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第10章4 ジナイーダ・アカトヴァ

 おずおずと姿を見せたのは、三人が呆然とするほど美しい少女だった。


 癖のない腰までの金髪は太陽光にきらきらと輝いて、風に揺れるたびに透き通るように儚く浮き上がった。空色の瞳が三人を捉え、三度瞬きした。すっきりと通った鼻筋、ふっくらとした頬骨、小さくさくらんぼのような色に輝く唇。全てが完璧に調和している整った顔は、困惑のために軽く引き締まった。


「あなたたち……誰?」 

 彼女の声は鈴を転がしたみたいだ。月並みな言い方だけど、コーリャはそう思った。

 コーリャは返事をしようとした。だけど、喉がからからに乾いて上手く声が出ない。何て言おうか、上手い言葉も思いつかない。できることなら、彼女におべっかでも使って今すぐに仲良くなりたいところなのに。

 マリヤが不機嫌そうに鼻を鳴らした。一向にコーリャが黙っているのに呆れて、代わりに彼女が問いかけた。

「ジナイーダ・アカトヴァだね?」

 少女の陶器のように滑らかな肌に、ほんのりと薄桃色が差した。

「ええ」

 彼女の家の玄関はまだ開放されたままだ。土いじりの途中だったはずの母親は出てこようとしない。マリヤは、えいっと例の手紙を彼女の目の前に突きつけた。

 ジナイーダが一歩後退する。

「この手紙を送ったのは、あんただね?」

 まさか。そんなはずがない。コーリャはぼんやりと頭の中で思う。この美しい少女が僕に変てこな手紙を何度も送ったなんて、そんな夢みたいな__

「コーリャ、しっかりして」

 アリーがコーリャの腕を取り、囁いた。その様子をジナイーダが冷たく眺めている。問いかけたマリヤを無視して、ジナイーダはコーリャに話しかけた。

「じゃあ、あなたがコーリャなのね」

「そ、そうだよ」

「手紙を読んで、ここまで来てくれたのね」

 ジナイーダは艶然と微笑んだ。

「嬉しい。わたし、あなたにずっと会ってみたかったの」

 マリヤにきつく睨みつけられているのに、コーリャは嬉しくて仕方がなかった。

 玄関の奥から、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。母親が戻ってきたのだ。急にジナイーダは真顔に戻り、冷たく言い放った。

「帰って。あなたたちに用はないから」

「え?」

「何だよそれ」

 マリヤも困惑して文句を言う。それでもジナイーダは首を振る。

「帰って!」

 外に出てきた母親が、娘の剣幕に驚いている。

「ジナイーダ、帰っていただくんでいいの?」

「いいの」

「クッキーと紅茶くらいならお出しできるけど?」

「いい、要らない。この人たちはわたしの友達でも何でもないから」 

 ジナイーダは一歩踏み出し、コーリャの耳元でもう一度言った。

「帰って!」

 甘い彼女の息をもろに浴びて、動悸がした。ぼうっとする彼に、ジナイーダがさっと囁いた。

「夜九時に、ネスクーチヌィ公園に来て。あなた一人よ。絶対ね」

 それから強い勢いでコーリャを突き飛ばし、ジナイーダは家の中に戻って行った。残された母親が曖昧に微笑みかける。

「どうも気難しい子で……。どうか、懲りずに仲良くしてやってちょうだいね」

 その時うなずいたのはコーリャ一人だ。マリヤたちは顔をしかめ、こっそり指をクロスさせていた。


 折角やってきたお客様を追い返したと、ジナイーダの母親は少し腹を立てていた。

「あんな断り方をしたら、失礼じゃないの! ただでさえあんたにはお友達が少ないのに……」

「お友達なら、他にもいるわ」

「でも、家にちっとも呼ばないじゃないの」

 当然だ。ジナイーダは心の中で悪態をつく。少しでも好きと思う友人なら、決して家に招待などするものか。

「あの子たちはどうなったの? 昔仲良くしていた、タチアナやイヴァン、ユーリは!」

「引っ越したわ。遠くにね」

 ジナイーダは何の感情もこもらない声で答えた。

 その時、二階からジナイーダを呼ぶ声がした。母親の怒り顔がすっと平坦な表情に戻り、ジナイーダに階段を上がれと促した。ジナイーダは淡々とそれに従い、母親は再び日除け帽子を被って外に出て行った。さっきの子どもたちはもういない。がっかりして帰って行ったのだろう。母親は鼻歌を歌い、二階から微かに漏れてくる話し声をかき消した。



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