第11章 4 記者
だが、思いがけない闖入者が決闘__いや、もはやただの戦いをやめさせた。
「やめろ! リンチか? 戦争か!」
裏返った声で叫ぶ中年の男に何となく場が白けた。が、アリーとマリヤ、コーリャは男の正体に気がついて青ざめた。
「あんた、赤の広場で……!」
「やあ」
乱れた髪の毛をうっとうしげにかき分け、記者は苦笑いした。
「君たちにこんなところで出会うなんて!」
息を弾ませたドミトリーが、組み合ったままのコーリャに聞く。
「知り合いか?」
「うん、まあね」
マリヤがさりげなくアリーを庇いながら声を上げる。
「あんた、逮捕されたんじゃなかったのね」
「されかけたよ、君のせいでな」
記者は地べたに腰を下ろし、煙草を取り出した。
「あの後、本当に大変だったんだぞ。アリアズナを誘拐したのは私だと疑われるし、カフェにいた店員はなかなか証言してくれないし……」
「でも、あんたは無事に娑婆を歩いてる。よかったね」
オレグがドミトリーに囁く。こいつら、何の話をしているんだ? アリアズナと言ったか?
アリーは、いつの間にか変装を丸っきり解いてしまっていた。ドミトリーが彼女にふと視線を向けて、目を見開いた。
「そんで、あんたはここに何をしにきたんだ。あたしらを捕まえるのか?」
「君たち大勢に対して私一人で? 無茶だろう。自分がそこまで強くないことはよく分かってるよ」
記者は、まだ自分を警戒している子どもたちに向かって両手を挙げてみせた。
「その上、丸腰だ。ほらね」
「でも、どうしてここが分かったんですか?」
コーリャが質問した。
「君たちを追っかけていた訳じゃない……本当だよ。ただ、この工場をずっと張っていたんだ」
「何で?」
「貴方は刑事ですか?」
オレグも不審げに問いただした。
「いや、一介のジャーナリストだよ。何の権力もない。……君たち、ここがどれほど危険か、知らないんだろう?」
コーリャたちは今初めてここに来た。彼らよりずっと詳しいはずのドミトリーたちも首をひねっている。
危険と記者は言った。じわりと得体の知れない恐怖が湧き上がる。
「この廃工場は、反社会的集団__いわゆるマフィアの巣窟だ。今彼らがいないのが奇跡なくらいだよ」
アリーがひっと悲鳴を上げた。マリヤは疑り深くドミトリーたちの顔を観察する。彼らも危険な橋を渡っていたことに驚いているようだ。
「本当に、何も知らなかったのか? ただの子どもの遊び場だって言っていたじゃないか!」
「だって……昼間は、本当に近所の子どもがかくれんぼをしていたんだ……」
「その中の何人が、無事に家族の元に帰れたかな」
記者が意地悪に呟いた。
「やめろ、考えたくもない」
マリヤは首を振る。
「とっとと出ようさ、こんなところ。決闘なら他の場所でできるだろ」
「そうだね……」
元気がなくなったドミトリーに比べて、オレグは平然としている。
「あの公園に戻るか?」
「遠くない? もうすぐ明日になるよ。一日待ったらどうかね」
「ドミトリーはどうしたいんだ」
オレグに聞かれて、青い顔のままドミトリーは答えた。
「今日は帰ろう。明日の夜、ネスクーチヌィ公園で」
シロンが眉を上げた。
「じゃあ、明日、コーリャはジナイーダと会ってから決闘するってこと?」
その途端、ドミトリーがまた怒り出した。コーリャがジナイーダとこっそり会うのは一日でも我慢ならんという訳だ。
「じゃあやっぱり今続けた方がいいのかなあ」
記者が口を挟む。
「君たち、決闘をするつもりなのか?」
「途中であんたが邪魔したからね」
「それは失礼。だが、私が判定者を務めようか?」
「貴方はコーリャの知り合いじゃないか。不公平だよ」
「大丈夫。このガキどもに思い入れはないから」
ひどい言い草だ。血で濡れたオレグの腕に、アリーが布を巻いてあげていた。腕にそっと触れながら、オレグはもう一つけちをつけた。
「さっき、そこのちびが加勢しただろ。それはまだいいが、人数の面で不平等だ。お前らの誰か一人はこっちの味方をしろ。そしてもう一人は参加せず見てるだけだ」
「やれやれ、何が決闘だよ。ただの戦争ごっこだ」
マリヤが呟いた。話し合いの結果、アリアズナが見物に徹し、シロンがドミトリー側に加わることになった。やいのやいの言いながら取り決めする子どもたちを見守りながら、記者は温かな気分になったことに驚いた。




