第12章 5 喧嘩
だがベゲモートは、コーリャに支えられたジナイーダを見てたじろいだ。
「何でこいつが……」
「怪我してる。泊めてあげよう」
コーリャは早口で言って、ベゲモートを押しのけた。
「マリヤが怒るぞ」
ベゲモートがからかったが、誰も返事はしなかった。
部屋の中では、アリアズナが泣いていた。タオルを顔に押し当てて嗚咽を押さえ込もうとする彼女の側にマリヤもいる。困った顔でアリーの髪を撫でているが、コーリャとジナイーダが入って行くとぱっと顔を上げた。
「コーリャ……何で!」
「怪我してるんだ」
マリヤはそれだけでは納得しなかった。
「何があった? その子には帰る家があるんじゃないの?」
ジナイーダは床に座り込んだきり、相変わらず貝のように口をつぐんでいる。マリヤやアリーのことなど目に入っていないようだ。
「そっちこそ、何かあった?」
続いて入ってきたシロンがマリヤに尋ねた。
「ベグが走って出て行ったけど」
「あー……ちょっと喧嘩したのさ。アリーとベグがね」
ぞろぞろとドミトリーやオレグまで入ってくるのを見て、マリヤは目を丸くした。
「随分沢山お客さんがきたね……」
皆が座ると、部屋はいっぱいになった。ジナイーダが少し居心地悪そうにしている気がした。ドミトリーは部屋の中を見渡して驚いているが、楽しそうでもある。オレグはなんとも言えない顔でシロンを窺っている。
「……何か?」
シロンに話しかけられ、オレグの肩が跳ねた。
「さっき、めちゃくちゃなことを言って悪かったな……」
「僕もだよ。ごめんね」
見守っていたマリヤが溜息をつく。
「ベグとアリーもこんな風に仲直り出来たらどんなに楽か」
アリーの泣き声が大きくなった。誰も詳細を聞くことができない。だが、彼女を止めたのは意外な人物だった。
黙っていたジナイーダが、はっきりと言った。
「うるさい。傷に障るから、静かにして」
アリーが反射的に自分の口を塞いだ。マリヤの目が尖る。
「はあ? あんた、何様のつもりで……」
しかしジナイーダはもう彼女たちの方を見ていない。コーリャにもたれかかって、虚ろな目で壁を見ている。しゃっくりを止めようとアリーが部屋を出て行った。マリヤを押しとどめてシロンがついて行く。
「で? あんたたちがその子の代わりに説明してくれんの?」
不機嫌なマリヤ。
「僕らもよく分かってないんだけど……」
「取りあえず、公園にこんな奴を置いておく訳にはいかないだろ」
オレグが肩をすくめた。
「だったら、家に帰せばよかったじゃないか。あんたには、あたしらと違って自分の家があるんだから」
「帰りたくない……ってさ」
自分の話をされていても彼女は反応すらしない。
とうとうマリヤは呆れてそっぽを向いた。
「もういいよ。怪我してるんなら、絆創膏あるから使いな」
「ジナイーダ、いい?」
絆創膏を手に確認すると、ジナイーダは受け取って自分で貼った。ますますマリヤがふてくされた。
「すっかりお姫様気分だね」
寝るときも、ジナイーダはコーリャの側を離れようとしなかった。




