第11章 2 ドミトリーとオレグ
束の間落ちた沈黙を最初に破ったのは、オレグだった。
「あ、俺が立会人兼介添えだ」
コーリャはマリヤと顔を見合わせた。
「そっちの立会人はそのお嬢さんでいいか?」
「? うん……」
「あのね、あたしら全く意味が分からないんだけど」
「ルールは至って簡単だ。武器なしで、相手が降参するまで戦う。介添え人は、自分の決闘人が戦えなくなった時に初めて決闘権が与えられる。禁じられているのは目潰しと急所攻撃だ」
「いや、ルールを知りたいんじゃないんだよ。何でこいつとあんたが決闘しなきゃなんないのさ?」
「そして、賭けるのが__ジナイーダだ」
マリヤはやれやれと首を振った。
「あんた、ジナイーダの取り巻きか何か? コーリャは彼女の恋人でも何でもないよ」
「取り巻きじゃない。ドミトリーはジナイーダとお付き合いしてるんだよ」
コーリャは驚いた。
「そんなの、彼女は言ってなかった!」
「浮気相手にそんな話をするかな?」
オレグが冷静に切り返した。
ドミトリーは憤まんやるかたなしとコーリャを睨んでいるが、落ち着いて見るとジナイーダに負けず劣らず美男子だ。連れだって表を歩いていると誰よりも目立つだろう。
「そんで? あんた、ジナイーダに捨てられたの? やめときな、あんな異常な女」
「ジナイーダを侮辱するな!」
マリヤに向かってドミトリーの怒りが爆発した。
「あの子は天使だ。君のようなどこにでもいる女の子とはまるで違う! あの子と出会って、僕の人生は変わった」
「……ジナイーダがどんな女かはともかく、ドミトリーは本気だ。決闘、受けてくれるね?」
オレグが確認する。マリヤがはねのける前にコーリャはうなずいた。
「やるよ。相手になる。ジナイーダのために戦う!」
「決まりだな。おあつらえ向きの穴場があるんだ。来いよ」
ドミトリーとオレグがさっさと並んで歩き始めた。
マリヤがおかんむりである。
「冗談じゃない! 何でジナイーダのために、あんたが戦うんだよ!」
「だって、断れない雰囲気だったし……」
「おまけに、そんなしょうもない決闘の立会人をあたしがやるって? 反吐が出る!」
「仲間の中で一番頼れるの、マリヤじゃないか」
コーリャはマリヤの手を握った。
「お願いだよ、一緒に戦おうよ」
憮然としていたマリヤだったが、やがて渋々うなずいた。
ドミトリーに向かってコーリャは尋ねた。
「審判はいないの?」
「決闘につきあってくれたのが、オレグしかいなくてね」
「俺だって、暇な訳じゃないんだけどな」
オレグがぼやいてみせる。
「まあ、これ以上恋愛でボケボケになってるドミトリーを見るのは嫌だったから、いっそ決闘でも何でもしてけじめをつけてこいって尻をはたいたのさ」
「奇遇だな。あたしも、コーリャがジナイーダにでれでれしているのは嫌いだ」
「でれでれしてないよぅ……」
ドミトリーたちが向かう先は、シロンの家がある方向だ。怪訝な顔をする後ろの二人にドミトリーが説明する。
「去年の夏に倒産した工場がまだ取り壊されないで残っているんだ。子どものいい遊び場さ」
「そこ、大丈夫? 危ない場所じゃないだろうね」
危ぶんだマリヤだが、シロンのアパートに近づくとこう提案した。
「ギャラリーを連れてきてもいいか。あたしらの仲間だよ」
「何だ、やけに乗り気だな」
「違うよ。あんたらが審判もいないって言うから」
「お前達の仲間なら、コーリャに有利な判定をするんじゃないか?」
「ちゃんと公平な奴を選ぶよ」
かくして、家で半ば眠っていた三人を引っ張り出し、子どもたちの集団は廃工場に来た。マリヤの心配とは裏腹に、人気の全くない工場には、資材や工具が散らばっていた。




