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第12章 6 留守番

 翌朝になって、破れた服の代わりにアリーの着替えをジナイーダに貸した。アリーは夜が明ける前に帰ってきたベグとはまだわだかまりが残っていて、出来るだけ彼から離れようと動いていた。ベグは彼女を無視してジナイーダにべたべたと話しかけていたが、全て無視された。その様子を見てコーリャは少し胸のすく思いがした。

 オレグとコーリャがこだわっている事件のことは、マリヤたちも知っていた。ベグが仕入れてきたのだと言う。アリーはすっかり怯えてしまった。

「でも、あんたもウクライナ人だとは思わなかった」

 しみじみとマリヤがオレグに言った。

「気が合う相手には、共通点があるものなんだね」

「俺とあんたが、気が合うって?」

「そう思わないか。喧嘩っ早いところも、お節介なところも」

「やめてくれよ」

 オレグは満更でもなさそうだ。

 学校があるからと二人は朝のうちに帰っていく。ジナイーダは送ると言っても決して首を縦に振らない。しばらく泊めてほしいのだとコーリャは解釈した。マリヤも、反対はしなかった。

 コーリャがバイトに行こうとした時、ジナイーダが彼の腕にすがりついて止めた。

「一緒にいて」

「すぐに戻ってくるよ?」

「逃げないで。ここにいて」

 シロンが苦笑いしながら助け船を出す。

「僕が働きに出る。ずっと君たちに任せきりだったし」

「でも……」

 シロンが日中家を出たがらない理由は皆知っている。知り合いに会うのが怖いだけでなく、母親が帰ってくるかもしれないと望みをかけ続けているのだ。部屋の外でちょっとでも物音がすると、シロンはすぐに外に出る。一時間に何回も郵便受けを探り、手紙が来てやしないかと待っている。

「マリヤとベグと行くよ。留守番お願い」

 残されたのは、二人の女子とコーリャだけだ。アリーがコーリャとジナイーダに話しかけるが、ジナイーダは返事をしないばかりかコーリャがアリーと話していると袖を引いたり割って入って邪魔をした。しまいにはアリーも呆れて家の中にあった本を読みふけるようになった。

 公園で会うときは、ジナイーダは割におしゃべりだ。気分の浮き沈みは激しいけれど、だんまりでコーリャを戸惑わせることはあまりない。だが今は、頑なに口を開こうとしない。

「ね、今頃お母さんが心配してるんじゃないかな?」

 ジナイーダは首を振った。

「母さん……は、気にしないから」

「じゃあ、お父さんは? すごく厳しい人なんじゃないの?」

 何しろ、彼女の夜間外出を咎めたのだ。

「……そうね」

 彼女はうつむいて小さく答えた。

「怒られるんだったら、僕も一緒に謝ってあげるよ」

 ジナイーダがはっと顔を上げた。

「本当?」

「うん。あ、でも、上手く説得できるかはやってみなきゃ分からないけど……」

「構わないわ。父さんに会ってくれる?」

「……怖い人かな?」

「大丈夫。きっとコーリャには優しいわ。ね、今から家に帰りたい」

 ジナイーダはそれまでとは打って変わってコーリャに訴えた。少し安堵して、コーリャは立ち上がる。ジナイーダも俊敏に体を伸ばした。外傷はひどく見えたが、骨折などには至っていないらしい。

「じゃあ、行ってくる」

「待って」

 アリーが二人をまじまじと見つめている。


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