっ……」

 コーリャの短い驚きの声にベグたちはすぐ立ち上がった。だが、コーリャは中に向かって、来るなと合図した。

 厳めしい制服を着て、金色のバッジをつけた大人が、怖い顔でコーリャを見下ろしている。誰に聞かなくても分かる、最悪の事態だ。

 警官はコーリャに尋ねた。

「住所不定の未成年がこの部屋に住み着いていると通報があった」

 コーリャは答えようとしたが、喉がからからで声が上手く出ない。

「え……」

 通報。誰からだ? ドミトリー? オレグ? 記者? シロンの同級生? ジナイーダ……?

「君はこの家の住人か?」

 そうですと答えようとして、思いとどまった。中を見せろと言われたら。誘拐されたことになっているアリーが見つかったら、全て終わりだ。

「……僕、この家の人じゃありません」

 警官が微かに耳を動かす。

「ウクライナ訛り」

「あ……育ったのがウクライナで……でも、今はロシアに住んでいます」

「調べれば分かることだ。おいで」

 警官はコーリャの腕を掴んだ。

「ところで、この家の本当の住人はどこにいる?」

 シロンが飛び出してきた。

「僕です! 母と二人暮らしです。友達をしばらく泊めていただけなんです!」

 警官はシロンの頭のてっぺんから爪先まで眺め回し、

「お母さんは今いないの?」と尋ねた。

「出張に出てるんです!」

「そうか。だが、ウクライナ語を話す子が住み着いていたのは見逃せない」

 シロンがひゅっと息を呑んだ。みるみるうちに顔が青ざめていく。

「でもそれは……」

「この子は署で保護させてもらう。然るべき処置が君にも必要なら、追って連絡する」

 コーリャは腕をきつく掴まれたまま、シロンを見た。

「なんか……ほんとに、ごめんね」

「何言ってるの、自分の心配が先だよ!」

「僕は……大丈夫」

 言いながら自信がなくなってきて、警官を見上げた。帽子の下で警官が笑った気がした。

「おいで」

 警官はコーリャを連れてアパートを出た。抵抗しなかったおかげか、恐れていたような荒っぽい態度は取られなかった。


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